責任者たちのアフタートーク
「――それで、説明してくれますよね?」
眉間に皺を寄せて表情を曇らせる王様。
この国の頂点に座する国王は、自身の執務室の椅子にドンと座りながら…目の前の人物に複雑な視線を向ける。
「ははは」
「笑ってる場合ではないですよ?兄上!」
その人物は国王の兄。
だがその身分は限られた者しか知らぬ立場であり、同時に既に手放したものでもある。
「その呼び方をされるのも久しぶりだね。人前だと絶対に呼んでくれない真面目な王様だからな。我が弟は」
「呼べるはずがないでしょうに…」
他者への振る舞いとは異なる身内、家族向けの振る舞いを見せるその人物の名はプロス。
宝物庫の筆頭管理人であり上級鑑定士の資格を持つ男。
彼は秘された王兄その人。
現王の実の兄でありながら、今は完全に王族の籍を抜いて、貴族ですらない平民に降りた第一王子だった人物である。
「ひとまず聞きますが、兄上の出自について彼には話してませんよね?」
「そこはもちろん。これは流石に墓場まで持っていくつもりだよ。鑑定にも乗らぬように念入りに籍を抜いた努力を無に帰す真似はしないよ」」
プロスの出自は王族。
だがその情報は《鑑定》に乗らない。
"元王子"のような表記が、称号や身分が出てこぬように入念に籍を抜いた。
鑑定情報のあくまでも一部は意図的に消すことが出来る。
分かりやすいものは償いを終えた軽犯罪者の称号。
それ以外にも身分や立場的を示す”元○○”のような過去称号は、籍を完全に抜いた後に多くの手順を通すことによって〔復帰の可能性を完全に手放す〕前提で、鑑定結果から完全に消し去ることができるものが存在するのだ。
ゆえにプロスは元王子でありながら鑑定にも記されぬ"一般人"として、今の生活を過ごしている。
もはや彼を元王子として認識しているのは家族、公の場では現国王のみである。
「それで、兄上?私に報告なしに漂流物の破棄と例の箱の譲渡を行った件について、しっかりと説明してくれるのですよね?」
そんな兄に対して説明しろと再度告げる弟の国王。
この呼び方が出来るのも、二人きりの限られた場のみのこと。
公の場においては絶対に呼べぬ呼び名を、この際にはどんどん口にしていく。
「説明か、もちろんするとも。ただ、率直に告げるならいつもの勘だよ?」
「またですか…いえ、兄上が突飛な判断をするときはいつもそれなので予想はしていましたが」
そうして王が問うのは例の一件。
宝物庫における〔漂流物の破棄〕と〔預かりものの譲渡〕。
それが王様に事前報告なしに行われた事実の理由を問うお話。
だが…そこで告げられたのは、あくまでも直感に基づくいつもの判断であったという点。
「まぁ勿論、政治的な理由でも語れるよ?一部が物騒なことを考えてる話は聞き及んでるからね」
「ほんと…どこでそういう話を仕入れて来るんですか?私の側近にもまだ知らぬ者がいるのに」
「管理人という立場は結構広いんだよ。色々とね」
勿論根底にあるのはきちんとした理由。
アレのもたらす利益と不利益、必要性の濃淡に、最近耳にする嫌なお話など、破棄すべきと考えるに至れる説明はプロスも用意できる。
「だけどそれらを踏まえ、最終判断に用いたのは自分自身の直感だからね。長く言葉を語るよりこの一言の方が兄弟としては分かりやすいだろ?」
「そうですけれどね」
プロスの直感。
血縁関係の二人、兄弟には最も理解しやすい説得力を持つ言葉。
「というわけで、元々破棄すべきと考えていた中で、私の直感があの時あの場所で彼の言葉に従うのが良いと、そう囁いたからこそお願いした。判断は私の責任。彼は私に従っただけでだよ」
「責任を彼に取らせるつもりも、兄上を実際に咎めるつもりもありませんよ。兄上が『壊すべき』と告げて来たなら間違いなく許可は出してましたから。でも事後処理にされた事で面倒な帳尻合わせをさせられる立場なので、お小言だけは言わせてください」
「あぁいくらでも聞こう」
実際彼らの知るその情報を鑑みれば壊すに意志が偏るのは共通意見。
とはいえ急すぎて別の手間が生まれた事に対する苦情だけは告げておく国王。
「…それで、預かりモノの方を、彼に託した理由も聞かせて貰えますよね?」
そしてもう一つの譲渡のお話。
初代勇者に託されたあの箱の中身。
それを何故今、カイセに対して譲渡しようと考えたのかを尋ねる。
「あぁそっちはね、実を言えばあの場に着く前に、彼と対面した時には譲り渡すつもりでいたんだ。もちろん人格診断を行ったうえで問題なしと判断出来たなら、という前提はあれど」
「対面した時、宝物庫に入る前に既に?」
その判断はそもそも、初対面時に浮かんだ案だった。
当然問題ない人物かの判断を合格したらの話。
だがそれを行う前に既に譲渡の可能性は思い浮かべていた。
「正確に言えば彼が連れていた小人。あれを見て渡そうと決めたんだ」
「その小人に何が?」
「そう、あの小人を見た瞬間に、まぁこれも直感になってしまうのだけど『この小人のもとへ渡すべきだ』と思ったんだ。なんというか…あの預かりモノと波長が合うとでも言うべきか」
それもまたプロスの直感ではあるものの、今までとは違った不思議な感覚。
カイセが連れた小人に似合う。
そんな感覚を感じたプロスは、診断を経て小人を携えるカイセのもとへと預かりモノを譲った。
「その小人が、あの箱や鍵に関係のある存在だと?」
「確証はないけど。それでも全く宛のない、大した指針ももない預かりものを譲り渡すにはマシな切っ掛けだと思わないか?」
「…まぉ一応、ただ渡すよりかは」
長く預かり続けたあの箱と中身。
その譲渡の条件は異世界関係者、というハッキリしつつも漠然とした希少存在。
そんな譲渡相手の候補として基本条件を満たしていたカイセ。
そのうえで連れ添う小人の存在が決定的な理由となる要素。
「いずれは誰かに渡さないといけないものだったんだ。追加の要素を伴った彼に渡すのは、悪くない判断だと思って欲しいな」
「まぁ、そうですね。これも事前に相談はして欲しかったですが、認めましょう」
これも結局は事後承諾だが、国王も納得…はちょっと微妙だが理解は示す兄の判断。
「思うところはありますが、結果として二つの事案が無くなったのは正直助かります」
「だろうね。宝物庫の管理者としても、ようやく最奥が空いたのは喜ばしいよ。ちなみに、あの空き部屋にはどうするつもりだい?管理者としては活用の案があって――」
そうして二つの問題を手放したこの国。
それが吉と出るか凶と出るか、特に何も起こらないかは流れに身を任せるしかない。
ただ、そんな未来の話など気にせずプロスはようやく空いた最奥の部屋の活用方法を、以前から考えていた案の相談を始めるのだった。




