2.三人の旅路
マイルズ視点です。
激しめのバトル表現がありますが、スプラッターしてはいない…と思います。苦手な人はお気をつけあそばせ。
「ヘブシッ!ヘブシッ!!」
もう少しで王都へと着く街道の途中で、茂みから現れたダイアウルフの群れを倒して剥ぎ取りをしている最中に、急にくしゃみが出た。別に寒くもなんともないのになぁ。
「誰かに噂でもされてるんじゃない?勇者サマ」
「茶化すなよ。そんな柄じゃねぇんだ」
「そんなこと言ってー、満更でもなかったじゃん」
「……マーク達?……」
それだ!どうせサラ辺りが何か噂でもしてるんだろうな。
俺に勇者の証拠である剣の紋様が浮かび上がってハルを助ける旅に出ようと決めてから、まずはイグナシオの冒険者ギルドでその報告をした。
ギルマスのガルニアさんにはそれはもう驚かれたが、すぐに色んな手配をしてくれた。
王都までの地図を頼りに、途中の街に寄りながら旅を続けてきたが、冒険者ギルドに寄る度に受付嬢が騒ぐもんだからジークによく茶化される羽目になった。
もちろんギルド間で何かしら連絡を取っていて、俺らの情報が知れているんだとは思う。
だが、ガルニアさんから街に着く度に冒険者カードの更新をした方がいいと言われたから実践しているだけで、チヤホヤされたいわけじゃないんだけどなぁ。
冒険者カードを更新していく内に、ガルニアさんがなんでそう言ったのか理由が分かった。
俺ら三人共の成長速度が異常に早いのだ。
イグナシオの街では勇者として獲得した【剣術】のスキルしか所持していなかったが、次の街で更新した時には【初級光魔法】が、その次には【盾術】がスキル欄に増えていた。
ジークもスキルが発現したり魔術の習得スピードが上がったし、ザグは敏捷値の伸びが凄まじいことになっている。
これを異様に感じた俺達は道中の冒険者ギルドで高齢のギルマスに尋ねてみた事がある。
ギルマスが言うには、勇者とそのお共には女神の加護が与えられるそうで、ギルマスなどの責任ある立場のものにはそれが伝えられているそうだ。今回の著しい成長はその加護によるものであろうということだ。
戸惑うこともあったが、スキルが増えたおかげで三人でも問題なく旅を続けることができた。
ジークに発現したスキルは【魔物知識】と言って、見たことのない魔物であってもどこが弱点なのかなんとなく分かるようになるものだ。一度見たことがあればもっと詳しく分かるっていう優れものだ。
ちなみにザグのスキルは【アニュクィスの囁き】っていう名前で、夜と静寂の女神アニュクィスの囁き声まで聞こえるくらい耳が良くなるってスキルらしい。
ザグが魔物を見つけてジークが弱点を見破って三人で戦う。傷ついたら俺が光魔法で回復をする。
王都へ繋がる街道を旅しているにも関わらず魔物はよく出てくるし、弱い魔物っていうわけでもない。俺とザグはイグナシオから出るのが初めてだからあまり分かっちゃいなかったが、ジークが言うには少しおかしいみたいだ。
剥ぎ取りが終わったダイアウルフの後処理をするついでに、食べられそうなところを昼飯代わりに焼いて腹を満たす。ウルフ系はあまり美味しくない魔物だが、一度茹でてから白銀フェンネルの種をまぶして焼くと全然イケる感じになっていた。
「ジークのおかげで味の心配も腹を壊す心配もないからいいよな!」
「…うまい…」
「全く、人のスキルを便利に使ってくれちゃってさ」
ジークはブーたれたように言うけど、元々料理好きでダンジョンでも香辛料集めてたみたいだからこのスキルはあいつに合ってんじゃねぇかと思う。
腹ごなしも終わったところで、王都までもう少し頑張りますか!
