19.渓谷エリアとダンジョンマンション
孤児グループが出来たてホヤホヤの階段を確認しに降りていくのを眺めながら、あたしは次にここに配置するダンジョンモンスターの召喚を始める。
この渓谷エリアの周りにはまだまだ魔の森が広がっていて、いつも鳥型モンスターが羽を休めによく来る。空から一方的に襲われたりしたら困っちゃうから、空を飛べるモンスターがいいよねーってことで条件を決めて検索検索!
なんだかふわふわでメルヘンな感じのモンスターがちょうどいたから多めに召喚してみようと思う。
バレーバルーン:放射状に伸びた幅広の軽い葉で風を掴んで漂う植物型モンスター。バネのように伸び縮みする長い根を一本持っており、風が強い時にはそれを木に絡めて飛ばされないようにする。初春には黄色い花をつけて、その後綿毛をつける。花粉には錯乱効果が、綿毛は非常にくっつきやすく動きを妨害するため好んで襲うモンスターはいない。消費DP40
このバレーバルーンをザッと25匹召喚する。この辺りなら好きにしていていいよと声をかけてから、次のモンスターへ移る。
モスロース:身体中に苔が生えた鈍足な六本足の動物型モンスター。日光浴が大好きで、身体に生えた苔を主食にして生きている。六本の足と鋭い鉤爪を使ってどこにでもぶら下がっていられる。目を見るとこちらまでゆっくりとした気分になってくるから要注意。消費DP100
全身緑のナマケモノみたいなモンスターを3匹岸壁に召喚した。それと一緒に、岸壁に苔やら野苺やらを配置して彩りも加える。
ゆくゆくは色んな鳥型モンスターに住み着いて欲しいから、崖の上には迫り出すような枝振りの木を置いておく。楓みたいな真っ赤な葉をつける植物をアクセントとして植えたのがポイントね。
ふわふわしていてのんびりとした雰囲気の渓谷エリアが出来つつあるんだけど、何か足りないのよねぇ……。
「ハルちゃん何を悩んでるの?」
「うーん、ちょっと地味なんだよね……なんか、こう、キラキラ感が欲しいのよねー」
渓谷エリアに着いた途端に飛び出して見て回っていた樹妖精のメルちゃんが満足したのか戻ってきた。うまく表現できないけど物は試しと相談してみたら、ナイスなアイディアが出てきたの。
「渓谷だし風の妖精とかがいたら素敵になるんじゃないかしら?」
「ソレだわ!メルちゃん素敵よソレ!!」
早速メルちゃんにダンジョンに住んでもいいっていう風属性の妖精さんがいないか聞いてもらうことにした。
妖精や精霊の間で使えるネットワークでここら辺を統括している大精霊のマグノリア様にお伺いを立ててから募集をかけてみたんだけど、風妖精の子達は一ヶ所に縛られるのを嫌がってみんなイマイチって反応だった。
そんな中で、一人だけいいかもって返事をくれた子がいるんだけど、それが霧の妖精さんだったの。まずは実際に来てこの渓谷エリアを見てもらうことにして、仕上げに取り掛かるわ!
マイマイ達の住む棚田池エリアから流れ落ちる水のルートを変更してこちらに流す。生活圏の邪魔にならないところから渓谷に向かって滝を作って渓谷エリアに水気を足そう。
それとは別に階段中程の広い踊り場付近に湧水っぽくした泉を作る。泉の排水は渓谷のほうに向けているから、今は枯れてしまった川の跡地に細い流れができるようになった。川岸にも楓っぽい樹とか紫陽花っぽい低木を植えたら、川辺に水仙を始め色んなお花を生やして完成!
今回掛かった合計DPは2000ちょっとってところね。ダンジョン操作が一段落したところで、孤児グループが戻ってきたわ。いっけない、半分忘れかけてた。
「どうだったー?割とイケそうでしょー」
「あ、ああ。途中モンスターがいきなり現れたり泉が湧いてきたり滝ができたりしてびっくりしたけどな」
まだ戸惑ってる様子のマイルズにあたしの中の未来予想図をちょっと語ってみる。
ここはすごくゆったりとした時間が流れるような安らぎの空間にしたくて、でも実は防衛力も高く設定しているの。ここに住めばダンジョンのモンスター達から野菜とか食料を分けて貰いつつ、魔の森でモンスターを狩ったり薬草の採取をして生計を立てていくことができるんじゃないかなって。
「……そんなことをしてお前に何の得があるんだ?」
「お前とはハル様に対して失礼です!!」
「いいわよマイス。別に得とかは大してないよー?ダンジョンでは身体から溢れた魔力を回収してるんだけど、遊びに来る妖精さん達に比べたら人間なんて微々たるものだし。あ、でもお肉取れたら分けて欲しいかも!」
普通に考えたら人間を住まわせても面倒なことしか起きないってのは分かるから、マイスが嫌がるのも当然なんだけど、乗り掛かった船って言うか何と言うか。見捨てておけないじゃない?
