1.勇者の旅立ち
最終章の初回はダンジョンから、見た目はちびっ子中身はそこそこのマーク君視点でお送りします。
季節は春(芽風)が終わり夏(陽火)が始まった頃です。
「そろそろ王都に着いた頃っすかねぇ〜」
「勇者だなんだってチヤホヤされて浮かれてないといいっすけどね!
「リーダーのことだ、きっと大丈夫だろ」
そうっすねぇ〜なんて双子がハモるのを聞き流しながら、俺は自分の仕事をこなし続ける。
季節はもうすぐ芽風が終わろうかというところ、ダンジョンの外では燦々と照りつける太陽に陽火の気配を感じる。しかし、ダンジョンの中は今日も変わらず穏やかな天気である。
リーダーのマイルズが勇者になってから一月程経つ。
俺達が世話になってるダンジョンのマスターが魔王軍に攫われたと知らされたのは事が起きてすぐのことだった。
ギルド支部のまとめ役であるエレオノーラが、無闇に情報を広げない為にと高ランクの冒険者グループのリーダーを集め事情説明を行った。そこにマイルズとジークが呼ばれたんだが、ダンジョンマンションに長く住む者の意見も聞きたいってことだったらしい。
集められた冒険者には詳しい経緯が話され、これからこのダンジョンが不安定な立場となることが知らされた。
代理ダンジョンマスターとなったマイス曰く、魔王軍から無茶な要求をされることはないだろうと踏んでいるが、人族側…っていうかお偉いさんの意見は割れに割れた。
魔王軍の尖兵となり得る危険な存在は抹消すべきだと言う声と、魔王軍側の情報を得る機会である、または友好的なダンジョンを失うのは損失が大きいなどの理由から残しておくべきだという声。
議論は平行線を辿り、ひとまずは戦力の温存が優先されダンジョンには積極的に関与しない方針となったが、それを良しとしない者達は密かに行動を起こしていた。
その他にも、混乱に乗じてダンジョン資源を根こそぎ奪ってしまおうとする者や、希少なモンスター達を隷属化させようとする者なども現れ、ダンジョン周辺地域の治安が悪化することになった。
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ダンジョンマンションから冒険者のほとんどが街へと戻りすっかり静かになってしまった中、訓練場からはカカシを木剣で叩きつける音が響いていた。
俺達もこれからどうするか考えなきゃいけないんだが、リーダーのマイルズは思い詰めた表情で木剣を振るっていてそんなこと聞ける雰囲気じゃなかった。
ガァンガァンと響いていた音がいつの間にか途絶えていて、何があったのか見に行こうかと双子と話していたらマイルズとジークとザグが訓練場から戻ってきた。
マイルズは食堂に入るなり、みんながいることを確認して話し始めた。
「俺は…俺とジークとザグはこれからハルを助けに魔王城に行こうと思う」
「ハ、ハァッ!?三人で魔王城に!?正気かよ!!」
「うん。実は、俺勇者になったみたいなんだ」
そう言って俺達に手の甲を見せる。
そこには鈍く光る赤い紋様が浮かんでいた。勇者にだけ現れるという剣の紋様。
「マジかよ…」
「ほぇ〜リーダーが勇者っすか〜」
「で、でも危ないことには変わりないんじゃないんすか!?」
「そうだな。それでも俺は行きたいんだ」
いつも困り顔のマイルズが静かにそう言い切る時は何を言ってもやるって俺達は知っている。
「はぁ……決めちまってるんなら仕方がねぇな」
「うん。それで、後のことをマークに頼みたいんだ。この辺りはこれから治安が悪くなるらしいんだけど、大丈夫か?」
「ヘンッ!俺様を誰だと思ってやがる!狡賢さなら右に出るものはいないマーク様だぞ!ドーンと任せて行ってこい!」
「それは頼もしいな」
マイルズとジークとザグはその日の内に荷物をまとめて出発した。