昼休憩から三時間、道中出てくる魔物を倒したり避けたりしながら歩き続け、緩やかな峠に差し掛かった。
そこでザグが立ち止まってハンドサインを出す。耳を澄ましてすぐに「…戦闘…魔物…」と言う。
それだけ分かれば十分。俺達は峠の頂上まで走り出した。
峠を登り切って開けた視界の先には一台の馬車と何頭かの馬、そして一体の魔物と戦う騎士達がいた。
猪程の大きな体躯に鋭い牙と爪、自在に動く蛇の尾を持った黒い獣。
「あれは…エリュセロス!?こんな所に出るような魔物じゃないぞ!」
「戦場に彷徨う猟犬って御伽噺のあいつか!?とにかく助けに行くぞ!」
「…………」
無言のまま頷いたザグがエリュセロスに向かって走っていく。馬が駆けるよりも早く近付いたザグにも機敏な反応を見せるエリュセロスは右脚を振るう。
鋭い爪が当たるかというところでザグは大きく跳躍して投げナイフを迫り来る蛇の尾に向かって投げつける。
ナイフは蛇の鱗を掠めていき傷をつけるには至らなかったが、エリュセロスの注意を引くことはできたようだ。
新たな敵の登場にエリュセロスが慎重になった隙に、俺達は戦ってた騎士と合流する。
「何者だ!!」
「旅の冒険者だ!協力する!!」
「冒険者風情が余計な真似をするな!」
「黙れ!今はそんなことを言ってる場合ではないだろうが!協力感謝する!!」
若い騎士が食いついてきたが、俺達としてもあんな魔物がいたんじゃ困るから拒否されても勝手にやるつもりでいたんだが、隊長らしい騎士から許可が出たのでヨシとしよう。
既に二人負傷している騎士がいるが、おまじない程度の回復魔法でどうこうできるものではないからすぐにエリュセロスの方へ向かう。
盾を構えた騎士が間隔を空けて包囲している中、ザグはその間を走り回るようにしてエリュセロスの気を引いていた。
ジークが魔力を高め終えるまではジークの前を陣取り、準備ができたところでザグに合図を出す。
「ザグ!OKだ!」
「……」
ザグは無言で頷いてエリュセロスに急接近し、フェイントを交えて敵の攻撃を避けてから離れていく。
「──風精の羽ばたきよ無数の刃となれ!風乱剣舞!!──」
ジークが詠唱を終えると無数の風の刃が突風を伴ってエリュセロスの脇腹を切り裂く。
エリュセロスは突然の裂傷に体勢をふらつかせるが、魔術の発生源を見つけ力強い疾走でこちらに向かってくる。
俺は右手の紋章に力を込め鋼鉄のブロードソードに光を纏わせる。
エリュセロスが薙ぎ払おうと出した前足を切り上げて撥ね飛ばす。エリュセロスは咄嗟に身体を回転させ、蛇の尾を叩きつけるが、それは左手の盾で防ぐ。
ガードしても威力は殺しきれず滑るように吹き飛ばされた。
蛇の尾を使った攻撃をした隙にザグがエリュセロスの脇腹にナイフを深く突き刺してから身体を蹴り飛ばして離脱。
周りを包囲していた騎士も浅く斬りつけては離れてと、致命的な反撃を避けて攻撃している。
窮地に陥ったエリュセロスは四肢に力を込めてから首を持ち上げた。
「咆哮来ます!!」
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
エリュセロスのバインドボイスに騎士達は耳を押さえて膝をついてしまう。
力の限り吼えて無防備になっている胴体目掛けてブロードソードを突き刺す。
背中から光る刀身が突き出たエリュセロスは力なく草原に倒れ伏した。
「勝った…のか?」
エリュセロスが倒れたことしか分からない騎士はそう呟く。
身構えて待っていても動き出すことがないと分かると、徐々に騒めきが広がる。
「ふぅ。コイツ強かったな。流石にヤバいかと思った」
「目立った怪我することなくエリュセロスを倒せただけでめちゃくちゃ凄いことなんだけど、分かってる?」
「……勝った。それだけ…」
装備が壊れてないか確認して汚れを拭っていると、さっき合流の許可をくれた隊長が近付いてきた。
「旅の冒険者殿、協力に感謝する!お陰で奇跡的にもエリュセロスを討伐することができた」
「いえ、俺達にとっても他人事ではありませんから」
「其方達の勇敢な戦い振りに我らが主君は甚く感動され、礼をしたいと申されている。こちらへついてきてもらえないだろうか」
隊長っぽい人についていくと、遠目にも豪華に見えた馬車から降りて待つ豪華な服の男女がいた。
…これって間違いなく貴族様だよな?
もしかして面倒臭いことになったか?
夜と静寂の女神として登場したアニュクィスは夜の神ニュクスと音にまつわる神のアメノウズメやカリオペイアから響きを取ってつけました。
加護というよりは、お気に入りだとか目をつけられた証に近いものですね。幼少期に発現したスキルはこういった神の悪戯的なものが少なくないです。
神に関係するスキルは身体の一部に紋様が刻まれます。ザグ君の場合耳の先端が黒ずんでいるのですが、よーく見るとアニュクィスの紋章になっています。
エリュセロスはギリシャ語で「自在」という意味で、蛇の尾を自在に動かす一つ頭のケルベロスだと思ってもらえたら。
完全に思い付きで名付けたのですが、エリュセロス、オルトロス、ケルベロスと並ぶと収まりがよろしゅうございましょう?




