4 世界は正面だけじゃない
最初の日の授業が全て終わった。
放課後、俺は何となく、学園の廊下を歩いた。
実は、フォリアと一緒に帰るべきなのか迷ったのだが。
彼女は俺には一向に構わないまま、延々と友達とお喋りしているだけだった。
棒立ちってのもちょっと気まずくて、教室を出て、そぞろ歩きを始めたのだ。
「……お」
そんな時、興味深いものを見つけた。
それは、『音楽室』と書いてある部屋である。
この世界にも音楽はあるはずだと思っていた。
だが、実際の形はまだ分かってない。
もしかして、とんでもなく異界じみた恐ろしい唱えが流行ってるのか?
あるいは、意外と衝動に駆られて熱情的に鼓を打つ感じなのか?
どっちにせよ、この部屋の中を見ると、その片鱗が確認できるはずだ。
俺は、その中へ入った。
「……何だ、これも同じかよ」
正直、がっかりした。
どうやら、この世界は音楽も元の世界とあんまり変わらないらしい。
それは、普通にニホンにありふれた音楽室そのまんまの姿だ。
使い古しの譜面台や、不揃いの打楽器の何個や、ギターに似た弦楽器の群れ、そして五線譜が引かれた黒板が見える。
そして、当たり前にも、『あれ』もあった。
俺は近づいて、その上に手を置いた。
「やっぱこっちにもあったんだな、お前」
アップライトピアノである。
だが、こっちの方は他の楽器に比べて古びた感じが少ない。
最近に買い替えた備品なのかな。
俺は、椅子に腰掛けて、カバーを開けた。
そこには、見慣れすぎた白黒の鍵盤が揃っている。
ひょっとして、ってなって、数も数えてみた。
それもちゃんと88で、あってる。
一番低いラから、一番高いドも、元の世界と同じだ。
「……」
俺は、何となく演奏を始めた。
何個かのコードを何となく弾く。
ちょっと調律が外れた気がするが、そんなにひどくはない。
中央のラ・フラットの黒鍵がちょっとゆるいのは良くないが。
さて、何を演奏してみるか。
明確な目的があったりはしない。
だから、適当に思いついた曲を始める。
「ミッドナイト・ムード」
全然ミッドナイトではないのだが、な。
ちなみに、俺はある有名なレコーディングヴァージョンを意識して弾いてるので、厳密に言って元の楽譜通りにはならない。
最初は決まったコードとメロディーから始まる。
適当に聞きやすい、そういう落ち着く感じの曲だ。
転調する部分があって、主題を繰り返す。
気分次第で、ここはちょっと悲しく感じられるかも知れない。
そして──それが終わると、自由だ。
即興である。
主題の大まかなコード展開を主に左手でたぐりながら、右手では瞬間瞬間のフレーズを歌ってゆく。いわゆるソロだ。
もちろん、右左の区分は必須ではないので、時によって左手をソロに添えたり、ユニゾンで両手で同時に同じメロディーを弾いたりもする。
知らない人はそんなの出来るのかって思うかも知れない。
だが、一度慣れると、案外なんともない。
呼吸をするように、できるのだ。
曲によって難易度は違うが、こんな緩やかなテンポの場合、弾くの自体は容易い。
もちろん、良くできるのかは別だが。
──見ての通り、俺はピアノがちょっと弾ける。
幼い頃からずっとやってきたのだ。
しかし、諸事情あって、近頃はそんな頻繁には弾いてない。
とにかく、自分に何か個性が一個だけあるとしたら、俺は「ピアノ」と言うだろう。
それは別に、良くも悪くもない話しだと思う。
☆
ベースも、ドラムもない。
俺しかいないので、何度繰り返してソロを弾くかの決まりなんかない。
だから、ちょっと長くなってしまった。
とにかく、ソロを終えて、もとの主題に戻る。
最初の主題よりもっと切ない感じにしてみた。
そして、終わる。
「……まあ、こんなところかな」
なんでも、ちゃんと終えると満足するものだ。
だから、深呼吸をして鍵盤を見下ろしながら、気分がよかった。
だが。
「──すごい!!」
パチパチパチ、と、拍手の音が聞こえた。
「うわーっ!」
雷に打たれたような気分になり、椅子から飛び上がる。
そこには、ある少女が立っていた。
一番最初に目を引いたのは、彼女の丸っこい目つきだった。
まんまるで、明るい緑色で光っている。
「えっ、ごめん! 驚かしちゃったの?」
とても優しいが、子供じみた感じが抜けていない声で、彼女は言う。
『驚かしちゃった』で済むかい!
