ウレシイ
あとで改題します。
遅かったなぁ……。
汚泥と腐臭の漂う地下室に、彼はいた。
あの鮮やかな赤毛は、ドブ川の様に濁って油っぽくベタついていた。
ついさっきまで生きていたのになぁ。
彼の細すぎる手首は、まるで樹の梢の様で。
冷たくなり始めていたけれど、微かに温かかった。
俺の脚力なら、この朽ちた牢を破るのは造作もないことだった。しかし、彼の衰弱しきった身体では叶わなかったのだろう。
それにしても、よく5年もこんな場所で生きていられたものだ。
「……あ……よ、よ」
「あれっ」
牢を出ようとしたところで、微かな吐息混じりの声が、俺を呼び止めた。
「生きてるし」
「お、お……ころ、し……」
「分かったから、動かないでくれよ」
彼の頭を、俺の膝に載せて、彼の最期の声を聞いてあげようと思った。
美玲と呼ぶこともできない彼を、何と呼べばいいのだろう。
「ごめんなさい」
絞り出す様に言われた一言に、俺は少々、面食らった。
「……お前が殺したのは、俺じゃないだろ」
「そう、だけど……。
もう、謝る相手、いない、から」
「困るなぁ、俺に言われても。
……代わりに誰に捕まったのか、教えてよ」
彼の瞳がハッと見開かれた。
痛いくらい、自分の瞳と似ていた。
この子も、この地下牢で自分の死を望んだのだろう。
そうじゃなければ、こんな瞳は……。
「……ーーー……」
それが、最期の言葉だった。
目を瞑らせると、涙が頬に流れた。
ああ。
この感情、何だろう。
怖いのかもしれない。
いや。
「嬉しいね、双葉」




