13.ひょんなとこから…コレってマジ!?
実は「瓢箪からコマ!?」って言いたいだけ
朝、室内はカーテンを掛けてもいないというのに、僅かに明るくなったかなと感じる程度の薄暗がり。
早寝したお陰でぐっすりと眠れたから、今日もいつも通りの時間に目が覚めた。
あくびと一緒にうーんと伸びをすると、隣から声が聞こえた。
「ハル様、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」
うん、昨日は久しぶりにお風呂に入ってマイスにマッサージしてもらって、マイスの蔓で改造したベッドでふわふわの綿花に包まれて夢見草の香も焚いて、爆速入眠丸だったのよね。気付いたらマイスが隣で寝てるわけだけど。
「おはようマイス。最高によく眠れたわ。ありがと」
「光栄でございます」
「ぅよっしゃ!起きるよー!」
とことん甘やかそうとするマイスに朝の準備を手伝ってもらって、いつもと同じ朝のルーティーンをこなしていく。
顔を洗って歯を磨いて、動きやすい服に着替えたら炊事場に向かう。部屋を出ると、コウくんライくんジンくんサリーちゃんが勢揃いで待ってて、みんなで軽く朝ごはんを食べる。
昨日の塩漬け肉を戻した汁から作ったスープと芋餅を食べたら中庭に行く。中庭には農業担当のコボルトさんが既にいるから朝の挨拶を交わして、一番隅っこの歪な畑に向かう。
そこはあたしが最初に実験してたエリアなんだけど、朝と夕方に様子を見るのが習慣になっちゃったから、そこだけは今も自分で面倒見させてもらってるの。
極少量の灰肥料を植物の周りに撒いて、魔法の水をスプレー状にしてたっぷり吹きかける。葉っぱに悪さをするような虫もいないけど、念のため一つ一つチェックして回る。折れた枝葉や枯れた葉があれば摘んで肥料行きに。照明の熱で弱ってる子もいないし、みんな元気そう!
「よし、朝の見回り完了っと」
そういえば、ずっと疑問に思っていたことがあったからマイス達に聞いてみることにした。
「ねぇねぇ、この植物って何て名前か分かる?」
「この植物がどのような特徴を持つのかは分かりますが、何と名付けられるのかについては判り兼ねます」
「魔国の人達は何て呼んでるんですかぁ?」
「それが、芋!とか葉っぱ!としか言わないのよ」
「それでは迷宮主腕輪で読み取っては如何でしょう?簡易識別なら可能なはずです」
この腕輪にそんな機能が!?ちょちょいと操作を教えてもらって、まずはお芋さんからスキャン!
タイナップポタロ:三本の太い蔓を地面に這って伸ばすのが特徴の植物型モンスター。三本の蔓の中心部に重さを感知すると蔓が螺旋状に絡み締め上げる。
「んん?見間違いかな」
目元を揉んでから瞬きをしてもう一度モニターを見てみても、表記は変わらず植物型モンスター……。
「と、とりあえずもう一つの方も見てみようかな!」
黄色い花をつける植物の方をピッとスキャン!
シェイキングアンジェリカ:自ら揺れることで自家受粉を促したり外敵から身を守る植物型モンスター。成長した個体は真っ直ぐ伸びた茎の頂上に一際大きな花をつける。
「んんんん??見間違いじゃあなさそうだねぇ」
「そのようですね。よく見てみると、ハル様が世話をするこの植物達と、他の植物は少し違うように見えます」
「あっ、本当だ!」
タイナップポタロは他のお芋に比べると明らかに蔓が太いし赤い筋が入ってる。
シェイキングアンジェリカは、茎の中程から伸びる一対の花は変わらないけどテッペンには大きな花が咲いてるし、動きに意思のようなものを感じる。片手をブンブン振ってるように見えるのは気のせいじゃないはず。
試しに、他の畑で育つ植物をスキャンしてみると、それぞれベルベットポタロ、イエローアンジェリカと出た。そっちはただの植物として表記されてる。
あっちとこっちとを見比べながらうんうん唸ってたら、誰かがツンツンと服の裾を引っ張ってるのに気付いた。
服の裾を見ると黄色い花。器用に花びらでキュッと摘んでる。
裾を掴むシェイキングアンジェリカは、ぐいぐいと同じ方向に揺れてる。というか引っ張ってる?