正直、チビってキャンタマ落ちるのかと思ったわ。
俺、びっくり系は苦手なんだよなー。
ていうか、この学園は気配を消して接近するのが校則かなにか? あのフードやろうもそうだったし。忍者学園じゃねぇんだから……。
「……いつから、そこに?」
心臓を抑えながら、彼女に聞いた。
「ええっと、けっこう前からだよ?」
丸っこい目で俺を見て言う。
「気づいてなかったの? ノックもちゃんとしたんだけど……」
全然知らなかった。
どうやら、ソロが激しくなり始めたあたりだったようだ。
心配そうに、少女はこっちへ近づく。
だから、もっとじっくりその外見を見ることができた。
彼女は、とても可愛らしい少女だ。
とにかく、一番の特徴はあの緑色の丸っこい目である。
そして、栗色の髪は後ろで二つに束ねて、その各々を三つ編みでしている。赤◯の◯ンのようで、色だけ違う感じ。
ギャルたちの着崩しを拝見してきたからか、ちゃんと締まっている胸元や、膝の下まで伸びているスカートとかがやけに幼気があって、愛らしい。
背丈はフォリアと同じか、それより少し低そうにみえる。
全体的に小動物みたいといえばあってるだろう。
「ええっと、確か、ロゴスくんだったよね?」
こっちも下の名前よびか。
でももう、慣れ始めて来た。
でも、この子はなんで俺のことを知ってるんだ?
別に朝の自己紹介は全校生に向かったものではなかったのだが。
「すみません。あの、あなたは?」
「えっ! 覚えてないの?」
驚いた彼女は、更に目を見開く。
キラキラしすぎて、イルミネーションを見てる気分だ。
「私、同じクラスなんだけど……」
「あっ……そうでしたか」
そう言えば、まだフォリアのクラスの奴らの顔を全部覚えていない。
朝、彼らに向き合ってた時も一々確認する余裕なんかなかったし。
そもそも、俺はそんなに記憶力が良くないんだ。
「まっ、初日だから、しかたないよね? それに私って、けっこう地味だから」
ちょっと困った表情で笑う。
笑顔になると、その丸っこい目も形を崩してしまう。
「私、グロリア・ダービシャーって言うんだ。これからはちゃんと覚えてね?」
「は、はい……すみません」
「なんで敬語なの?」
グロリアはクスクスと笑う。
「もっと砕けた感じで良いよ、クラスメートなんだから。ね、ロゴスくん」
「あ、ああ。えーと、ダービシャーさん」
「グロリアで良いよ」
「うーん、じゃあ、グロリアさん」
「グロリアで良いよ」
「……」
意外と意地っ張りなのか、この子は。
「分かった。グロリア。よろしく」
「うん! それでいい。……ねえ、私、ロゴスくんに頼み事があるんだけど」
彼女は急に言い出す。
初対面の相手に頼みってなんだろうか。
「……俺にできることなら、いいけど」
「こんど、私んちに来ない?」
「……はい?」
目を見開くしかなかった。
「──あ、いや、いや! 変な意味とかじゃなくて、ね?」
彼女は後からおかしなことを言い出したと気づいたようで、ぐるぐる目になってしまう。
……そういうことか。
つまりこの娘は、どうやらドジってからあわわわしてぐるぐる目になるタイプのキャラらしい。
何か、見ていて面白い。
「ええっと、説明するね?」
彼女は乱れた前髪をちょっと直してから、言った。
「私のお父さんって、作曲家さんなの。今とても重要な仕事の依頼を受けているんだけど、途中で進まないらしいの」
「へー、そうなんだ」
こっちの世界もやっぱ、プロの音楽家とかあるんだな。
「でも、ロゴスくんの演奏って聞いたことがない、独特な感じだったから、もしお父さんに聞かせたら、きっと喜ぶと思ってね!」
ああ、そうか。
つまり、今俺がした20世紀以降のジャズじみた即興って、こっちの世界では新しいサウンドに感じられるらしい。
