39.平凡なる超えし者、二度目のニアミスに遭遇する……
伝令を終えたクローナと部屋に戻ると、私は机の上の特等席に座り、本を眺めながら考える。
「純白のアルカ」を順当に進めていれば、何体かは進行上の強制イベントで倒しているはずだ。
それらは除外していいかな。
とすると、やはり攻略キャラルートで登場するボスキャラのみに絞り込んでいいのかな。
クルスのシナリオで出てくるラスボスはカイランだ。
アルカがどんなフラグ立てをしてきたかは知らないが、フラグを立てようが立てまいが、カイラン自身がフラグのあるなしで存在の有無を確定されるわけではない。
フラグを立てようが立てまいが、存在自体はしているわけだ。
問題は、この世界では、アルカの人生に関わるか関わらないか、という感じになる。
起因というフラグを立てれば関わるし、それがなければ真っ赤な他人である。きっと擦れ違うこともない。
つまり、アルカがフラグを立てていようがいまいがボスは存在するのだから、先手必勝で叩くのも一つの手だ、ということだ。
カイランの存在は偶然知ったことだが、同じように、他のボスはこちらから探してみるのも悪くないかもしれない。
だってボスは、ゲーム準拠なら、なんやかんやみんな死ぬからね。
もし私が先にどうにかできれば、カイランと同じように、ボスも生かすことができるかもしれない。
だってボスは、イコール悪党ってわけではないからね。
まあ、ボス扱いのモンスターは狩っておいてもいいとは思うけど。
あいつらは人と動物を襲うから。
「――ねえねえ、少しお昼寝しない?」
取り込み中なんですよ。クローナさん。……返事を聞く前に持っていくのやめてくれない? いや、もういいか。
それより考えよう。
抱きしめられるくらいもう慣れたもんだ。はいはい巨大化しますよ。
で、だ。
攻略キャラに関わるボスは何体か思い当たるが、一番気になるのは、あいつだろう。
ファンタジーのお約束、ドラゴン――「大地の竜」だ。
ゲーム「純白のアルカ」で最強の武器の一つである「大地の剣」を持っているボスだ。
まあ、元は女の子向けのRPG要素が強いゲーム「純白のアルカ」なので、そんなに強くはなかったが。
しかし、実際のドラゴンは、もうほんと、えげつないほど強い。
そりゃそうだ。
ぶっちゃけ「巨体を維持する肉体」を持っているだけで、大型の生物は強い。力も皮膚の硬さも人間の比じゃない。
現実的に言うなら、ゾウやらサイやらクジラやらに剣で勝てますかって話になる。
ゲームなら数値上で何発でも耐えられるかもしれないが、現実に自分より大きな生物に体当たりとかされたら、どんなに重装備でもかなりのダメージを負うだろう。
運よく軽傷で済んだとしても、現実にはターン制なんて制度もなく、一度倒されたらずっと敵のターンで、死ぬまで攻撃を食らい続ける危険もある。
何度もトライできるならいつかは勝てるかもしれないが、現実なら一度死んだらまず終わりだ。
……うわおいちょっ、クローナよだれっ。私の毛皮に美少女が垂らしてはいけない天使の水遊びが夢の中の世界地図を描いているよっ。
くそぅ……完全に寝ているな。
もういいよ我慢するよ。
どうせ汚れなんて「変化」で綺麗にできるからね。
しかもドラゴンは飛んだり火を噴いたりするからね。
私がドラゴンなら、人の攻撃が届かないところから攻撃するね。一方的に。
一度死んだら終わりの現実での戦いってのは、そういうことだからね。勝つために最善を尽くすべきだと思うね。死んだら終わりなんだからね。
で、不憫にも、そのドラゴンを倒さなきゃいけない攻略キャラがいるんだよね。
錬金術師フェンリー・フォン。
子爵フォン家の養子になった才能溢れるイケてるメンズで、冷ややかな眼差しに少々S気質の真面目なインテリメガネ男子だ。
私は線の細い美少年系が好きなので、Sっ気の強いキャラはあんまり好きじゃないんだよね。ほら、心がウエハースだから。
それにしても、よりによって、って感じだなぁ。
まさか学者肌のメンズが、脳筋の夢であるドラゴン殺しをこなさなきゃいけないわけだ。
ゲームだとあくまで設定で「そんなもんか」とすんなり受け入れられるが、現実と考えるときっついもんがあるよね。
何が悲しくて、磨いてきた頭脳そっちのけで、命がけで究極の肉体労働しなきゃならんのだ。
でも、冷静に考えると、ドラゴンを倒す必要がないんだよね。
確か「ドラゴンの心臓」が必要で、それを取りにいくってイベントだった。
理由は、なんか、魔道具の一つを完成させるためとかなんとかだったはず。シナリオはざっとしか頭に入れてきてないから、詳細がわからん。
でも、だからこそ、だ。
……ぎゃあああああああっ。クローナっ、抱く力が強いっ。なんかウエストが通常の半分くらいに締め上げられてるっ。痛くはないけどさすがに苦しいっ。
さすがに避難した。
私たちの愛は永遠だけど、寝ている時の君は愛せないよ。
で、なんだっけ?
あ、そうだ。
ゲームではいちいち突っ込めなかったが、現実は違う。
何もドラゴンを倒す必要はない、かもしれないからね。それを尋ねることができる。
「ドラゴンの心臓」以外の代替品が使えるかもしれないし、その魔道具自体が本当に必要か確かめることもできる。それこそ代わりの何かがあるかもしれないし。
命がけで戦うのは、全ての選択肢を潰してからでもいいだろう。
ただ、フェンリーは頭脳明晰って設定だった。
だから私の疑問のことごとくを論破し、やはり結論として「ドラゴンの心臓」を欲するかもしれない。
その時は……まあ、その時はその時か。
とにかくまずは会って話してみた方がいいのだろう。
…………
接触方法に不安が残るし、あのメンズは会ってすぐの人にぺらぺらしゃべるタイプじゃないから、会って話したところで進展があるとも思えないけどね。
ただ、様子見くらいはしてもいいかもしれない。
よし、そうと決まれば探しに行ってみるか。
フェンリー・フォンは、学校に専用の研究室を持っている。
まだ学生なのに、すでに錬金術師として結果を出し、国が認めるほどの実績がある、って設定だったはず。
校舎の中、か……
まだ陽は高い。
時間にして2時くらいかな。
最上級生以外は今まさに授業を受けているから、校舎内をうろつくのは少々リスクが高いか。その割にメリットもないし。
じゃあ、外から覗いてみるか。
特別教室棟のどこかにフェンリーの研究室があるはずだから、まずは場所から探してみよう。接触はそれからだ。
壁をよじ登り、窓から一つずつ特別教室棟を確認していく。
クラブみたいな集まりもあるのか、やたら武器が置いてある部屋や、私たちの世界にあるかのようなシンプルな美術室や化学実験室風の部屋、魔法陣だらけの怪しい部屋もある。
傾向の違いはあれど、同好の志が集まるのは、どこの世界でも同じなのだろう。
……あっ。やべっ。
とある窓から中を覗き、慌てて頭を引っ込めた。
どうだ?
……動きは、ない、な。
かなりやばかった。
若干目が合ったような気がするが、向こうは気づかなかったようだ。
もしかしたらガラスの質が悪いから、完全にはこちらが見えなかったのかもしれない。
前の時も際どかったが、今回もか。
私らにはこういう縁があるのかね。
部屋の中には、主人公アルカがいた。
ならば、恐らく、ここがフェンリーの研究室だろう。




