希少素材の部屋
「――これは…素材がいっぱい…それも希少なものばかり」
「はい。これまでのろくでもない品々と違い、ここに収められるのは間違いなく価値ある品々となります」
次いで踏み込んだ第三の部屋。
案内人のちょっと愚痴混じりに聞こえる誇らしげな言葉と共に目にする保管物。
(ミスリルにオリハルコンがこんなに…他にも色々とレア素材がいっぱい…やっとそれらしい倉庫が出てきたな)
第一の偽物部屋、第二のろくでなし兵器部屋。
そんな残念な保管物の先に待っていたは純粋で王道の価値ある品々。
第三の部屋は〔希少素材〕が保管されたお部屋だった。
中身が一目で分かるように、透明な箱に収められた色取り取りの素材たち。
カイセとしても見覚えのある、鉱石の中でもトップクラスに希少で高価なミスリルやオリハルコンも見たことがない程にかなりの量が収められいる。
もちろんそれだけに限らず巷では高値が付くのが当たり前の素材も多数。
王城内にて第一と付けられる保管庫に収められるに納得の品々が並ぶ部屋だった。
「おーいゆっくり下せー!絶対傷なんてつけるなぁよー!ゆっくりゆっくり…よしいいぞ!」
するとそこには作業中の人々が待っていた。
この保管庫に踏み込んで初めて出会う生身の人間。
「と…筆頭!お疲れ様です!」
「「お疲れ様です」」
「お疲れ様。気を付けて運ぶんだよ?」
「はいもちろん!失礼します!」
そんな彼らとプロスは軽く挨拶を交わし分かれていく。
仕事中の彼らは慎重に素材をゆっくり優しく部屋の外へと運んでいく。
「今のは確か…運び出すには緊張感がありますね」
「彼らが運んでいたあの素材は、この場の素材の中でも特に脆い素材ですからね」
「えぇ…だいぶ身に染みて理解してます…」
そうして目にした彼らが運び出したのはとても脆い素材。
カイセ自身も一度だけ扱ったことがあるが、その素材を一つ使った品を完成させるまでに五つもダメにしてしまった。
加工以前に持っただけで割れてしまった時は本当にイラっとした。
魔境の森という環境に限れば簡単に代用が効く素材だったのもあり、それ以降は一度も使っていない面倒な素材。
だが本来はその代用素材の方がもっと高価なのを鑑みれば、壊さず扱える修練技術を持つ一流職人を抱える国にとってはこちらの方が安上がりに済むだろう。
「次はこいつを…おっと筆頭。ご苦労様です」
するとまた別の作業中の一団に出会う。
彼らはちょうど運び込んできた素材を然るべき位置へと格納中のようだ。
「これは…ラピスラズリですか。それもかなり大量ですね」
「えぇ、一度にこんなに運び込むのは俺らも初めてです」
運び込まれたのは大量の〔ラピスラズリの鉱石〕。
この世界においては〔魔法道具の素材〕として知れ渡る素材。
その希少性に関してはピンからキリまで。
そもそもあちらとこちらのラピスラズリが同一のものかという疑問もあるわけだが、少なくともこちらの基準においては〔不純物の少なさ〕で判別される。
真っ青で深い蒼に近いほどに素材としての質は高品質。
低品質は割と多く出回るが、高品質は確かに希少素材と扱われて然るべきもの。
カイセの住まう魔境の森でも採掘できる素材だが、その殆どは中等級程度で高品質なものは本当に稀。
そんな希少品が、文字通り箱いっぱいに収められて運び込まれていた。
流石に専門家たちにも驚きの出来事であるらしい。
「む、ちょっとお待ちを」
「はい?」
そんな便利な素材を運び込む人々を見守っていると、プロスは唐突に待ったを掛けた。
一行に近づいて、箱の中を物色し、いくつかのラピスラズリをその手に持ち検分する。
「…はぁ、すみませんがこれらは受け入れられません。引き返してください」
「あ…りょ、了解しました!」
その結果、プロスは仕事上の権限を持って彼らに引き返すように命じた。
驚く運び屋たちであるが、プロスに見せられた石を手にした瞬間に理由を理解して、すぐさま指示通りに全員が来た道を引き返す。
もちろん運んできた大量のラピスラズリを一つ残らず持ち帰る。
「今のは何が?」
「単純なお話です。ここに収めるべきでない粗悪品が混じっていたので持ち帰らせました。仕分けのやり直しですね」
どうやらその真意は品質の問題。
大量のラピスラズリの中に難ありの品が混ざっていたようだ。
「ここに収めるのは高品質が前提の品々のみです。素材を扱う職人たちも『第一保管庫から取り寄せた高品質素材』という前提でお仕事に挑みます。そこに低品質が混ざるなどあっては困ります。もちろん、あの質であれば加工する職人も持った瞬間にダメだと理解できるでしょうが」
ざっと見で違和感に気付き、そのまま見抜くその観察眼。
純粋な情報開示の《鑑定》だけでは得られぬ僅かな品質の差をその目と経験で見破る。
そもそも『持てばわかる』ものではあったようだが、最初の疑念は持たずに見るだけで浮かべたプロス。
「…お見事です。私もざっと見てましたけど、全然見分けられませんでした」
「えぇ、見た目には問題ないように見えましたが、あれらの問題は内側にある品だったので見た目だけでは難しく見逃すでしょう。持ってみれば簡単だったのですが」
「目で判別していない?」
「判断材料は〔見る〕だけでなく〔聞く〕に〔感じる〕も含まれますよ」
そもそも目だけでなく音や雰囲気でも判別していたようだ。
それもあの僅かな時間でとなれば、その界隈でも相当な玄人達人。
視覚やスキルだけに頼らない、聴覚に直感での判別も極め自然体であっさりと見抜くその全身鑑定眼。
当然誰にでもできるものではない。
「流石は本職の一流…ですね」
「伊達に歳は取っておりませんので。こればかりは若い方にも早々譲る気はありませんよ」
時間を掛けて積み重ねた感覚は明確なアドバンテージ。
特別なスキルなどなくとも、スキル以上の力を示せるという可能性の証明。
プロスもその体現者の一人。
「しかし…ふむ」
「どうかしました?」
だがその一仕事を終えたプロスは何やら難しい表情を見せる。
「いえ…まぁお恥ずかしい話ですが、最近はああ言った不備が増えてまして。見ては難しくとも持てば簡単にわかるもの。にも関わらず気づかれずに紛れ込む。それらの仕分けや見極めは他部署の役目ですが、こうも繰り返されると一言返しておかねばならないか…と思いましてね」
どうやら今のような納品物の不備に関してはここ最近増えているトラブルであるらしい。
プロス達が担うのはあくまでも保管管理防衛。
先ほどの集団が担うのもあくまでも運搬。
あくまでも品物自体の仕分けは別部署の仕事であり、それらの不備はその部署の失敗。
連携していく上で彼らの不備を、責任ある立場としてどう対処していくかを考えていたようだ。
「と…申し訳ありません。今はこちらが大事ですね」
だがその王城内での問題は、カイセには関係のないお話。
今二人がやるべきはこの先へ進むこと。
色々なゴタゴタはまずは後回し。
「…これは」
「この先は更に厳重になっていますので」
そして今立つのは再びの大扉の前。
どうやらここから先はここまでの部屋より更にセキュリティのレベルが上がるようだ。
「…開きました」
その扉の端末に、いくつも操作を行うプロス。
すると開かれた大扉。
「では進みましょう。目的地は近いですよ」
そうしてカイセ達は更に奥へ。
宝物庫のより深層へと踏み込んでいくのだった。