「まぁいいじゃない!それで、部屋の希望とかはあるの?」
納得はしてなさそうな感じだけど、住む所を自由に作れることをアピールして話すり替えちゃおう!
「うーん…ジーク何かあるか?」
「洞窟に住む形になるので風通しが良いと嬉しいかな」
「オッケー。後はないのー?女の子のサラちゃん的にはどう?」
「個室だったら超嬉しいッス!でもみんなでご飯も食べたいッスね!」
大体想像できてきたわ。昔テレビで見た岩をくり抜いて作ったホテルみたいなコンセプトで行くことにする。
みんなで階段中程の広場に行ってから操作開始!まずはドーム状に洞窟を広げて開放感あるエントランス兼食堂にしちゃいましょう。
洞窟の端で泉の近くの方にキッチンとなるスペースを作って、煙突代わりになる風の抜けていく道を作る。キャンプ場の簡易キッチンみたいな感じになったから、後の細かい所はみんなにお任せで。洞窟の正面奥には木の扉付きで小部屋を作って、資材とか大事なものとかを入れておけるようにする。キッチンの近くには食糧庫になるように窪みを掘り込んで温度設定は低めに。次は個室!
食堂を挟んでキッチンとは反対側から通路を掘り進めて、岸壁側に個室を並べていく。
ビジネスホテルみたいに小さな部屋だけど、一部屋に一つ窓代わりの穴を開ける。大きな窓にすると防犯的にもよろしくないけどガラスは雰囲気が合わない……そこで、ステンドグラスの枠組みみたいに小さな穴を並べることにしたの。デザインはうっすらお花って分かるくらいで男の子への配慮も忘れてないわ!
通路を挟んだ個室の反対側にはとりあえず大中小の空き部屋を作っておいて、廊下の入り口と突き当たりにトイレ設置。下水とか面倒くさいから分解吸収性能つけちゃう!そのまま土壌の改善に回しちゃえば一石二鳥ね。
「お、おい。まだやるのか?もう十分──」
ええい、ここまできたらお風呂もつけちゃえ!キッチンの奥側を掘り進めて脱衣場を作って、その奥に一度に5人は入れそうなお風呂を作る。岸壁側は開け放って露天気分ね!流れ落ちる滝の裏側になるから景色が最の高よ。シャワーは三つ取り付けて、排水は浄化装置を付けてから川下に放水。
「ていうか岩盤浴も欲しくない?でも高いかなぁ…やっぱりサウナかな?」
「いやいやいや、もういい!もういいから!」
「へ?プールとか娯楽場とかいらない?なんなら運動場とかも──」
「ハル様」
ヒィッ!いつの間にかマイスがカチキレモードだわ!
「予算の関係で無理がございます」
「あっはい、すみません…」
マイスに叱られた私をマイルズ達は慰めてくれて、もう本当に十分だと力説してくれた。
このダンジョン内岸壁マンション作るのに掛かったDPは1000ちょっと。1日でこの孤児グループから回収できるDPは3くらいだから、一年もあれば元が取れる感じだね。だから別に家賃を取ろうなんて思ってなかったんだけど、それを言ったらみんなに猛反対されちゃった。
「こんな良い所に住ませてもらえるのに無料なんて許されねぇ!宿代くらいは払わせてくれ」
「人間界の通貨を獲得するいい機会かと思います」
ってことで、連泊割引を利かせて一ヶ月の素泊まり、お一人様大銀貨3枚になりま〜す。
なんだかんだと流して流して冒険者の孤児グループがダンジョン内に住むことになりました。
この世界での貨幣文化は
小銅貨 10枚で大銅貨に
大銅貨 10枚で小銀貨に
小銀貨 10枚で大銀貨に
大銀貨 10枚で金貨に
金貨 100枚で白金貨になります。
銅貨・銀貨と呼ぶときは大小まとめて呼んでる感じになります。




