がーるずとーく
ソルダネラとロゴスの『別居』が始まってから、彼が生活していた倉庫はルッセルの部屋となった。
すでにベッドは買っていて、ルッセル自身の荷物もあまりなかったので、暮らすのに問題のない快適な空間となっている。
最初は少々なまぬるく承諾したルッセルとの暮らしだったが、いざ住んでみるとソルダネラは彼女とかなり気が合うことを知った。
ルッセルは極めて気遣いがよく、家事全般に卓越な能力を持っていて、まさに王宮で働くのに遜色のない、パーフェクトな召使いさんだったのである。
それだけではなく、彼女は明るく振る舞いながらも礼儀正しい人で、話し相手としても非の打ち所のない人であった。
それで、一緒に暮らしてから一週間も経ってないのに、ソルダネラはもう彼女を実の姉のように頼り、愛情を注いでいたのである。
そして──
ほぼ夜な夜なの行事となったのが、寝る前のリビングにて行われるがーるずとーくというやつだった。
この世界はスマホはもちろん電話もないし、メッセンジャーとして使われるトンボだって何分間のディレイがある。
だからこそ、寝る前に間近で話せる相手はとても大事だったのである。
☆
街でパレードがあった日の夜。
風呂上がりのあと、ソルダネラとルッセルは二人してパジャマに着替えて、リビングで会合をしていた。
主にお団子みたいに後ろに髪を結い上げているソルダネラが話していて、メイドさんはそれに相槌を打つパターンである。
それで、今日の話題は、
「──ほんっと、ムカつく!!!」
ソルダネラはいきなり怒りの声を上げる。
「朝っぱらから新しい女の子とベッタベタしてて! ロゴスのくせに! なんだよ、あの間抜けな表情は!! 顔は真っ赤になってて! 口元はへらへらしてて!」
彼女は言いながら抱えていたクッションを軽く叩く。
「……ええ、そうですね。それは本当にいけないロゴスさまですね。ええ、いけないお方です」
そして少し困った顔でうなずきながらソルダネラに相槌を打つ、尖った耳の召使いさん。
ルッセルは錆色のロングヘアを左の胸元にきれいにまとめている。
こんな緩んだ雰囲気なのにもかかわらず、メイドとしての身だしなみを忘れずにいるようだ。
「そのくせ、なにこっちに触ろうと必死なの?! なんで弁明しにくるの?! なにが『あいつとはマジで今あったばかりだぞ』なの?! べつにこっちはこれっぽっちもキョーミないんですけど!」
ラッパーのような早口で喋り続けるので、頷くルッセルの頭の動作も自然と早くなる。
……そんな風に、しばらく滑稽な一人芝居が続く。
☆
ちょっと彼女の語りの勢いが落ちたころ、
「……実は、知ってたの」
ちょっと後ろめたそうに、ソルダネラはクッションの一隅を指先でなぞりながら言う。
「朝からずっとロゴスがうちのこと気にしてたの。お昼休みなんか、渡り廊下のうちに視線が釘付けになってたもんね。……でもやっぱあの転校生ちゃんと一緒だったから、……っ、こっちもなんか負けないって思って、クルクスくんに、大胆なこと、しちゃった」
それを言う彼女の顔はのぼせた人のようにホッカホカに温まっている。
「……ううっ。いきなり密着したりして、引かれてたんならどーしよ……」
上気した顔をクッションに埋めて人語にならない声を出す。
もうちょっとで湯気が上がりそうだ。
それを見るルッセルはすこしためらってから、
「……あの、ネラさま。別にご説明いただかなくても、わたくしもそばで目にしていましたので、既に存じていますよ」
「えっ! で、でも、ルッセルさんもうちがロゴス見て腹立てたからそうしたのは知らなかったっしょ?」
ルッセルは言いづらそうに次の言葉を熟考したすえ、
「……ええ、それは、あの、存じませんでしたね」
