EXTRA ROOM
「――なにここ?」
王城宝物庫。
その最奥に位置する部屋へと案内されたカイセ。
本来ならば一個手前、漂流物の眠る部屋が公式記録における最奥部屋だった。
しかし極秘の、表には明かされていない更に奥の小さな部屋があり、今カイセはその部屋へと踏み込んでいた。
(真っ白で"真ん中の箱"以外は何もない小さな部屋。一人暮らし用の部屋って感じのサイズ感だな)
今までは広い倉庫。
だがその先に待っていたのは個室と言って過言ではないサイズ感の小さな部屋。
別に家具が置かれているというお話ではないイメージ的な個人の印象。
ではここにある物は?という話をするならば、箱が一つだけ。
真っ白な部屋の中心にポツンと置かれた謎の箱。
「ミミック…的なオチはないですよね?」
「ないですね。宝物庫の最奥にモンスターが居たとなれば大問題になります」
「じゃあ普通の、ただの箱?」
「はい。とある預かりものが納められた普通の箱ですね」
「預かりもの?」
その正体は普通の箱。
なんの問題もない健全な収納用品。
そして中には、ある人物から預かった何かがしまわれているそうだ。
「どうぞ箱のもとへ」
「え?行かなきゃダメ?」
「はい」
「うわ、断言された…」
そんな謎の箱のもとへと誘われるカイセ。
今までの自由意志の尊重はなく、ハッキリと『行け』と言われる。
「まぁここまで来たら…ほんとに罠じゃないですよね?」
「はい勿論」
そのまま言われるまま箱に近づく。
当然ここで罠に嵌められるなどという展開は本気では警戒していない。
だが…罠が無かったとしても厄介事でないという保証はない。
「どうぞ、鍵は掛かっておりませんの、開けて中をご確認ください」
辿り着いた箱のもと、
しゃがんで手にして見据えるそれは、確かにただの普通の箱。
怪しいところは何もない。
「…ん?これって…鍵?」
そんな箱を持ち上げて、開いて中を確かめる。
そうして目にする箱の中身。
謎の〔鍵〕が一つ納められていた。
「どうぞ、お持ち帰りください」
「え?いらない…」
するとその鍵をどうぞと勧めて来るプロス。
だが、出自用途不明の鍵を欲しがるはずもなく。
「どうぞ、お持ち帰りください」
「これ、はいって言わないと終わらないやつ?」
同じ言葉を繰り返して意地でも鍵を持ち帰らせようとする。
「…せめて話聞かせて貰えません?」
「そう、ですね。わかりました」
とはいえこちらも何も分からないまま受け取るは嫌なので話だけは聞かせて貰う。
「とはいえ私は伝え聞く者。あくまでも私自身が受けた話ではありませんが…この箱は昔に、ある方より託され国として預かったものなのです」
この箱、そして中身の鍵。
これらは国が用意したものではない。
とある人物から預かって、今の今まで保管してきたもの。
「その人物は初代の勇者様。正確にはその遣いを名乗るの御方から預かったものだそうです」
「何その怪しい人」
その人物が噂の初代勇者…の遣いの人物。
本人ではなく代理人という時点で疑いの目は必至。
「当然怪しいと、当時の者も思いました。しかし勇者様しか持ち得ぬものを見せられ返還されたのですから、信憑性はそれなりに高いかと」
普通に考えれば勇者の名を騙る不届きものの警戒が解けぬような相手。
しかしその人物が箱と共に提示し、そのまま国に還した代物がおおよその信憑性を担保するものとなったそうだ。
「その方は少々不自由な言葉で、勇者から預かった物であること、国で預かり保管して欲しいこと、後の世で"信用できる同郷の者"に渡して欲しいと伝えてきました」
(同郷…初代勇者の視点だとすると、こことは違う別の世界の出身者って意味でとっていいよな?)
