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勇者邂逅 その4

 立っていたのは、蓮、エターナル、青年。さらに、今までいたごろつきの中でもひときわ体の大きな男と、長い髪にローブを纏った女性だった。手には木の棒を握っている。立っているのはこの五人だった。

「ここまで数が減れば十分であろう。……それに、もう闘おうという者はいないようだしな」

「……やっと終わった……怖かったあ……」

 エターナルは安堵のあまり、その場にへたり込む。青年も同様だった。

「よし。お前たちを勇者様の元へ案内する。ついてこい」

 訓練場を出て、城の広間へと連れて行かれると、そこにはアイシャが仁王立ちで待ち構えていた。

「皆、私のためによく集まってくれた。ありがとう」

 先ほどの凛とした表情を崩さずに、アイシャは微笑んだ。

「改めて、アイシャ=レヴンヘイムだ。これからよろしく」

 アイシャは一人ひとりと、自己紹介と握手を交わす。

「俺はグラブだ」

「私はアルマよ。よろしくね」

 ともに選別に残ったごろつきと女は、それぞれグラブとアルマというらしい。二人と握手を交わし、三番目は蓮だった。

「君は……昨日の」

「……蓮だ」

「蓮、か。よろしく」

 彼女と握手を交わす。鎧の篭手越しの握手だった。

 蓮との握手を終え、次はエターナルと青年の番だった。エターナルは彼女を訝し気に見つめている。

「……エターナルです」

「……私の顔に、何か?」

「別にい?」

 明らかに敵意を向けているエターナルにすこし困った顔をながら、アイシャは青年に向き直った。

「よろしく。名前は?」

「……ピ、ピーター」

「ずいぶんとほっそりしているが。よくあの選別を生き残れたな?」

「そりゃそうだ。そのモヤシは、兄ちゃんの後ろにずっと隠れてたんだからよ」

 グラブが嫌味を込めた笑い声をあげる。

「そういえば、そこの姉ちゃんもそうだったな。まともに戦ってたのは、俺たち三人くらいだぜ。その二人はおとなしくしてたら生き残っただけの連中よ」

「そうね。私も、そこの二人と一緒にっていうのは、ちょっと納得いかないかも」

 グラブの言葉に、アルマが便乗して来た。

「大方、勇者の仲間になりゃ国から金がもらえるって話に飛びついてきたんだろ。全く、志のないやつはろくでもねえな!」

「ほんと。世界が大変だって時に、自分のことしか考えてないなんて、人として品性を疑っちゃうわ」

 その言葉にエターナルが口を開こうとしたが、遮ったのはアイシャだった。

「これから仲間になるのに、ずいぶんな言い方じゃないか?それに、ここまで生き残ってきたのも何かの縁だろうし、得意分野だって違うだろう」

 彼女は二人に向き合うと、笑いかけた。

「二人の得意としていることを教えてほしい。ほかの人もだ」

 エターナルは「ええ…」という顔とともに、蓮の方を見やった。蓮は、黙って首を横に振る。こんな時に嫌がってるんじゃねえ、という無言の会話だった。

「……回復・補助魔法ができます。一通り。あと、悪魔祓いも」

「おお!ではさっきは、その魔法を活かす場がなかったんだな。これから、ケガすることもあるだろう。よろしく頼む」

 アイシャはとてもうれしそうに笑う。一方、グラブとアルマは互いに顔を見合わせた。反論のしようがなかったのだ。

「では、君は?」

 アイシャはピーターに向き直る。ピーターはうつむいてしまって、何も答えようとしない。

「どうした?何か得意なことはないのか?」

「ほれ見ろ。こんなほっそりした奴が、あの場を生き残っただけでも奇跡的だぜ」

「そんなことを言ってやるな。ほら、ピーター。何か君の得意分野を教えてくれ」

 ピーターはうつむいたまま答えない。

 アイシャは一歩も引きさがることなく、ピーターに向かって問いかけ続けた。


