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ルーブル王国 その6

 時刻は正午をまたぎ、城では勇者歓待の宴が催されていた。大きなテーブルに、王族と勇者パーティが分けられる形で座っている。

 出てくる料理は、ルーブル特産の海産料理がほとんどだったが、一部レッドレッドの郷土料理も運ばれてくる。勇者であるアイシャがレッドレッド出身であることもあり、気を使ってくれているのだろう。単純にルーブルに肉料理が少ないということかもしれないが。

 アイシャたちは蓮が合流するまで待つと言ったのだが、「ならば先に始めて待ちましょうぞ!」と王が一方的に進めてしまい、断るに断れなかった。

「勇者殿、こちら私のせがれのヨウヤンです」

 アイシャの前に座っているのは、王が紹介している少年だ。父親と同じく浅黒い肌にすらっとした体形、だが年齢的には自分たちより少し年下か。

「この年で十四になります。若輩ながら剣に秀でておりましてなあ。よろしければ、勇者殿に一手ご教授願いたいのですよ」

「はあ、私にですか?」

「父上、それは……」

「なんだヨウヤン、こんな機会またとないのだぞ。胸を借りればよかろう」

 王はそう言うと、鎧姿のまま食事をしているアイシャをちらりと見やる。そしてにやりと笑った。

「胸を借りるとは、他意はありませんぞ?」

「……存じております」

 アイシャは柔和な笑みを浮かべるように努めていた。ヨウヤンは父の行動にため息をつく。懇意どころか機嫌を損ねているではないか。

「……私としましては、アイシャ様にはぜひ、レッドレッド王国でのご活躍をお聞きしたいのです。例のドラゴンの襲撃事件の解決について、ぜひお聞きしたい」

 ヨウヤンの話題の切り替えに、王はすぐさま食いつく。調子のよい男だ、という印象が勇者パーティ女性陣の印象だ。

「おお、それはぜひぜひ!私も勇者殿の武勇伝をぜひともお聞かせ願いたいですな!」

「ドラゴンの事件ですか……」

 アイシャの表情が少し曇る。あの時は、蓮がいてくれなければどうしようもなかった。首魁のドラゴン、ジャバウォックには自分は勝てなかった。蓮は竜が撤退したのは自分の功績であると言ったものの、実際のところ蓮や、ジャバウォックを見つけるヒントをくれた町の人たちがいなければ、王国は本当に壊滅していたかもしれない。

「あの事件は、自分がもっと強くならなければいけない、と強く思い知らされる事件でした。私一人ではとてもとても」

 アイシャは隣で黙々と魚料理を食べるエターナルを見やる。

「彼女や、ここにはいませんがもう一人の仲間、それに町の人がいなければ―――」

 そこまで言った瞬間、城の兵士が駆け込んできた。

「申し上げます!し、侵入者です!」

「何!?」

「一般的な町人の格好をした男で、勇者殿の仲間であると言っており……怪しいので拘束しようとしたのですが、相当の実力者のようで、兵では歯が立ちません!」

「なんだと!?」

 アイシャが皿にフォークを突き立て、エターナルはずっこける。

 一般的な町人。まさか……。

「赤い髪ですか?」

「え?はい」

「もしかして女の人と一緒にいますか?」

「え?ええ、背負ってました。確か」

 間違いない。

「「うちの仲間です。通してあげてください」」

 勇者と女神は揃ってため息をついた。


「二回連続で牢屋行きとか勘弁だぜ、まったく」

 食事の席に通された蓮は悪態をつきながら席にどかりと座った。その様子に王族や周りにいる侍女たちも唖然としている。

「だからって暴れることないでしょ!?」

「暴れてねえよ!逃げながらお前ら探してただけだって」

 本当にこの男が勇者の仲間なのか。周りのものすべてが、開いた口がふさがらない。

 彼の隣にいる町娘風の娘も、何も言わずに食事にありついている。

「ゆ、勇者殿、こちらが……?」

「え、ええ。私の仲間の蓮です」

 アイシャの紹介を受けた王族は、いぶかしむような眼で蓮を見る。

 町人風の格好に、ほか二人とは違う品のなさ。勇者本人が仲間だと言っているのだから、間違いはないのだろうが…………。

「れ、蓮殿は、その……どのような役回りなのですかな?」

「役回り?」

「ほ、ほら。戦うだけが勇者の仲間というわけでもないでしょうし」

「ええ……そういうの、考えたことないんすけど」

 ちらりとアイシャとエターナルを見るが、アイシャは咳払いをし、エターナルはどう答えたものか、という表情をしていた。

「まあその……普通に、仲間ですけど」

「は、はあ……」

 王の表情は依然怪訝なままだ。どうにもこの、一般人の格好というのがいけないようだ。アイシャのような鎧でも、エターナルのようなローブでも、ましてや王のような貴族の服というわけでもない。それが蓮へのあらぬ誤解を生んでいる。

「まあ、勇者殿のお仲間と本人がおっしゃるのであれば良いですが……それで、うちのヨウヤンに稽古をつけてやってほしいという話なのですがね?」

「あ、そうだ!」

 いきなり手をたたいたアイシャに、その場にいる全員がびくりと体を震わせる。

「その稽古ですが、この蓮に相手をしてもらいましょう!ええ、それがいい!」

 満面の笑みでアイシャは言うが、周りのリアクションは明らかにいまいちだ。

 特に、当事者二人の表情が明らかに曇る。ヨウヤンは「こんなガラの悪そうなやつと!?」

という顔で、蓮は「何言いだしてんだこいつ……」という顔だ。思わず蓮はアイシャに耳打ちする。

「おい、何考えてんだ、(王子を)殺す気か!」

「だって、皆蓮の力をわかっていないから、わかってもらうなら実力を見せればよいと思って……」

「相手するこっちの身にもなれ!あんなモヤシ、相手にできるわけねえだろ!」

「…………誰がモヤシですか?」

 間に入ってきた声に振り向く。どうやら王子に聞こえてしまったらしい。

「これでも一通りの武術を学んでいるんです。勇者殿がそこまで言うのであれば。お仲間のあなたに胸をお借りしたいのですが」

「ええ……」

 先ほどの歓迎ムードはどこへやら。一触即発になりかねない雰囲気へと早変わりしていた。

 ヨウヤンの目には光が宿っている。どうやらモヤシと言われたことが相当頭に来ているらしい。

 そんな雰囲気の中、メローラが蓮の袖を引っ張った。

 ちらりと見ると、頬いっぱいに食事を詰め込んで、紙に文字を書いている。


『おかわり!』だった。 


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