それを聞いたソルダネラは胸をなでおろす。
「はぁ、よかった……まわりに気づかれたらわりとマジで困るっしょ? ヘンな誤解とかされたらイヤだし」
すると、メイドさんはますます複雑な表情になるが、どうにかその気持ちを名状せずに我慢できた。
ソルダネラの話は続く。
「そして、街のなかでも──ロゴスのこと遠くから見つけて、今度はあの子と腕なんか組んでたんだから、なんか超いらついてクルクスくんと仲良しアピールしてた」
しばらく落ち着いたかと思ったら、そのあたりでまた加速し始める。
「で、それ見て、ちょっとは焦ってくれるかもって思ったのに、さっきはまたワケわかんないこと言い出すし! なにが『女の子ってなに考えてんだろ』、だ! ロゴスのくせにカッコつけんなし! マジありえない! ムカつく! ロゴスのくせに!!」
「……ええ、そうですよね」
またしばらくそんな感じで、ルッセルは頷くからくり人形と化する。
☆
今度こそ、ソルダネラは落ち着いた。
どうやら彼女はクルクスと街のなかを出歩いたことで体力の消耗があったらしい。
「はーマジで緊張しすぎてクルクスくんがなに言ってるのかも覚えないし。それに自分がなんて答えたのかも思い出せないし。マジさいあくー。あれもこれも、全部ロゴスのせい」
理不尽なことを言って、彼女はクッションを抱え、窓の外に視線をやる。
「……ロゴスのばか。なんでうちがいるのに、他の女の子のこと気にすんの? 『一目惚れ』した子がすぐそばにいるっしょ? なぜカノジョだけ見つめてくれないの? なぜよそみなんかすんの?」
つぶやくような弱々しい声音になっている。
「それに、陛下から言われたっしょ? 『少年』と『乙女』は『いつもつきっきり』って、彼は彼女に『付き従うべき』って。なんでそれを守らないの? なんでもっと預言を重んじてくれないの?」
──ありゃーこれは重症ですね。
ルッセルはそう心の中だけ思うのである。
それでも、見守るメイドさんの顔は微笑ましげだ。
ネラは言い続ける。
「……うちって、ほんと、おかしいよね」
その声には微かな罪悪感と疑問が混じっている。
「うちがロゴスの何ってゆーの? ロゴスがどこで誰とくっついてても、全然うちがなにか言える筋合いなんか、あるはずもないじゃん」
そんなことを口ごもるギャルさまの顔は、とても寂しそうだ。
「わかんない。なんでこんな気持ちになっちゃうの? ロゴスが来る前まではなんともなかったのに。ただ毎日楽しかったのに。ロゴスが現れてから全部、全部、変わってしまったよ」
ルッセルは微妙な表情を浮かべながらそれを聞く。
そして、やがて口を開く。
「……そんなにひたむきに答えをお探しにならなくてもいいではないでしょうか?」
そんなことを言う。
いつもの快闊な雰囲気より、ずっと優しい感じになっている。
「いつか自然とお分かりになる日も来るでしょう。今はただ、ご自分とご友人の方々を大切にしてお過ごしになる方が良いのではないでしょうか?」
「……そーなの、かな」
その声は囁きに近付いている。
「いつか、こたえが……」
ソルダネラがウトウトし始めたことに気づき、
「ネラさま。もうお休みになるほうがいいですよ」
まるで慈母のような声色でソルダネラを優しく立ち上がらせる。
すると彼女はルッセルに導かれて、自分の部屋に行くのである。
☆
こんな風に、今夜のがーるずとーくはおしまいするのである。
なんとか金曜日のうちに投稿できましたね。ちょっと焦りました。
追記:
(本来ここにみなさんへの感謝メッセージを書きましたが、長すぎるかなってなり活動報告の方へ移しました。気になる方は26年7月13日の活動報告を参照してください!)




