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38.平凡なる超えし者、ちょっと踏み込んだことを考える……





 事態は思ったより進んでいたようだ。

 これは本アクロが溜息をつくのも、ちょっとわかる。


「――これはどうすれば?」


「――もう少し細かく刻んでください」


 色々と突っ込みたいところだが、一番気になるところだけにしてみよう。


 お兄ちゃんが関わった「純白のアルカ」の世界って、ラインラックに何があったの?

 人気のある王道正道金髪王子キャラは、どうしてそんなに料理にこだわってるの?

 私まだ料理が絡まないイケメン王子、見てないんだけど。





 クローナと疑惑の残る形で愛を確かめ合った二日後、盗み聞きしていたら、いよいよキルフェコルトの番が回ってきたらしい。

 例の、死んでいたアクロディリアを生き返らせてくれたお礼をする件だ。

 

 単純な順番待ちと、スケジュールの調整をしていて、ようやくキルフェコルトが時間が作れたようだ。

 クローナに、今日中にアクロディリア……まあ兄アクロに予定を伝えるように、と指示が出た。

 そしてその話を聞いていた私は、今一度エプロンの刺繍となってクローナに同行することにした。


 昼頃で、向かった先は調理実習室だ。


 「なぜ部屋に行かないのか」と問えば、最近のアクロディリアは、この時間は調理実習室を借りて作業をしているのだそうだ。

 まあそれはすぐ納得できた。

 料理でお礼してるって聞いていたからね。


 問題は、彼だ。奴だ。


 なんでラインラックと肩を並べて仲良く料理してるんですかね、うちの兄は。

 いや今回ばかりは、兄じゃなくて、相手の王子に問いただすべきだな。何やってんのあの王子?


 ……胸中複雑そうな本アクロが、所在なさげに、でもしっかり料理の手伝いをしているのがまたなんとも……

 溜息ついてるところ見ているし、なんかさすがにかわいそうだわ。


 あとメイドのレンと、ラインラックの従者兼友人兼生徒のヴァーサスもいるね。……ああ怖いっ。怖い怖い怖いっ。レンの包丁の使い方怖いっ。それじゃ指切るからっ。え、あの人案外不器用なの?


「――あ、レン! そうじゃなくて! それじゃ手を切るわ!」


 ちらちらとレンの様子を見ている兄アクロも、かなり焦っている。

 だよね危ないよね。あれ。

 ジャガイモ剥く時は、こう、包丁は小さく上下に動かす程度でイモの方を回していくんだよ。

 無理ならせめて外側にシャッてやらないと。刀削麺みたいにシャッと。……ところであれ、色形はジャガイモそのものだけど、この世界にもあるのかな?


「――……」


 それに引き換え、一人黙々と、教本を見ながらお菓子作りをしているヴァーサスの手際のよさったらないな。

 どっちかと言うとヴァーサスの方が不器用そうなのになぁ。……佇まいとか雰囲気がすでに職人っぽくはあるけど。


「――作業中失礼します」


 そしてそんなおかしな王族貴族たちに、クローナが外から声を掛けた。兄アクロの時も似たようなことしたなぁ。そうそう、クローナと初めて会ったのもこの辺だったね。


「――こちらの予定が決まりましたので、お伝えに来ました。構いませんか?」


「――もちろん。殿下、火の強さに注意してくださいね」


「――ああ。弱火で煮立てず、あまり灰汁を取らない」


 本当にラインラックは何をしてるの? 弱火でコトコト煮込みながら灰汁取りしてるの? それ一国の王子のやること? 


 ブラウスにエプロンを掛けた、私の知っている悪役令嬢アクロディリアとはまるっきり正反対の質素ながら美しい女性が、「お待たせ」とやってきた。


「――楽しそうですね」


 クローナすごいな。

 皮肉にしか聞こえないことを皮肉感をまったく出さずに言えるんだ。……本当に他意がないだけなのかもしれないけど。


「――ラインラック殿下のしつこさに負けただけよ。まあわたしはそれでも断るつもりだったけれど、アロウフィリが『料理くらい教えてやれ』って言うから」


 あ、本アクロが口添えしたんだ。ああ、だから今、本アクロも付き合わされてるんだね。言いだしっぺだから断れないのか。


「――で、そちらの殿下はいつが空いているの?」


 クローナが指定した日は、明日の昼か夜である。どちらでもいいらしい。


「――じゃあ夜にしましょうか」


「――承りました。伝えておきます」


 明日の夜か。オッケー。


「――それにしても、最近キルフェコルト殿下はお忙しいみたいね」


「――そうですね。査定と学園祭が迫っていますから、少々立て込んでいます」


 そういや生徒会長でもあるんだよね、キルフェコルト。

 ほぼ毎日朝から夕方までほとんど部屋にいないから、まあ、忙しいんだろうね。何やってるかまでは把握してないけど。


「――お待たせしました。私たちが最後になるのでしょうか?」


「――いえ、最後から二番目よ。最後はアルカさんと決めているから」


 アルカ? 意外な名前が……いや、これで確定って思っていいのかな?