 蓮もすっかり見かねてしまった。アイシャはぐいぐいと問うし、ピーターは涙目になってしまっている。グラブとアルマはその様子を見てにやにやと笑っていた。

「…はあ。なあ、アイシャさんよ」

「ん?蓮、なんだ?」

「金。王様からもらったんだろ?」

「ああ。みんなの分も用意してもらっている」

 アイシャは六等分された袋を見せた。

「一人、金貨50枚。併せて金貨300枚だな」

「金貨300枚!」

 グラブが声を荒げる。エターナルが蓮に耳打ちした。金貨300枚もあれば、この町では何年か遊んで暮らせる額だそうだ。

 蓮たちはそれを受け取る。それぞれ、金貨の袋の重さに目を白黒させている。

 蓮は自分の袋を眺めると、ピーターの方を向く。

「おい」

 ピーターが蓮の方を向くと、蓮はずい、と自分の金貨の袋をピーターに押し付けた。

「俺の分の金をくれてやる。………だから、その金置いて、とっとと失せろ」

 その場にいた全員が驚きのあまり目を剥いた。中でも一番驚いたのはアイシャだ。

「……蓮?何を言っているんだ?」

「ついてこねえんだから、金は返してもらう。でも俺の金は俺が使っていいんだろ?そういうことだよ。これは手切れ金だ。こいつはこの場でクビにする」

「そういうことを言っているんじゃない!ピーターを仲間から追放するだと!?ふざけているのか!」

「ふざけちゃいねえよ。こいつは役に立たねえ。だったら置いてった方がいいだろ。ここでグダグダしてたって始まらねえ」

 蓮が吐き捨てるようにそう言うと、グラブとアルマが便乗してきた。

「そうだぜ、勇者様よ。手切れにするには大金だが、金目当てならそれくらいもらえりゃ十分だろ!」

「蓮ったらずいぶん太っ腹ねえ。こんなの相手に自分の分け前渡すことないのに」

「お前たち……」

 広間が静まり返る。アイシャは蓮をにらみ、グラブ・アルマはにやにやと笑っている。ピーターは相変わらずうつむいたままだ。エターナルは先ほどまで抱いていた自分の怒りはどこへやら、この空気に戸惑っている。

『ちょ、ちょっと蓮!どうするのよこの空気!』

 エターナルは精神に語り掛けてくるが、蓮は答えない。

「ピーターは選別を切り抜けたんだぞ!私と一緒に来る資格があるんだ!」

「知ったこっちゃねえ。……来る気もねえ奴、いたって互いにきついだけだろ」

「来る気がないなら、なんで選別を受ける!?ピーター、お前からも何か言ってくれ!」

 アイシャはピーターに向き直るが、ピーターはずっとうつむいたまま、応えなかった。

 蓮はピーターの肩に手を置いた。ピーターは蓮の顔色を覗き込む。

「……もういいだろ。とっとと行けよ」

 ピーターは目に涙を浮かべた。そして、蓮たちに頭を下げると、そのまま城の外へ走り去っていく。

「ピ、ピーター!」

 アイシャはピーターの名を呼ぶが、彼は振り返らなかった。やがて、彼は野次馬の中へと消えて、やがて見えなくなった。

「あーあ、行っちまったぜ」

「ほんと、お金もったいないわあ」

 グラブ・アルマの二人は笑いながら群衆を見やっている。

 アイシャはわなわなと身体を震わせて、蓮の襟をつかんだ。その顔は怒りに震えて、真っ赤に染まっている。

「貴様……!」

 蓮は彼女の眼を見なかった。

「……出会ってすぐだが、私は、君のような男が嫌いだ……!」

「じゃあ、クビか?」

 蓮の言葉に黙り込む彼女だったが、やがて襟から手を離した。

「……君の実力は見せてもらった。戦力としては申し分ないだろう。世界を救うためだ、優秀な人間はいてもらわないと困る」

 苦々しくアイシャは言葉を絞り出す。

「……そうかよ」

 蓮がそれだけ言うと、広間で言葉を発する者は誰もいなかった。


おかしいなあ、コメディのつもりで書いてるんだけどなあ……

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