12.新しい朝がきた!
冒険者ギルドを出ると、近くに何軒かご飯屋さんがあるのが分かる。お昼のピークは過ぎてるみたいでどこのお店にも入れそうだから、一番いい匂いがするとこにしようと思う。
あたしの鼻を頼りに目的地を決めて歩いていくと、大衆食堂って言うのかな?シンプルな内装の店内には肉を頬張る男の人が見える。
あたし達が入っていくと、ずっしりしたおばちゃんが気付いて声を掛けてきた。
「いらっしゃい!今日の日替わり定食は沼地豚のソース焼きだよ!」
注文しに行けばいいのか座ったらいいのか分かんないや。とりあえずおばちゃんに聞いてみよ!
「おばちゃん!ご飯食べたいんだけどどうしたらいいー?」
「あんたら初めてだね?ウチは昼間は日替わり定食一つだけでやってるんだ。一人前が大銅貨6枚だよ、それでよかったら座っといで」
「オッケー!じゃあ五人前お願い!」
おばちゃんに銀貨1枚渡したらちょっとびっくりされたけど、お釣りで小さい銀貨を7枚もらった。
これが小銀貨って奴ね。話には聞いてたけど手持ちにはなかったから分かんなかったわ。
この国のお金って金銀銅のコインなんだよね。一番小さいのが小銅貨、それが10枚で大銅貨、大銅貨10枚で小銀貨、同じように大銀貨、金貨って10ずつで変わっていくんだって。
今のお昼ご飯は一人前大銅貨6枚だから、合計で大銅貨30枚か小銀貨3枚なのね。ちゃんとマイスから習ったから大丈夫だもんね!
店の中には身体の大きな男の人達ばかりで、工事現場のおじちゃん達みたいな感じ。食べてるのも結構ボリューミーだから、食べ切れるか心配になってきたかも。
お店の中をキョロキョロしてたらあっという間にご飯が出てきた。
お盆に載ってるのは、ちぎった葉物野菜の上にチャーシューみたいな豚肉がゴロゴロしてるもの、お粥みたいなのと、スープ。香ばしくていい匂いがしてる。早速手を合わせていただきます!
お肉を一つパクリ。ぷるんとした歯応えの豚肉の表面にはしっかり焼き目がつけられてて、香ばしいソースがしっかり絡んでる。うん、美味しい!角煮のサイコロステーキみたいな感じね。
お粥は食べてみたらびっくり。てっきりお米なのかと思ったら香りも食感も違った。コウくんに教えてもらったんだけど、これは麦らしいのね。びっくりはしたけど、味の濃い豚肉と合わせて食べてたら全然気にならなかった。
スープは豚のお出汁が出てて、豚汁の風味を思い出して懐かしくなっちゃった。
結構な量があったけど案外ぺろりとイケちゃって、他のみんなも問題なく完食できたみたい。
それじゃあ今度はお宿を探しに行きますか!
「おばちゃん美味しかったよー!」
「あいよ。またおいで」
ご飯屋さんを出て、人の行き交う大通りを歩いてみます。雑貨屋さんとか武器屋さんとか色々とあるけれど、宿屋は見当たらない。
てか、もしかして宿屋があってもパッと見じゃ分からないんじゃないの…?
てことで、冒険者ギルドに戻ってきました!
さっき担当してくれた受付嬢さんに、おすすめの宿がないか聞いてみよう!
「安くて綺麗なオススメの宿屋ってありますか!?」
「そうですね……冒険者ギルドを出たら左に大通りを進んで、二つ目の路地を左へ。何軒か行くと店先に鳥籠があるのが見えると思います。そこがオススメの『早起鳥の止まり木亭』という宿屋です」
「左に行って二つ目を左……うん、行ってみます!ありがとう!」
受付嬢さんが教えてくれた通りに歩いていくと、大きな鳥籠の中に止まり木と綺麗な小鳥が入ってるのが見えた。ミントグリーンの身体に黒と黄色のラインが入った爽やかな色合いの鳥さんが二羽。
扉を開けて中に入ると、小さな女の子が受付に座っていた。
「いらっしゃいませ!お泊まりですか?」
「五人で泊まりなんだけど、空いてますか?」
「ちょっと待ってて。お母ちゃーん!」
上の階から「はーい」って声が聞こえて、ふっくらした女の人が降りてきた。
「あら、いらっしゃい。早起鳥の止まり木亭へようこそ。五名様のお泊まりね、部屋は二つになるけどいいかしら?」
「あ、はい、大丈夫です!」
「それじゃあ素泊まりで一名大銅貨18枚、朝食付きで小銀貨2枚よ。何泊にしますか?」
確か明後日の夕方に冒険者ギルドだから、今日明日は泊まるのよね。朝食付きの二泊にしたいから全員分で大銀貨2枚ね。
「はい、二泊分ちょうどですね。お部屋は二階の突き当たりのお部屋二つです。娘に案内させますので、何か分からないことがあれば聞いてくださいね」
「こっちにどうぞ!」
宿屋の娘さんについていって、まずは階段を上がってお部屋の確認。
この宿屋は三階まであって、二階の突き当たり、廊下を挟んだ向いの二部屋があたし達のお部屋みたい。
片方は通りに面してて、もう片方は裏庭が見えるようになってる。裏庭の方が広くなってたから、そっちをコウくん達に使ってもらうことにして、大きい荷物を置いてきた。
「お姉ちゃん達は冒険者さんだよね?じゃあ洗い場も使うよね!」
洗い場って何だろう?と思ってると、汚れた服や装備を洗い流したり、体を綺麗にするための場所ですってコウくんが教えてくれた。
一階に降りる娘さんについてって裏庭に続く道を行くと、石のタイルが敷き詰められた洗い場と井戸が見えてくる。そっか、シャワーなんて贅沢なものはないもんね。
「もしお湯が欲しかったら、お母ちゃんに言ってね!」
中に戻って食堂の案内をしてもらっていると、食堂の奥からムキムキマッチョな男の人が出てきた。
娘さんが「お父ちゃん!」って言ってるから誰なのかは分かるけど、一言も喋らないで会釈だけなのよね。
「もう案内は終わったの?アイナ」
「終わったよ!ね、お姉ちゃん!」
「ねー!お名前はアイナちゃんって言うの?あたしはハル!よろしくね」
「あっ!お名前言うの忘れてた!」
えへへって恥ずかしそうにしてるアイナちゃんが可愛いから全然オッケーだよね。
「あたしのことはみんな女将さんって呼んでるわ。うちの旦那は無口でね、基本的にはあたしかアイナに聞いてちょうだい」
「…………」
ニコニコ女将さんと無口な旦那さんと元気なアイナちゃん、仲の良さそうな家族といい雰囲気のお宿でよかった!