 お兄ちゃん、アルカの代わりに死んだんじゃなかろうか。

 それで魔王が使用する「復活の秘術」のイベントを、そっくりそのままアルカの代わりにアクロディリアがやったっぽいね。


 アルカとの会食に潜り込めればはっきりするかもしれないな。アルカと食事するイベントには私も参加しよっと。


「――おい!」


 ん?


 誰か近づいてきているのはわかったが、誰か把握する前にかなりのスピードで走ってきたな。


「――今日は何作ってるんだ!? くれ!」


 あ、やけにかわいい男の子だと思えばクルスだ。クルスじゃん。攻略キャラのクルスだよ。先日おたくのお兄さんに会いましたよ。


 クルスは、カイランそっくりだ。

 あいつの十代半ばくらいの頃、と言うのが一番近いだろう。

 唯一の大きな違いと言えば、銀髪に金の瞳だったカイランとは逆で、クルスは金髪に銀色の瞳ってことだ。まあどの道美形兄弟ってことだね。


 この感じだと、クルスはここのところ食べ物を貰いに通っているみたいだね。

 誰と誰がどういう知り合いだとか、対人関係が気になるところだが。


「――では私はこれで失礼します」


 クルス乱入なんて些事とばかりに、用事を終えたクローナはさっさと現場を離れた。もうちょっと観察したかったが……まあいいや。


「――あれがカイランの弟よ」


 知ってまーす。ゲームで見てまーす。


「――あの様子だと、会ってはいないみたいね」


 「カイランとクルスは会ったの?」と聞けば、クローナは私と同じ答えを出していた。

 そうね、クルスは結構な脳筋タイプで考えるよりも感情優先みたいな子だったから、もし会っていれば、もう少し落ち着いていると思う。悩んでいると思う。


 それにしても、カイランは今頃どこで何やってるんだろうなぁ。

 結局弟には会わずに、もう遠くに行っちゃったのかな。





 クルスと遭遇したことで、少しばかり攻略キャラたちのことを考えてみた。


 兄アクロは、なんやかんや謎も多いが、アクロディリア時代と違って対人関係は良好だ。

 護衛でもあるレンもいるし、王子連中などの周りの人たちも今の兄アクロには協力的かつ友好的なので、校内にいる間は大丈夫だろう。

 要するに、そんなに近くにいる必要がないってことだ。


 兄アクロの学校生活に、私の補助は必要ない。

 この先いろんなことが起こるだろうし、何があるかわからない部分もたくさんあるだろうけど、ちょっと目を離した隙に危険が迫るってパターンはかなり低いと思う。


 となると、やはりほかの攻略キャラルートにいるボスキャラが気になってくる。


 カイランのことはほぼ偶然知ることができた情報から先手を打てた。

 まあ私が関わる必要があったかどうかは、正直判断が難しいところもあるが。でも結果としてはそんなに悪い着地はしてないと思う。


 お兄ちゃん優先で、でもできる限りのことはしようと思っていたが。


 ここまで様子を見てきた限りでは、私が手伝わなければならないような状況はない気がする。

 学校にいる間はね。


 やるべきことをシフトさせてもいいかもしれない。


 お兄ちゃんが学校で活動している間、私は「関わってくるかもしれないボス」を潰していくのもいいかもしれない。

 直接的ではないかもしれないが、間接的にお兄ちゃんの助けの一つにはなりえるかもしれない。


 だって今回のことで、たぶん、カイランの命は助かった。

 もしイベントが進行していれば、カイランはクルスに殺されていた、かもしれないから。もしかしたらクルスが死ぬようなパターンもあったかもしれないし。

 どう転ぶかわからない危険を、私が割り込むことで、退けることはできたんじゃなかろうか。


 そう考えると、やはり、できることはやってもいいのかなーと思わなくもないわけで。


 誰も不幸にならない。

 誰も死なないで済む。

 そんなシナリオがあるなら、その方がいいじゃない。

 

 ちょっと考えてみようかな。

 そういう道がないかどうか。






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