9.再会を誓って
マイス視点から始まります。
愛しいあの方との繋がりが失われてからどれくらいの月日が経ったのだろう。
身体の大部分を失ったかのような喪失感に苛まれ、今が昼なのか夜なのか、どれくらいの時間が経ったのかすら分からないでいた。
あの方を救い出すための策を講じて、忙しさに身を任せることで何とか持ち堪えてきた。
しかし、それもこれまでだ。
情報収集しながら魔境を目指していたコウ達からの連絡が届いた。
『魔王城を遠見の魔法にて確認。これよりカゲアンナへと連絡を取るために接近する』
やっと。やっと魔王城の場所が判明したのだ。
念話による連絡網を構築するためにダンジョン外にいるエスケープスネークの位置はわかっている。それを辿らずに最短距離になる道を導きだす。
休みなく走れば五日…いや、飛ばせば三日で行けるだろうか。
代理とはいえダンジョンマスターがダンジョンから離れるわけにはいかない。が、そんなもの知ったことではない。この日の為に用意をしていたのだ。
樹妖精のメルをモニターから呼び、私は全身を覆い隠せる黒染めのマントを羽織る。
「お待たせ」
すぐに現れたメルは、元気のなさそうな顔をしているが瞳にはやる気を漲らせている。
「やっとあんたの出番ってワケね。ダンジョンはあたしに任せて、頑張ってきなさいよ!」
私は兼ねてから木を撚り合わせて私そっくりの木人形を作り上げていた。胸元にはメルが入るための空洞がある。
メルが空洞に入り胸元を閉じてから、木人形に魔力を巡らせ色味や質感を同調させる。
今作り上げたのは私がダンジョンを離れるための影武者だ。白く滑らかな肌に黒く染まった葉髪、頭部に咲いていた花は赤く色付いて咲き乱れ、巻きつく黒茨には艶めくルビーのような果実が実っている。
…どうやら、いつの間にか進化していたようです。なぜ気付かなかったのでしょう?
何はともあれ、力が湧いてくるのを実感致します。
これなら魔王城まで三日は余裕でしょう。
「それでは、我らがマスターを連れ戻しに行ってきます。後のことは頼みましたよ」
「うん!行ってらっしゃい!!」
腰から下を馬のような形に作り替え、ダンジョン頂上エリアを全速力で駆け出す。
思い切り踏み切ると地面が遥か下方に見える。長い滞空時間の後、爆風を巻き起こしながら着地して一直線に走り出す。
あぁ…ハル様。
ハル様ハル様ハル様!愛しい我がマスター…!マイスが今お助けに参ります!
─────
高台に生えた背の高い樹に登り、遠見の魔法をかけて魔王城を確認したわたしは、蔓に腰掛けてスルスルと滑り降りる。
天気は相変わらず気味の悪い曇り空。
人族の領域から離れ魔境へ向かうと、茂っていた草原や森が段々と荒地に変わっていった。その変化に合わせて空模様も仄暗くなっていき、雲の隙間から空が覗くこともなくなった。
わたし達植物型モンスターにとっては中々に堪える環境だけど、いつの間にか気にならなくなってた。
地上まで降りると、立派な体格の三人の騎士と白鱗の竜が待っていた。
背の高い騎士が脱力しながら声を掛けてくる。
「きっとすぐにマイスさんからの返信が来るぜ。本人もすげースピードで向かってるんだろうな」
続けて恰幅の良い騎士がのんびりとした口調で話す。
「マイスさんとは言え、大分距離があるよぉ?すぐには無理じゃないかなぁ」
「おっと、噂をすれば返信が来たぜ。『了解、三日で着く』だそうだ。ヒェ〜」
剣を携えた騎士の懐から顔を出した蛇が返信を告げる。
「…これはうかうかしていられませんね。サリー、方角はどちらですか?」
「お城は北北東。障害物に隠れて行けるように東に大回りしていくといいよ」
早速荷物をまとめて魔王城へ向かって進み始める。
わたし達はダンジョンを出発してから、魔の森深部を通り抜けて道なき道を進んで王都を目指した。
手強いモンスターを相手に戦いを挑み、倒した相手を吸収することで回復して更に戦い続けた。過酷な道のりだったけど、辛いとは思わなかった。
なぜなら人の目を気にすることなく戦えたから。我武者羅に戦っている内に強くなっているのを実感した。
最初に変化が起こったのはランだった。
鱗が頻繁に抜け落ちるようになり、病気を心配していたら緑の鱗ではなく白い鱗が生えているのが分かった。
白い鱗が生え揃うと弱々しくもブレスが吐けるようになった。ドレインの速度や性能も跳ね上がり、吸収した相手は跡形もなく消えた。
それまであまり戦闘に貢献できなかったランが一回り大きく進化すると、ますます強い相手にも戦いを挑むことができるようになった。
わたしが毒魔法で牽制して、ジンが盾で攻撃を弾いた隙にランが噛みついてドレインし、コウとライが弱点を狙う。危ない場面は何度もあったけど、連携して粘り強く戦うことで最後には絡め取ることができた。
そうして戦い漬けの日々の中、時折人族の街に寄って情報収集も行った。
倒したモンスターの希少な素材だけを集めておいて街の冒険者ギルドで売り、酒場で情報収集をする。
夜が更ける頃に門番を昏倒花の香りで眠らせて街を出て、また人の踏み入らない領域へと戻る。
そんな折、冒険者ギルドでお爺さんに声を掛けられることがあった。
「お前さん達や、何だか装備が窮屈そうだねぇ」
普段から頭まで外套で覆い隠すようにしていたから、わたし達の誰も全く気付いてなくて、みんなで顔を見合わせた。
ちょうど使う当てのないお金があったから、そのお爺さんがやっている防具屋に行ってみることにした。
そこで久しぶりに鏡をみることになり、私たちが進化していたことに気付いた。
私もコウ・ライ・ジンも背が伸びていて、人族と見分けがつかない程の質感になっていた。
私は血色のない肌に白い髪、紫紺のとんがり帽子を被った姿で、三人は涙痕のある大柄な騎士になっていた。
確かに子ども用の装備を着けているみたいで窮屈だったから、防具を見繕ってもらう。
最早外見でモンスターだとバレることはないが、丈夫な外套も新調して旅を続けた。
ランはどんどん大きく立派になり、私達もモンスター討伐の成果でB級まで冒険者ランクが上がった。
魔境に現れるモンスターは特に強力な者が多くて、太陽の恵みを受けることができないこともあり苦戦を強いられた。
それでも倒れ伏すことなく戦ってこられたのは、決死の覚悟があったからだと思う。
わたし達はマスターを取り戻すためにまだまだ強くなるんだ!
コウ・ライ・ジン・サリー・ランの道中はとても過酷で描写するにはハードすぎるので、ふわっとさせています。
…今更でしたかね?ゆるふわ成分早く帰ってきて!!




