もうひとりのおれ
空からは炎が降り注ぎ、それを受け止める大地もまた、紅に染まっていた。
瓦礫が道を塞ぎ、本来家であった物が燃え、都市が都市の形を成していなかった。
熱い空気は吸う度に肺を焼き、目からは涙すら出なかった。
干からびた喉では、助けを求める事すら出来なかったし、そもそも助けてくれる様な人の姿は一つも無い。
皆はどこだろう。
見回したところで、ただ轟々という音と紅が見えるばかりで、この場所がどこなのか、もはや分からなかった。
そうだ。
ここはどこだろう。
さっきまで桜の樹の下にいたんだよ。
雅も一緒だったんだよ。
小さな手で燃えていない枝を掻き分け、虱潰しに探しても、見つかる訳はなかった。
ああ、俺は違う場所に来てしまった。
気付いたときには、彼女が俺の手を引いていた。
足には悪魔の様に鋭い掻き爪。
耳は何かの機械がついていた。
およそ人間とは思えなかったが、彼女の表情が、声が、そしてこの繋がれた手が、あまりにあたたかだったから。
不思議と怖くは無かった。
そして、彼女はもう一人の俺のいる場所まで連れて行った。
地下のシェルターと思しきそこは、楼閣の様な学校の真下にあった。
そこで、俺たちは手を合わせた。
テロという言葉で片付けられた悪魔の1年が首謀者死亡という形で終局し、今日まで、俺はこの血に汚れた手を擦り合わせて生きてきた。
どこでバレたんだろう。
部屋の中で息を殺していたのに、誰かに拉致されて、あの地獄を創り上げた首謀者の亡霊と対峙した。
けど、あの時話した俺は、俺じゃない。
俺じゃない方の、あの時の俺が、俺の中にシンクロして、言葉を紡がせた。
お陰で俺は地下牢と思しき場所にぶち込まれ、嗅覚以外の全てを奪われた。
ああ、でも。
まだこの胸には、罪悪感が残ってた。
あの日の俺がしてしまったこと。
手のひらに残った衝撃。
鼻に残った、彼の血の匂い。
俺はまだ、子供だった。
自分の頭で考えることもせず、胸の衝動に理性を預けて、彼を殺してしまった。
今なら、分かるよ。
俺はあんなことをすべきじゃなかったということ。
そして、例え俺が殺さなくても、俺じゃない方の俺が彼を殺していたこと。
この喉から声が出る事はもう無いけど、今なら歌が歌えるかもね。




