私は……
ああ、なんだ、俺か。
良川の転送装置に腰掛け、頭に厳めしいヘルメットを被ると、抗いようのない、突発的な強い眠気に襲われた。
大きい良川の手が、そっと伸べられて、
「おやすみ。
ちょっと夢を見てれば、すぐだからね」
子守唄のように優しい声で、そう囁かれた。俺は幼児のように、簡単に眠りに落ちた。
深淵の夢。
身体がズブズブと沈んで、服が水を含んで重くなる感覚。
どんどん、どんどん落ちて行く。
閉じたままの瞼の裏に、水面が浮かんだ。
沼の中で手招くのは、誰だ。
赤い、赤い色。
あれは、髪の色。
ああ、そうか。
あれは、俺か。
そうと気が付けば、それからは早かった。
下からの熱風に押され、俺は沼の底から宙に打ち上げられた。
目は、もう見開かれている。
朧げに白く霞む空が近付いて、あっという間に遠ざかった。
広げた両腕の隙間を、強い風が吹き抜けてゆく。
ふと、つま先が目に入った。
そうだ。俺の足だ。
これは俺の手。
この景色は、俺の瞳が映している物だ。
俺は身を捻り、大の字になって、迫る地面と対面した。
そこは、既に地面の形を成していなかった。ただ、紅い。火の海だった。
その色に混じって、騙し絵の様に、何かの映像が浮かび上がった。
それは段々鮮明になって、俺の目から脳に直接飛び込んで来た。
『ごめんなさい』
『任務なんです』
長い髪の、少女。
顔は逆光で、よく見えない。
ただ、悪魔のように鋭い爪だけは、嫌に鮮明に見える。
『世界を善くする為に、あなたには犠牲になってもらいます』
『私は任務を遂行させる』
『それだけしかないので』
彼女の後ろから出てきたのは、ああ、俺だ。
『さあ、手を合わせて』
最後に、あなたの名前を教えて。そしたら、何だってする。
そう言ったのは、俺だ。
『……私は、コトハ』