まずは王都に向かって勇者となった報告と情報収集をするそうだ。
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マイルズ達が出発した後、俺達はギルドで唯一残ることになったエレオノーラに相談して、ギルドの仕事を手伝うことで多少の物資を融通してもらうことになった。
俺達がこのダンジョンに残ることにしたのは、街に帰るところがないってのもあるが、一番の理由はリーダー達の帰る場所を守らなきゃいけないってことだな。
マンションの管理をしてる爺ちゃんからも、マスターが戻ってくるまで宿賃はいらないから好きに使って構わないと言われているしな。
「マーくーん勉強終わったよー」
「おう、お疲れさん」
もうすぐ昼になる頃に年下の連中が勉強を終えてきたみたいだ。
今日はしっかり者のシンとのんびりやのユーリが面倒見てたから特に問題はなかったんだろう。ガーラとサラが面倒見る日はこうはいかないからな。
「…なんか失礼なこと考えてないっすか!?」
「おっと、もう昼だから飯の調達に行かないとな!」
勘の良いサラのことはさておき、手提げ籠と水の入ったジョウロを持ってマンションを出る。
ダンジョン周りの治安が悪くなってからと言うもの、魔の森にモンスターを狩りに行くのも危険になってしまった。食材がなくなって困っていると爺ちゃんがダンジョン内にいるフレッシュベジー達から分けてもらうと良いって教えてくれたんだ。
階段を登って花畑の中に住まうフレッシュベジーを訪ね歩くと、待ってましたと言わんばかりにシャワーを求めて手を伸ばしてくる。水を浴びて気持ち良さそうに目を細めるフレッシュベジー。
満足するまでシャワーを浴びると、実った野菜を分けてくれるのだ。
肉はエレオノーラの物資や時折アルラウネの姉ちゃんから分けてもらうスケープリザードの尻尾でなんとかしていて、ダンジョンに籠りっきりではあるが普通に飯が食えている。
必要な分の野菜をもらったらマンションに帰って昼飯の準備だ。エレオノーラの分も作ってやんねぇとな。
今日はでっぷりとした魔カブと立派で固い槍パラガスが分けてもらえた。
魔カブはすりおろして花咲米のオートミールと混ぜてから火にかける。火が通ったら豆乳とチーズを少し入れて塩胡椒で味を整える。槍パラガスは固い皮をピーラーで削いでから薄切りベーコンを巻きつけて、遠目の炭火で焼く。これでおろしカブ粥と槍パラベーコンの出来上がり!
「今日もいい匂いがしますねぇ」
いい匂いが食堂に漂い始めると、エレオノーラは仕事のスピードを早めて切りの良いところまで終わらせてやってくる。
みんなで配膳したら席に着いていただきます!
「このお粥すごくクリーミーで堪りませんねぇ。ベーコン巻きもとってもジューシーです」
「いい食材使ってるからな。シンプルなのが一番うまい」
「…マーク君ウチのお嫁に来ませんか!?」
「ノラ姐ダメっすよ!絵面が犯罪っす!」
「マーク君は嫁ってよりもおかんって感じじゃないっすか〜?」
「……お前ら、喋ってばっかで食わねぇなら寄越しやがれ!!」
「「「すみませんでしたッ!!」」」
俺達はこうして飯を作ったり、仕事やら勉強やら戦闘訓練やらをしながらダンジョン内で過ごしている。
リーダー達が無事に帰ってくるその日まで。
マイルズ達の孤児グループは、高校生くらいの年のマイルズ、ジーク、ザグ、中学生くらいの年のマーク、ガーラ、サラ、しっかり者のシン、のんびりやのユーリ、小学生くらいの年の子が四人います。マークは見た目が小学生くらいに見えるので、大きさで分けると大3人中4人小5人の12人になります。
一応前の話で出てきたのを覚えている人がいたらと思いまして補足を。




