メービス大陸
出航準備を整えた貴也達が向うのはメービス大陸。
エンカの姉である『竜殺の拳・レスタシア・クォルツ』が最後に目撃された大陸だ。
魔王の居城から近く、強い魔物が闊歩するこの大陸で貴也達を待ち受けるもの。
それは、かつての勇者と共に魔王を打ち倒した者たちの成れの果てであった……
パーズィー港。
メービス大陸の西端に位置するこの港町は、大陸の海の玄関口として栄えていた。
忙しそうに駆け回る水夫に邪魔扱いされ、海鳥の声を聞きながら情報を集めること数時間。
とっぷりと日も暮れたので、一行は夕食を取るために酒場へと出向いていた。
「漸く到着したけれど、全く手ごたえがないわね」
海の荒くれ者達で盛況な店内で、喧騒の中こぼす様にエンカがぼやく。
今までとは違い目撃情報を頼りにやって来たため、芳しくない結果に意気消沈してしまっていた。
それを、五日ぶりの陸の感触を確かめつつルーインが慰める。
「まだ初日じゃないですか。
きっと明日になれば、なにか手がかりを得られます!」
隣にちょこんと座ったノゥは、海の幸に舌鼓をうっている。
船旅を始めてわずか二日でお菓子のストックを平らげてしまったため、美味しいものに飢えていたようだ。
他の者に比べると圧倒的に船の上での滞在時間が短い貴也だったが、それでも疲れがないわけではない。
身体を解しながら、海老に似た生物の塩焼きを頬張る。
「逸る気持ちは分かるけど、まずは食べたほうがいい。
慣れない海の上に五日もいたんだから」
「そうね……ありがとう」
心遣いに感謝を述べ、エンカも食事に手をつける。
普段に比べれば、やはり箸の進みが遅いのは否めないが。
心此処にあらずといった体で、機械的に食べ物を口に運んでいく。
「なにか効率よく探す、良い方法があればいいのだけれどね。
名の知れた人物とはいえ、全員が顔を知っているわけじゃないもの」
食べつつも、やはり姉探しから頭は離れていない。
なんとか早く手がかりを見つけてあげたいと、貴也もじれったさを感じていた。
と、突然酒場の一角で男達が雄たけびをあげた。
港町の夜の酒場にはガラの悪い人間も多いが、情報も集まりやすいという点でここで食事をすることに決めた。
それが悪いほうに出たかと心配になり、男達の動向に注視する。
「今日こそアイツが負ける方に賭けるぜ!!」
「そりゃ無謀だ! 相手はたかだか銀色じゃねぇか!」
「だからこその大穴よ! 男ならロマンだろうが!」
豪快に酒をあおりつつ、あーでもないこーでもないと議論を交わす男達。
喧嘩をしているような怒鳴り声ではあるが気の知れた仲間同士らしく、肩を組みながら言い合っている。
「なんの話かしらね」
大声で話しているものだから大体の内容は聞こえてくるが、いまいち核心に至らない。
すると、ノゥが椅子を降りてトコトコと歩き出し、何かを拾って戻ってくる。
「これ」
それはチラシだった。
円形状の建物が中央にでかでかと映り『来たれ強者!』という煽り文句が入っている。
「闘技場?」
ノゥはコクリと頷く。
男達の心を読んだのだろう。その会話の内容が、闘技場についてのことだと。
「しかも賭け闘技場みたいね、内容から察するに」
「今日こそ負ける方にって言葉から、強い闘士がいるのかもしれないな」
そこでエンカと貴也はピンときて顔を見合わせる。
いや、しかし、まさか勇傑の7人の一人が賭け闘技場にいるとも思えないが……。
「行くだけ行ってみるか?」
藁にも縋りたいエンカは、可能性が低かろうとゼロじゃなければと迷い無く頷く。
今日の睡眠予定時間までそれほど猶予があるわけではないが、見てくるだけなら大丈夫だろうと貴也も頷き返した。
あとはルーインとノゥだが、と隣のルーインに声をかけると。
「ふぇぇ?」
テーブルに突っ伏した酩酊者がそこにはいた。
「……誰だ? ルーインにオルソーを飲ませたのは?」
テーブルの上には空になったオルソーのビンが転がっていた。
仕方なく宿屋にルーインを運び込む。
ノゥと寝入ったルーインを置いて行くわけにもいかず、闘技場での捜索は明日ということになった。
ルーインの分まで『すまん』とエンカに謝る貴也。
「長旅で疲れていたのでしょうね。
仕切りなおして明日ゆっくり探せると思えば、そう悪くもないわよ」
特に気落ちした風でも無理している風でもなく言われ、救われた。
『また明日』とノゥと連れ立って自室に向うエンカの背中を見送り、貴也も自室に入った。
ベッドの上にはすでに眠りこけているルーイン。
時折『もう飲めません……』とうわ言を口走っていた。
「大丈夫だ、もう飲ませないから」
小声で答えると、貴也はベッド脇の窓際に腰を落ち着ける。
二部屋をとり、そのうちの一部屋にエンカとノゥ。
もう一部屋に貴也とルーインという部屋割りである。
男女が同じ部屋なのはどうかと貴也自身が抗議したが、一度寝れば起きることのない貴也なら安心だとエンカ。
酔いから醒めて起きた時にルーインが驚くのではとも思ったが、貴也一人にするわけにもいかないとの判断だ。
海が一望出来る窓からは、潮風が流れ込んでくる。
夜でも発着する船があるのか、港からは様々な音がひっきりなしに聞こえてきていた。
隣で眠るルーインを見ながら『いつもとは逆だな』と、貴也は優しく髪を撫でたのだった。
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午後の授業が終わると、貴也は第二体育館へと急ぐ。
今までは帰宅部だったが、先日無理を言って剣道部へと入部したのだ。
二年生になってからの途中入部は異例のことではあったが『下級生と同じ基礎練習でいいので』という貴也の熱意に絆された、顧問の二つ返事で認めれれることとなった。
「キェェェェェェッ!!」
裂帛の気合と共に面を打ち込む。
防具は詩乃の父親が経験者だということで、それを借りることにした。
剣道が実戦で通用するかというと、それは難しいだろう。
だが得るものがないわけではない。
相手との間合い、呼吸、そういったものを学び取ることは出来るのだ。
今出来ることをやる。少しでも強くなる。
自分の身を、仲間達を守れるように。
船の上にいた間は、向こうでもエンカに手ほどきを受けていた。
たかだか数日で強くなれるほど甘くはないぞとエンカに言われ、貴也も重々承知していると答えた。
半ば無駄になるかもしれない、何も身につかないかもしれない特訓だというのに、付き合ってくれるエンカはやはり仲間思いだと貴也は思う。
その気持ちに応えるためにも、必死に日々研鑽に勉める。
その甲斐あってか、すでに死線を潜り抜けてきたという経験があったからか、エンカが驚くような速度で貴也は成長していた。
だがメービス大陸は、魔王の居城のある大陸のすぐ近く。
それ相応に強い魔物が闊歩しているとの話だ。
迷いの森のような惨劇を繰り返さないために、慢心することなく貴也の特訓は続く。