たぶん即興自体はあると思うが、あんなスケールの使用や、奏法にはならないんだろうと推測できる。
「それに、私びっくりしちゃった。ピアノ・フォルテをあんなにうまく弾ける人なんか、初めて見たから」
「ピアノ・フォルテね……」
それもなかなか聴き逃がせない名前だ。
「グロリア、聞きたいことがあるんだけど」
「ん、なに?」
「ピアノ・フォルテって、もしかしてかなり新しい楽器なのか?」
「えっ、知らないの?」
丸っこい目の少女は驚いた顔になった。
「発明されてまだ30年も経ってないんだよ? 人気があるから、かなり早い速度で広がってはいるけど」
「マジか」
やっぱ、ここは異世界だな。
「それで……どう思う?」
グロリアは少し首をかしげて、こっちの答えをせがむ。
「父さんは音楽について色々知っているから、きっとロゴスくんとも話が合うと思うよ? 来てくれるって言うと、私から伝えて、その日は夕食も一緒に食べたいんだけど……」
何か、妙な気分だ。
元の世界で女の子の家に招待されたことなどなかったのだ。
しかも、その親にもお会いするって……。
やべ、何か緊張してきた。
俺にはちょっと、荷が重すぎる気が……。
「俺、役に立つのかな」
「大丈夫! 別に、お父さんの作業だけのためで呼ぶのじゃないよ!」
彼女は明るい顔で言ってくれた。
「実は、私、大好きなんだ!」
「うぷっ」
何か食べてもなかったのに、喉に何かが詰まった気分になる。
「──あ、いや、いや! 変な意味とかじゃなくて、ね?!」
彼女はまたぐるぐる目になってしまう。
今度は顔が真っ赤になっている。
「私は、そう、音楽、音楽のことが大好きなんだ!」
彼女は言った。
「実は、私、お歌を歌うのが大好きなんだ。でも、周りには音楽に興味がある友達があまりなかったの。それで、さっきのロゴスくんの演奏を聞いたら、なんとなくロゴスくんとは話が合いそうだと思ったの!」
明るく微笑む顔が、かわいらしい。
「ねえ、ダメ、かな?」
笑顔は崩さないまま、眉だけちょっと困ったようにひそめる。
……こんな顔で頼まれておいて、断るすべを、俺は知らない。
それに、異世界の作曲家さんにも会ってみたいとは思う。
「いや、いいよ。絶対行くよ、グロリアのところ」
「わ、やったっ!」
小さくガッツポーズをして、満面の笑みになる。
……こいつ、ほんとかわいいな。
少女たちのかわいさのレベルは、間違いなく異世界だと実感する。
「それじゃ、日付は後でお知らせするね? 会えて嬉しかった! またね!」
それだけ言って、彼女は振り向いて、音楽室から去っていった。
「……あ、そこにいたんだ! グロリア!」
すると、外でそんな声が聞こえた。
どうやら、グロリアの親友が来たみたいだ。
「えっ、イディちゃんどうした? 私探したの?」
「もう、なに言うのよ。約束したでしょ? ほら、今日の放課後、あの──」
あっちの方から、音楽室のすぐ前まで近づいてきたみたいだ。
だから、その人の外見が見えた。
それは、鋭くて賢い印象メガネっ娘だった。
グロリアよりずっと背が高い。
灰色の長髪で、瞳はオレンジ色だ。
硬そうな印象に反して、かなりのスタイルである。
しかし、そんなことよりも、一番視線を引くのは、彼女の胸元のある巨大な装置だ。
それはカメラに見える。
専門家が使ってそうな、そういうタイプのガチの奴だ。
この世界には写真はないと聞いたのだが、だったらあのカメラはなんなんだろうか。
彼女のカメラをもっと良く観察するも前に、二人は去っていった。
☆
グロリアとメガネっ子が消えてから一分も経たずに、新しい人が入ってきた。
金髪のギャル、フォリアだった。
彼女はピアノ椅子に腰掛けている俺のことを、ジト目で見つめる。