異世界人、転生者、転移者。
とにかくこことは違う世界の人間を示すだろう同郷の二文字。
その上で求めるのは信用できるという点。
「そして預かったその箱、その中身の鍵を、その者へと渡して欲しいと託されました」
預けた箱の中身の鍵を同郷者へと譲る。
国を仲介として利用した時代を越えた譲渡の手筈。
「用途不明、理由不明、それが何であるかは全く分かりませんが、勇者の遣いとの約束事ですのでどうかお持ち帰りください」
「もしかして俺はこれの為に漂流物の依頼されました?さっきの見定めとかもこれの…」
「いえ、これは想定外。見定めまでは予定通りですが、そこで信用できる者だと判断したならこの鍵を渡せ、などとは一切話しておりません。ここでこの鍵を貴方に渡すことも、そもそも存在を明かすつもりもありませんでした」
「え?じゃあ今ここでの思い付き?それ大丈夫なの?」
この鍵の部屋への案内自体が予定にないプロスの独断。
漂流物を使った見定めまでは予定通りだがその先は、鍵を渡す決断を王は知らない。
「実を言えば、国としては"本来の意味での勇者様"が現れた際にお渡しする想定で、こうしてずっと保管してきました。この世界の生まれの勇者ではなく、異なる世界から選ばれた勇者。我々にこれを託した初代様と同様の異なる世界のお方でありながらこの世界の為に役目を引き受けてくださる方なら信用できるだろうと、王様も私もその考えに同意していました」
先ほどの部屋でカイセが試されたその信用度はあくまでも"交流を持つ異世界人"としての品定め。
だがこの場合の信用は、英雄たる初代の意志を託せる相手、国の有事に頼れる相手という、もっと深みのある信用の判別。
「じゃあやっぱ俺に渡したらダメじゃないですか?」
「いえ、実際そういう指定が初代様の意志にあったわけではないので問題ありませんから。それに、少なくとも私としましては、不条理な道具を『利用しろ』ではなく『捨てろ』とハッキリ言ってくださる方なら安心して渡せると思ったのが本音ですので、いつ来るか分からない誰かを待つより、こういう機会がこうして予期せぬ形とはいえ巡ってきたのなら逃す手はないと判断したのです」
王様がどう判断するかは不明だが、少なくともプロスはそんな大仰なものを渡すに足る存在とカイセを判断したようだ。
カイセからすれば過大評価も甚だしい。
「でも、色々怒られません?」
「その相手を選ぶ権限も先程同様にきちんと備えておりますので、どうぞご心配なさらずに」
今日という日に、少なくともプロスが託せる相手と判断したのがカイセの存在。
その判断は完全な独断での譲渡だが、それだけの権限を彼は持っている。
「…銃の破壊の独断が許されるのも含めて、実は国の中でかなり良い地位を持ってます?」
「ははは、まぁそこそこには」
鑑定では視えないプロスの立ち位置。
目に見える役職以外にも何か、特別な権限の与えられる何かを隠している様子の宝物庫番。
「はぁ…分かりました。受け取らせてもらいます」
「これでやっとお役目を果たせました」
大事な預かりものを託す相手がようやく見つかった安堵する管理人の立場。
実質的に押し付けられたような立場になるカイセはなんとも言えぬ心情。
(鍵か…いったい何処の鍵やら…ん?)
そんな鍵を手に持って箱から取り出してみる。
すると鍵の下から出て来たのは〔青い指輪〕。
「あぁ、その指輪ですね。どうぞお持ちください」
「えっと、これは何で?」
「伝え聞く話によると、遣いの方にとっても予期せず紛れ込んだ一品だったようです。中身を確認する際に紛れていることに気づき、しかしそのまま一緒に納めておいて欲しいと告げられた為、そのまま箱に保管していました。そちらも特に魔法道具というお話でもない普通の装飾品ですので箱ごとどうぞおもちください」
なんの力も付与されていない普通の指輪。
色合いが独特で不思議な感じはするが、しかし悪い物ではないだろう。
「これは…これも持って行っていいんだよな!?」
「ん?えぇどうぞお持ちください」
「カナタ?」
するとその指輪に反応を示したのはずっと引っ込んでいた小人カナタ。
いきなり声を上げて、念押しのごとく確かめてその青い指輪への執着を見せたのだった。
「――ふぅ、やっと帰ってきた。往復すると時間掛かるなぁ。結局お昼食いそびれた」
そんな最奥、預かりものを収めた部屋から去ったカイセら。
結局あの場でカナタは何も語らず、静かなまま帰路に就いた。
往復すれば結構な時間を移動に費やす羽目となった今回の依頼。
帰ってくれば外は夕方。
結局家路につくのは明日となり、城の部屋にもう一泊することになった。
「で…まだ語るつもりはないか?カナタ。まぁ無理にとは言わないけどな」
「…話すよ。お前らにはちゃんと話すよ」
そして部屋の中、プロスとも別れた後にようやく語るカナタ。
あの場で見せた不思議な反応。
カイセが改めて取り出した青い指輪を見つめながら、そのシンプルな真意を語り出す。
「…その指輪は俺の居た世界のものだ」
この指輪は、かつて神剣だったカナタが居た元々世界の代物。
故郷の品との不意の出会いにカナタは驚いたという、至極単純な理由だった。




