燃えない道
炎の渦と化した街に、人っ子一人居ない。
火の燃え盛る音以外、静かだ。
もうこの世界には俺とことはさんしか、居ないのだろうか。
ふと、脳裏にめしあさんの顔が浮かんだ。
俺なんかの為に、花を手向けてくれた優しい彼女。
あの子が何をしたっていうんだろう。
あの子は生きていただけじゃないか。
そんな子まで、この炎に飲まれてしまったのだろうか。
「ことはさん」
「……はい」
「これも、ソフィストがやったのか? 」
「ええ」
「何の為に……? 」
「誤解しないでください。
ソフィストが街に火をつけた訳じゃないんです」
「どういうこと? 」
「言ったじゃないですか。
これは、戦争なんです。
良川五月を殺そうとする国家と、彼を守ろうとするソフィストとの。
この世界の国家はソフィストとの対話を諦めて……。
ソフィストを根絶やしにする方を選びました」
「でも……この世界の良川は」
「美玲くん」
片手片足を失ってもなお、こんなに強い瞳をする彼女が不思議だった。
「っていうか、呼ばれ慣れねな」
「それは置いておいて。私だって呼び慣れません」
「良川五月の生きているあっちの世界では、国家は既にパラレルワールドの存在に気づいています。
そして、先日、パラレルワールドを繋ぐゲートを創ってしまった。
美玲くんがここに来るのに使った、あの装置です。
ところで、パラレルワールドで死んだ人間はどうなると思いますが? 」
「……帰れるはずないな」
「そうです。
行方不明ということで処理されます」
トグロを巻く炎の中を歩けているのが不思議だった。
吸い込む空気が熱を含んでいないのが不思議だった。
まるで安全な道を通らされていると感じていたが、本当にその通りだったとは。
「俺らはまんまと、国家の思う通りに踊らされた訳か」
「……すみません」
「なしてことはさんが謝るの」
「私は、あなた達に来るなと言うべきでした。こうなることは予測できていたんです。
なのに、私は言わなかった」
ことはさんは俺のワイシャツを強く掴んだ。
その手が怒りによってか、悲しみによってか……それはわからないが、確かに震えたのを俺はこの目で見た。
葛藤があったのだろうか。
ロボットにも、YesとNo以外の感情があるのか。
「来んなって言われて、俺が来ないど思う?
ましてあの良川まで居るのに」
「でも……」
「いいんだよ」
「え? 」
「例えやすやすと罠にはまっただけでも、俺はことはさんを思い出したし、状況が状況だけども、こうやって抱きかかえてあげれてる。
国家は関係ねぇ。
俺はことはさんに会いたかったから、ここまで来たんだ」
ことはさんは何かを囁いた。
世界で唯一、俺にだけ聞こえるように、言った言葉。
炎の壁が途絶えて、冷たい風が顔を打ちつけた。
顔を上げれば、この世界の摩天楼が冴え冴えと沈黙していた。
火の手がここまで来ていないのを見ると、ここにラスボスがいる様だ。
そして、おそらくここが良川が指定した合流場所。
入り口は、怪物が口を開けて餌を待つが如く、大口を開けて俺を待っていた。