「……なにキモい顔になってんの? 鼻の下のびてるし」
「はっ」
急いで口元を手で確認する。
どうやら、可愛い子といい感じに会話ができたのが嬉しかったみたいだ。
「はぁ、そもそも、なんでこんなとこで隠してた? 探したし」
彼女はこっちへ近づいた。
その後ろから、夕焼けに滲む空の色が見える。
彼女は、俺のところへ手を伸ばす。
「ほら、帰ろ? ロゴス」
「……ああ」
俺は、その手を取って、立ち上がった。
☆
橙色の空の下で、帰り道。
フォリアはずっと無言のままだ。
「……」
俺もやることがなくて、ただ周りの景色を見つめた。
やっぱりここは、元の世界と似ていて、違う。
街並みの景色は綺麗で、現代的に整頓されている。
しかし、西洋の建築の面影が濃く、ニホンの一戸建て住宅や、踏切みたいなものは見当たらない。
だから、もっとふしぎに感じてしまう。
現実にひどく似ている夢を見ているようだ。
「ロゴス」
いきなり呼ばれて、彼女の方を見る。
俺の二歩ほど先を歩いている。
こっちは見ない。
「ど? 学園は。いけそうな感じ?」
「……まあね」
「友だちとか、つくれそ?」
「……うーん、まあ……」
思い浮かべた顔は二つ。
一つは、あのフードの不審者の中二やろう。もう一つは、グロリア。
前者はともかく、後者とはそれなりに仲良くなれそう、かも知れない。
「授業は? 聞いていて難しくない?」
「……あのなぁ」
これ、何か会話の感じが。
「おふくろか、お前は」
「……そこはせめて、お姉ちゃんっしょ?」
「まあ、そんなのはどうでもいい」
俺の表情は、たぶんちょっと暗くなっている。
「……なんだよ、学園では全然話しかけてなかったのに」
「やっぱ、それ気にしてたんだ」
『やっぱ』ってなんだ?
気にして当然だろ、そりゃあ。
お前だってお前の愛しのクルクスからいきなり相手されないと落ち込むだろ。
そんなことを思ったが、言わなかった。
「あのさ、変な勘違いはしないでよ? 別に何か悪気があるとかはないし。ただ、ちょっと学園には厄介なのがいっぱいあるから」
「厄介?」
「んーっ。なんつーか、半分ストーカーみたいな?」
「はあ?」
何だそれ。
「でもガチの犯罪とかじゃなくて、めんどくさいだけ」
彼女は、少しため息交じりに言う。
「男子の何人かが、うちのこと、好きみたいなの」
「……」
「何回も断ったのに、あいつらしっつこくてさー。うちが他の男と一緒にいると怖い目でみたりするんだよねー。
ロゴスとうちが一緒に住むってみんな知ってるんだから、たぶんあいつらロゴスのことすっごく恨んでると思うの。ね、マジ最悪じゃん?」
「……なんだ、それ」
最悪で済む話じゃねぇだろ。
「ロゴス、こんな街で独り身なのに、魔術も使えないっぽいから、あいつらに絡まれるとまずいっしょ? で、敢えて学園では疎遠なフリして、あいつらがロゴスに変な興味持たないように、って思ったんだよねー」
「……」
そんなこと聞かれると、こっちがバカみたいに感じてしまう。
何もかも、彼女は俺のことを思ってくれたんだった。
それを、こっちは勝手に勘違いして、俺のこと恥ずかしがってるとか。
「でも、ちょっとしくじったかも」
彼女は、くすっとなった。
そして、やっと俺の方に振り向いてくれた。
「だって、ロゴスがこんなに寂しがりやくんだとは思ってなかったから」
クスクスとわらい、彼女は俺の左の頬を軽くひっぱる。
「そもそも、なにその顔? 世界が終わった人みたいに、ずっと落ち込んじゃって、ウケる」
「……別に、そんな顔してねぇよ」
「してたし」
「してねぇって──はぁ、もういいや」
そうは言っているが。
心のどこかで俺は、再び彼女の笑顔が見られてひどく安心している。