「何か伝えたいことがありそうに見えるんだけど、何て言いたいのか分かる?」
「わたし多分分かるよ!」
サリーちゃんが元気よく手を挙げたからお願いしてみることにした。
一度裾を持つ花を放してもらって、両腕の花をサリーちゃんの手に載せてみる。
目を閉じて集中してるサリーちゃんは、うんうんと嬉しそうに頷いてる。それがしばらく続いてくと、だんだん眉間に皺が寄り始めて冷や汗までかき始めたところでバッと顔を上げた。
「ハル様!ダンジョンの入り口が分りました!」
「マジで!?」
「ただ、ちょっと危険な情報もあるので、急いで皆様を集めてください!」
「オッケー!」
気付けばもう十時になる頃だし、食堂とか人の集まりそうな場所で呼び掛けて執務室に集まってもらう。
十分もしない内に執務室に全員が集まった。ダンジョンの入り口が分かったよ!って声掛けたから、まだ寝惚けてるザグもマイルズに担いで連れてこられてる。
「それで、ダンジョンの入り口はどこだったのだ?」
「あたしもまだ知らないの。よろしくねサリーちゃん」
「はい。まず、ダンジョンの入り口は北東の枯れた井戸、その中にあるそうです」
サリーちゃんがそういうと、ルシャさんが部下に指示を出して確認させに行った。
話の違和感にホルストが聞き返す。
「“そうです”ってのはどういうことなんだ?それに他にも何かあるみてぇだしよ」
「はい。この情報は中庭のある植物から聞きました。ハル様が育てていた植物が自我のあるモンスターへと進化していたのです」
「なんだとっ!?」
一番驚きを露わにしたのは魔王。本来新たな種の誕生は極めて珍しいことで、また自らの支配領域で預かり知らぬことが起きたことへの動揺が隠せなかった。
「目覚めたのはつい先程、今朝のことです」
「通常ありえないことではありますが、ハル様が目を掛け手を掛け魔法で大事に育てられた植物です。進化しない方がおかしいでしょう?」
「そ、そうなのか…?」
魔王に変な顔で見られたけど、そんなわけないでしょう。あたしは肩を上げながら首を横に振る。
マイスの暴論で無理くり話が本題に戻ってきた。
「この地で古くから生き残ってきた彼等には、連綿と受け継がれてきた記憶がありました。突如現れたそのダンジョンは地中の栄養を根こそぎ奪っていった。不幸にもそれが世界的に魔素の流れが乱れた時期と被ってしまい、発見されることがないまま知恵をつけたそのダンジョンは徐々に地力を吸い取っていくことに切り替えたようです」
千年も昔の出来事をまるで見てきたかのように語るサリーちゃんに、言葉が出なくなる。
誰かの生唾を飲み込む音が聞こえ、サリーちゃんは更に続ける。
「100年の月日が経ち力を蓄えたダンジョンは、自らの好む環境を作るべく動き始めました。それは陽の光を遮る厚い雲を呼びこの地に留めること。この土地から栄養を奪い湿気を好む生き物、それは……キノコです」
「…つまり、今尚雲が広がり辺境の地までもが地力を弱めているということは…この国どころか全てを…」
「はい。喰らい尽くそうとしています」
あまりに規模の大きい話にみんな絶望的な表情をしてるんだけど、キノコだよ?焼き払っちゃえばよくない?
「彼のダンジョンは大々的な活動をしてきたわけではありませんが、それでも千年を生きた化け物です。油断なさらぬように」
あっ、はい。
「いいじゃねぇか。要は焼き尽くせばいいんだろ?手っ取り早い」
そうよね。分かってんじゃんホルスト。
「千年もの永きに亘って我等魔族を苦しめてきた者であろう?滅ぼす以外有り得ぬ」
これが魔王のガチギレなのね。こわーい。
「……この星を滅ぼさんとする行いには女神様もお怒りのようです。俺のやるべきことはこれだったみたいですね」
お、マイルズもやる気満々ですねー。
「では、準備を整えて向かうぞ!彼のダンジョンへ!!」
「おう!!」
魔王様指揮の元、なんかみんな団結して話が進んでるんだけど、あたしノリについていけてなくない?
えっ、ちょっと待って!あたしも行くんですけどー!
タイナップは締め上げるという意味、ポタロはモチーフとなったさつまいも(スイートポテト)と里芋 (タロ)を合わせて名付けました。ベルベットは芋がビロードのように細かい産毛に覆われていることからで、色はサリーちゃんの種族名と被るのが嫌で取り上げていません。
アンジェリカは明日葉の学名から、茎の頂点で咲く大きな黄色い花が王冠のように見えることから、シェイク(揺れる)+キングでシェイキングです。モロヘイヤの語源「王様の野菜」からも拝借しています。
イエローアンジェリカは、緑の濃くなった葉ではなく黄味の強いフレッシュな若葉を採って食べることや、花の色からイエローとしています。




