お金が生まれる部屋
――下り続けた道。
王城第一宝物庫の、更に奥の後半部に踏み込んだカイセ。
その道の先にあるのはここまでよりもより重要な保管物。
「…え?これって…」
そして次の部屋へと踏み込んだカイセ。
しかしそこに待っていたのは『なぜここに?』という疑問が浮かぶもの。
「御覧の通り、こちらに保管されているのは〔造幣施設〕です」
その部屋のど真ん中に設置された装置。
この世界、この国における造幣の為に必要な大型魔法道具。
巷に流通する金貨銀貨銅貨などの〔お金を造る装置〕がデンと置かれている。
「…施設?装置でなく?」
「はい、何せこの部屋そのものが保管庫であり造幣所でありますので」
「ここ自体が?」
普通に考えれば装置が保管された部屋という認識だけになる。
しかし案内役の番人プロスはここが『造幣施設』であり『造幣所』だと口にする。
「つまりこれを必要に応じて持ち出すとかいう話じゃなくて、ここでお金造ってる?」
「はい。あくまで金貨銀貨に限りますが、必要な際にはこの部屋の中で貨幣が製造されて持ち出されていきます」
この場で作られる貨幣。
ここそのものが造幣所でありお金の生産工場。
目の前の装置は一時的に保管されているのではなくしっかりとここに設置されたもの。
何かしらの理由で金貨銀貨の生産が必要になった場合はここに人が招かれ、この場でお金が作られ、出来たものだけが部屋から持ち出される。
「…なんで造幣局が保管庫の中に?」
「元々は本来通りに保管目的だったのです。金貨銀貨の製造は恒常的に行われるものではありませんでしたから」
この世界の貨幣の流通。
銅貨に関しては毎年一定量が製造されているらしいが、銀貨金貨は毎年ではなく数年に一度で間が空くらしい。
元々は製造後に盗難や複製、製造秘術の流出対策で使用しない間は装置を分解して保管庫の奥へと収めて守って来た。
そして必要な時に持ち出して組み立て使用し、またバラして保管する。
これを繰り返してきたようだ。
「しかし…当時の人々はこう思ったのです。『もう保管庫に設置すればいいのでは?』と」
毎度持ち出し組み立て使ってバラして戻す。
この面倒さと、どうしても地上に持ち出している間のリスクを鑑みて、いっそ元から厳重な保管庫の中に専用造幣局を設置してしまえばいいのでは?という案が出たそうだ。
保管庫の中にある間は警備も万全だが、持ち出す際や地上で運用する際は別途しっかりと警備体制を敷かねばならない。
その手間を省けるのが〔保管庫内造幣局〕の案。
「勿論これはこれで別のリスクも生じますが、色々と天秤にかけてこの形が採用されることになったと聞いています。あ、もちろんコレを稼働させるための鍵は別口で保管されていますが」
検討の結果がこの部屋の誕生。
ただの保管庫だったこの場所に、そのまま造幣所が生まれた。
巷に流通する金貨銀貨は数年に一度この場所で生まれ世の中に放出される。
「偽物の奥に本物か」
「構図としてはそうなりますね。まぁ普段から金貨銀貨が保管されている訳ではないのですが」
最初の部屋の偽貨幣。
その奥に眠っている本物の貨幣…を造る装置。
ちょっと洒落を効かせたような構図になっているのが、何とも言い難い第一保管庫の構造。
「というか…確か地上にも造幣所ってありませんでした?」
「あちらは銅貨専用の施設ですね」
そのうえで、実は地上にも造幣所と呼ばれる王立施設が存在する。
何も知らなかったカイセはむしろそちらの方で全ての貨幣を製造しているものだと思っていた。
しかし現実は分業。
高価な貨幣はこの保管庫の中で、安価な銅貨は地上で作られていた。
「これ、銅貨もこういう奥地で作った方が安全なんじゃないですか?」
「実際のような提案もあったようですが、また別途この場の増築が必要になる点と…なによりも、最初の部屋、贋金の部屋に銅貨はありましたか?」
「…ないですね」
カイセとしては銅貨もより安全な場所で作ればと思う。
地上にあるなら警備を厳重にしても技術を盗まれる可能性は存在し、銅貨を偽造される可能性もここより高くなる。
だがその疑念に対してプロスは、最初の偽物部屋を思い出させた。
あそこには偽の金貨や銀貨が眠っていた。
しかし…そこに銅貨は存在しない。
「単純な話なんですよ。銅貨の偽造は儲からない。適当に作れば簡単に見破られ、精巧に作っても結局は銅貨の価値。どれだけ経費削減を追求しても〔騙せる銅貨〕を造るのには一枚当たりに銅貨一枚と二割ほどの製造経費が掛かると言われています。銅貨一枚偽造するのに銅貨一枚以上の予算を掛けていたら意味がないでしょう?国は国事ゆえに赤字だろうと必要だから作りますが、偽造する者たちは得をしたいから作るのに損する品、なので銅貨の偽物は悪党でも作りたくないのですよ」
「だから警備は必要ない?」
「必要ないわけではありません。適度で十分というわけです」
故郷である日本の最小貨幣である一円玉。
実はこの一円の価値を持つ貨幣を生み出すのにコストが三円も掛かると言われている。
つまりお金の価値だけで言えば作るほどに赤字になる貨幣。
一円以外にも五円玉十円玉も、額面以上のコストが掛かる事もままある。
そんなチグハグな現象が起きていようと、国がお金を造るのは必要だから。
赤字覚悟で必要な貨幣だからこそ構わず作る。
しかし悪党は違う。
儲けの為に作ろうとしても、銅貨は偽造しても赤字確定。。
ゆえにこそここに据え置かれた金貨銀貨よりも銅貨の造幣所の扱いは些か軽いようだ。
とはいえ勿論無防備というわけではなく必要な警備は常備。
あくまでも差があるだけで、そこらの小悪党には銅貨施設すらも突破は出来ないだろう。
「というわけでこの部屋は休業中ではありますが造幣所となります。知る人ぞ知るお金の秘密というわけです」
何だかちょっと社会科見学のような流れになったこの部屋。
ちなみに今は銀貨一枚すら保管されていない。
ここにあるのは装置だけ。
第一保管庫には本物のお金は収納されておらず、それらは別の保管施設の領分ということらしい。
(…でもあの辺、魔法で何か隠匿してるっぽいけど)
そんな目の前の目立つ製造装置とは裏腹にこの部屋には一か所、確実に魔法によって隠蔽された何かが潜んでいた。
カイセの無駄に鋭くなってしまっている感覚が、捉えなくていいのに捉えてしまった隠し事。
(まぁあの中身が何かは分からないけど、あえて隠して語らぬのなら触れない方が身のためか)
ここまで色々と語ってくれたプロスがあえて黙るもの。
多分彼はカイセがその違和感に気づいていることに気づいている。
だがこちらがあえて追求しないことで、向こうも何も語らず案内役に徹する。
互いに空気を読み合って、平和に目的地を目指す同志。
恐らくあの隠し事は、指摘しても誰も得しない。
「さて、では次の部屋へ…いよいよ我々の目的地が見えますよ」




