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ルーブル王国 その5

「よくぞ参られた、勇者殿!があ―――――はっはっはっはっはっ!」

 到着早々玉座に通され、アイシャたちはテンションの高さに面食らってしまった。

 丸々と太った恵体に、日を浴びて浅黒い肌。きらびやかな装飾品。そして、かつてレッドレッド王国で仲間であったグラブをも超える身長。彼も大きい方であったが、この王はさらに大きかった。

「いやあ、昨日はゴブリンどもから女衆を救ったとか!いやあ、流石ですなあ!」

「い、いえ……偶然にも見つけることができただけですから」

「いやいや!その運も勇者殿の日頃の徳からでしょう!」

 王はそう言って玉座から立ち上がると、のしのしとアイシャに近寄る。大きな手で彼女の手を掴むと、ぶんぶんと振り回した。

「同盟の件でしたら、我々ルーブル王国も進んで協力いたしましょう!時に、食事の用意をしておりますので、よろしければどうでしょうかな?お仲間も含めて!」

「え、ええ。喜んで」

 豪快に笑いながら手を離さない王に、アイシャは笑いを保つほかなかった。後ろを振り返りエターナルに目で助けを求めるが、彼女にこの状況をどうにかできようはずもない。


 ここに蓮がいたら、王を蹴り飛ばすなりしていたかもしれない。だが、王に謁見したのはアイシャとエターナルの二人だけだ。 

蓮は、メローラを連れて国立図書館に来ていた。「ネプティエ」というものを調べるためだ。

「ったく、図書館なんて小学生以来だぞ」

 国立図書館は非常に大きく、蔵書は何でも八万冊はあるらしい。首都はもちろん、近海の風土についても豊富で、入ると一面本だらけで、蓮は頭がくらくらしてしまう。

「ちくしょう、安里がいればこういう調べものとか楽勝なのによ……」

 思わず悪態が漏れる。蓮のバイト先の探偵事務所所長の安里修一が、いつもこういったことをしており、自分は主に荒事やら肉体労働やらが担当だったのに。

『安里って誰?』

「ん?俺の知り合いだよ。あいつがいればたぶん楽勝でわかるんだがな……」

 いないやつのことを言っても仕方ない。そういえば、この世界に来ておよそ二週間弱経つが。何の連絡もなく消えたわけだから、当然ながら大騒ぎだろう。

「早めに帰らねえと、あいつに何されるかわかったもんじゃねえな……」

 安里なら「どこぞの組織をいくつ潰してきてください」とか笑顔で言いそうな気がする。あるいは、相当安月給でこき使われるかもしれない。

 また、探偵事務所のメンバーだと、やはり思い出されるのは立花愛だ。

 彼女とは盛大に喧嘩してそれっきりになってしまっている。

 

やはり早く帰らなくては。そのためにはこの「災い」を何とかする必要がある。


その為なら苦手な調べものもしないといけないのだろう。


「やるかあ―――……」

 蓮は腹をくくると、「ネプティエ」についての資料を探し始めた。

メローラは後ろに着いているが図書館自体に興味津々なようで、目を輝かせながらあたりを見回している。昨日から自分の服を持っていなかったので、教会で町娘の服をもらい、今はそれを着ていた。昨日一瞬目が濁りかけたが、コミュニケーションができる蓮の存在が彼女には大きかったらしい。その瞳は初めて見た時のようにキラキラしている。


 結局、どう探していいかもわからず、図書館をさ迷うだけでかなり時間を費やした。そもそも風土関係がどこにあるかもわからない。

 蓮がげんなりしていると、メローラが蓮の肩をつんつんと指で突く。

「なんだよ?」

 メローラに服を引っ張られ、蓮が連れて行かれたのは、図書館の地下部分だ。上にあるような一般書ではなく、学者による論文などがまとめられている。蓮にとっては下手すれば一生縁のない場所だ。

「お前いつの間にこんなとこまで見てたんだ……」

 つぶやく蓮を引っ張ると、地下の司書カウンターの奥を指さした。

『奥の本に、見たことある字がある』

「あん?」

 司書に頼んで論文を見せてもらう。『人類生存圏外の知的生命体の可能性』という内容らしかった。表紙に書いているマークを、メローラは指さす。

『この模様、ネプティエの文字だわ』

「……マジか」

めくって読んでみるも、小難しい理屈やら仮説ばかり書いてあり、頭には全く入って来ない。だが、参考として書かれている絵を見たメローラは、さらさらと字を書く。

『これ、たぶん落書き』

「落書き?」

 彼女が指さす模様を眺めると、蓮はチートによって意味が分かってしまう。論文では「かつて栄えた海底文明の王族に関する碑文の可能性がある」だと記述があるが。

 その実態は、「私の卵に精子かけたい人は○○に来て」というものだった。

 人間でいう、「私とチョメチョメしたい人は連絡ください」みたいな、公園の公衆トイレとかによく刻まれているあれだ。

「くっっっだらねえ!」

 思わず叫んでしまった。周りの人が白い目を向けてくる。特に、ここには論文ばかりで学者やら研究者がほとんどだから、視線はなお冷ややかだ。蓮とメローラはこの論文を借りると、そそくさと図書館を後にした。


 図書館を出て手頃な公園があったので、そこにあった椅子に腰かける。

 あまりにもへんてこだったが、少なからず収穫はあった。

「……おまえ、人類生存圏外の知的生命体なの?」

 蓮の問いかけにメローラはジトっとした視線を返す。

『その言い方やめてくれない?普通に海に住んでるだけなんだけど……』

「あ、そう。……やっぱそうなの」


 つまり、メローラはかつて栄えた海底文明の人だということか。

『ていうか、普通に今も栄えてるし。別に滅んでないし』

 どうやら学者が書いた論文は徹頭徹尾間違っているらしい。ただの落書きを「王族の碑文」と言ってしまっている、この人に同情を禁じ得ない。


 とはいえ、これでメローラが海のど真ん中を指さしたのも合点がいった。つまりは島ではない。彼女の故郷は海の底だったわけだ。


「…………え、どうすんのこれ?」

 蓮は力なくつぶやいた。



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