……なんで、俺はこいつにこうも、全感情をまるごと任せた感じになったんだろう。
先週までも、関わることがそもそも不可能な、別世界のギャルだったはずなのに。
「もー、また拗ねてるし」
彼女は芝居がかった怒った顔をする。
何か子供相手の幼稚園の先生みたいで、ムカつく。
「分かった。じゃ、これからは無視ってことはナシでいこ?」
「……どうしろってんだ」
「必要な会話ぐらいは普通にやる方がもっと自然っしょ? それに、ロゴスくん、そうじゃないと一人どっかで泣いちゃいそーだし」
「泣かねぇよ! あと、くん付けやめろ!」
その後は、しばらく沈黙が続いた。
……でも、彼女には、いわば過激なファンがいるってことか。
彼女は何気なく言うが、事態によっては大変なことになれそうだ。
「やっぱ、キラキラだけではねぇんだなぁ……」
「ん? どゆこと?」
いつの間にか、俺たちは並んで前へ歩いていった。
彼女は、俺の左隣で俺を見つめる。
「いや、俺、こっちの世界は全部キラキラで美しいことばっかりかと思ってた。でも、なんか嫌なこともけっこうあるんだよな」
「あたりまえっしょ?」
「そう、だな。もしかして、俺の願いだったかも知れないわ」
「……ロゴス、いいこと教えたげよっか?」
「なんだよ?」
俺が左へ顔を向けると、そこにはまた新しい彼女の表情があった。
とても、真剣だ。
「世界は、正面だけじゃない」
「……え?」
「聞いたっしょ? 世界は正面だけじゃない!」
「どういうことだよ」
理解ができず、問い返した。
「世界は広いし、いろいろある。だから、どうしたって一色だけには染め上げられない!」
彼女は右手の人差指を立てて、俺に説明してくれる。
ますます、幼稚園の先生みたいだな。
「世界は正面だけじゃない。
側面もあるし、後ろ姿もあるし、また下から見上げるのもできるし、上から見下ろすことだってできる。でも生きた一個人は、一度に一方向しか見れないから、どっちを選ぶかはその人しだい。しかし、他の方向があるってことは、絶対忘れてはダメ!」
彼女は両手の人差指で、バツを作って見せる。
「世界は正面だけじゃない。だから、世界は一つじゃない。人それぞれ、違う世界がある。だから、うちの世界だけじゃない。ロゴスの世界だけじゃない。んー、ま、そんな感じ?」
「……」
何を言いたいのかは、何となく分かった。
でも、こいつがこんなことを言えるのが意外だった。
「だったら、さ」
俺は思いつきで、彼女に言った。
「お前は、どっちの方向から世界を見てるんだ?」
「うち? うちはね……」
彼女は、その質問を待っていたかのように、にんまりと笑う。
彼女は、立てた人差指で、俺の顔を正面から指した。
そして、言う。
「うちは、世界を上から見上げる!」
「はぁ?」
何いってんだ、こいつ。
「上から更に見上げても、そこには何もねぇだろ」
「ふふーん、そう思うっしょ? だからこそ、敢えてやりたくなっちゃうの! うちって、負けず嫌いだから!」
彼女は眩しい笑顔になる。
その顔は、まるで子供みたいだ。
それも、また新しかった。
わけがわからない、とは思うけど。
「……ははっ」
つられて、俺も笑っちゃった。
☆
「ねーロゴス」
「なに」
「そういえば、なんでロゴス、こっちの世界は全部キラキラで美しいと思ってたわけ?」
「それは──」
応えようとして、直前でヤメた。
どうにか、ヤメられた。
「ん? どした?」
こちらへ首をかしげながら凝視してくる。
こういう時は、まるで犬みたいだ。
……絶対、言えないよな。
言えるわけがない。
この世界で最初に見たのがお前だったから、だなんて。
「──はやく、帰ろ」
「ねぇーロゴスーなに? ノリ悪ー」
そんな声を無視して、先に歩いて行った。