時間はまだおやつ時だから、ちょっと休んだらまた観光しに行こうかな。
お部屋に戻って、ベッドにちょっと腰掛けたらなんだかウトウトして……zzz…。
チュンチュン…チュンチュン…
小鳥の鳴き声が聞こえる……ふわぁ〜〜よく寝たぁ。今何時だろう?
目を覚ますと部屋の中はまだ薄暗くて、窓の隙間からは光が差し込む。……あっ、寒ッ!!
布団から出した腕を引っ込めて毛布も一緒に巻き込んでギュッと縮こまる。
あれ、昨日はお昼ご飯食べて宿について……もしかして、まだ夕方前だったのにぐっすり寝ちゃったワケ!?いやーん、こんなの久しぶりなんですけどー。
お布団の中から顔だけ出して寝ぼけ頭を動かしてると、もう一つのベッドがガサッと動く。
「ハルちゃんおはよう!」
「おはようサリーちゃん…あたし寝ちゃってたんだね」
「うん。気持ち良さそうだったからお布団かけといたよ!」
ありがた〜〜〜い。サリーちゃんは寒いのもへっちゃらみたいで、あたしの荷物からコートを出してくれた。重ねてさんきゅ〜〜〜。
コートを羽織ってブーツを履いて、窓を開けるとひんやりした空気がサァっと入ってくる。寒いけど、気持ちが良い朝だ。
透明になったままのアムちゃんがおはようって言いながら飛び回ってるのが見える。そういえば街に入ってからアムちゃんのこともほったらかしになってたなぁ…って思ってると、人の街って楽しいね!ってはしゃいでる。
ふと、チュンチュンと聞こえる方を見ると、昨日は全然鳴いてなかった籠の中の小鳥さんが綺麗な声でお話してた。早起鳥ってこういうことなのねぇ。
タオルと櫛、それに貴重品を小さな肩掛けポーチに入れて1階に降りて行くと、パンの焼ける良い匂いがしてくる。女将さんに挨拶をしてから洗い場に行って顔を洗う。お水も冷ったいんだけど、お目々がシャッキリした。
食堂に向かうとコウくんライくんジンくんも降りてきて、早速朝ごはんに!席に座るとすぐに女将さんがご飯を持ってきてくれた。
鼻をくすぐる幸せな香りがするのは色の濃いパンから。手に取って千切ってみると、ふかふかしてるのに結構力強い手応えがある。噛み締めると麦の香りと旨味が勢いよく広がって、ほのかな酸味が食欲を掻き立てる。
ベーコンエッグには豆と野菜の炒め物が添えられていて、温かいスープにはじっくり煮込まれた根菜が入っている。
気付いたらあっという間に朝ごはんがなくなってたの。美味しかったなぁ。
「どうだった?うちの旦那の料理は」
「美味しかったです…」
「そうでしょう!無口だけど料理の腕は良いんだ」
お布団もふかふかで気持ちよかったし、ご飯も美味しいし、朝から良い感じ!
さぁ!今日は一日冒険者してくるぞー!
ご飯屋さんの工夫
冷蔵技術もあるにはあるがお金がかかるので、豚肉をまとめて茹でて火を通しておいて、注文が入ってから切って焼いて秘伝のソースと絡めています。茹で汁はスープの素になっていて、ガツンとした味付けが男性にウケるお店です。中々いいお店だったのではないでしょうか。
宿屋さんの朝ごはんは焼き立てのライ麦パンをイメージしています。
この国は麦文化で、昼夜営業のご飯屋さんでは調理が早く食材保管するにもかさばらないポリッジ(お粥)で、あらかじめ人数の分かる宿屋ではパンが主流になっています。




