Scene 富士と人形と50mm
午前中の東富士演習場は、雲一つない日本晴れだった。富士の総合火力演習が行われる、陸上自衛官にとっての聖地だ。
雪化粧をした霊峰富士を背景に、火山灰特有の黒っぽい泥土が広がる。冷ややかな風が静まり返った荒野を吹き抜け、茶色く枯れた雑草をなびかせている。
そして今日。
自衛官の血と汗がしみ込んだ大地に、とんでもなく場違いなものがあった。
専用の大型トレーラーの荷台に、極彩色の巨人が仰臥している。日本の侘び寂びなど知ったことかと言わんばかりに、暴力的なまでの星条旗カラーが眩しい。眩烈なまでの赤青の色彩によって、冠雪した富士山が色褪せて見えるほどだ。
リベレーターである。
東富士演習場を貸し切った大統領が、米軍の大型輸送機で運ばせたものだ。
自衛隊の半長靴が黒土を踏みしめ、乾いた地面に薄い足跡を刻む。陸自の戦闘服を着込んだ宗近が、帽子に手を当てて苦渋の表情を浮かべていた。
「こんな人形が富士に立つことを許すとは……」
自衛隊のトップである彼は、今日は大統領の案内役として同行している。
「前代未聞だ」
リベレーターを目の前にしても、これが現実のこととは思えない。日本の誇りたる富士山を背景にして、アメコミのイベントでも開催しているようだ。宗近としては即刻撤去を命じたいところだが、総理官邸からのトップダウン指示には逆らえない。日米安保の不条理に歯噛みしていたとき、背後から底抜けに明るい声がかかった。
「ヘイ! ジェネラル・ミヤマ!」
振り返ると筋肉の塊――大統領がいた。
未来的な乗馬服のような、星条旗カラーのオムニスーツを着ている。オムニスーツとはエイハブに搭乗するときに着る、専用のパイロットスーツだ。体型に合わせて特注された服なので、過剰なまでの筋肉がよくわかる。
笑顔で近づいてくる大統領に、宗近は反射的に背筋を伸ばして敬礼する。
「大統領閣下。今日は絶好の演習日和です」
「ああ、素晴らしい晴天だ。ところでジェネラル、娘さんは元気かね?」
大統領は雑談のつもりなのか、急にプライベートな話題を振ってきた。家族で米国大使館のパーティーに招待されたとき、陽織を紹介したことがあるのだ。さすがに米国の頂点まで登った政治家らしく、大統領は一度会った相手の顔を忘れない。
「はっ、おかげさまで。元気すぎて困っているくらいです」
「大変に結構だ」
大統領は豪快に笑う。
「娘さんにこれを。日本のフレンドへの、私からの特別なギフトだ」
大統領は黒服から箱を受け取ると、困惑している宗近に差し出した。豪華な化粧箱に入っていたのは、ずっしりとした重みを感じる合金の塊だ。
『超合金 リベレーター 1/50スケール 塗装済み完成品 ダイキャストモデル』
もちろん非売品だ。
しかもパッケージの正面には、大統領の直筆サインが金色で書かれていた。
「受け取ってくれ。娘さんへのプレゼントだ」
宗近の頬がわずかに引きつり、脳内で激しいせめぎ合いが吹き荒れる。
『自衛官としての立場』
絶対に断れない。同盟国の元首からの贈り物だ。拒否などすれば、その瞬間に外交問題である。国家国民に奉仕する自衛官として、笑顔で受け取る義務がある。
『武人としての本音』
受け取れるかこんなもん。何だこの玩具は。嘆かわしいと憂いている、戦争の遊戯化そのものだ。こんながらくたを家に飾るなど、日本男児の恥さらしである。
『父親としての誘惑』
いや、待てよ。陽織はリベレーターをテレビで見たとき、可愛いから庭に置きたいと評していた。エイハブを購入する話はもちろん断ったが、フィギュアを飾るくらいなら許してもいい。
だが女子中学生が、超合金を喜ぶのか? しかし父親が言うのも問題だが、陽織の感性は読めない。もしや、この人形をプレゼントすれば満足するのでは?
「……お心遣い、感謝いたします。娘も光栄に思うでしょう」
「当然だな」
宗近は優秀な自衛官である。
コンマ数秒の逡巡の末に、最敬礼で箱を受け取った。宗近の顔には笑顔が浮かんでいるが、小脇に抱えた箱を持つ手は、妥協した己に対する葛藤で震えていた。
大統領はこの後、リベレーターに乗り込み、演習場に配置された廃車などで火力演習を行う予定である。大統領と別れて管理棟へ向かっていると、前方から部下の少尉が走ってきた。火山灰の泥をブーツで蹴り立て、ずいぶんと必死な様子である。
「幕僚長!」
「何事だ!」
「緊急のお電話です!」
息せき切って前に来ると、オリーブドラブのペリカンケースを差し出す。ケースの留め金を弾くと、中には無骨な軍用受話器があった。
この電話は幕僚長専用の通信車両から、自衛隊の軍事衛星に繋がっている。高度な暗号化が施された、自衛隊で採用している通信システムである。宗近の私用スマホではなく、秘匿回線を使ってかけてきた。
宗近の顔から柔和さが消えて、鬼深山と評される自衛官の顔つきになる。
「俺だ」
『幕僚長、お忙しいところ申し訳ありません。至急東京にお戻りください』
電話の相手は防衛省情報本部の担当官だ。
「どうした」
『ついさっき北京にいる友人からリークがありました。日本に核兵器が持ち込まれた可能性があります』
「なんだと」
『また中国外務省が在日中国人に対して、退避勧告の準備を始めたようです』
担当官の声は固い。
宗近が大統領と外交中なのは、防衛省の人間なら周知の事実だ。重要な仕事に割り込んでくるなど、その友人とやらの情報は相当な確度のはずだ。
中国外務省が具体的に動いているのなら、日本も何かしらの対応が必要である。強い西風が襟元を揺らす中で、宗近の胸中には形容しがたい不安が湧いていた。
「わかった。すぐに戻る」
『ヘリを向かわせています。十五分ほどでそちらに到着する予定です』
管理棟の指令室に入ると、大統領と無線が繋がっていた。
「大統領閣下。申し訳ございません。急用により、東京へ戻らねばならなくなりました。案内には小官に代わりまして、別の者を付けさせていただきます」
『なんと、残念だ……。ジェネラル、せっかくこれから、リベレーターの火力を披露できるというのに。国防の仕事はいつでも、退屈なトラブルばかりだな。早く片付くといい。娘さんにもよろしくな。超合金を渡しておいてくれたまえ』
「承知しております」
荷物をまとめて足早に外に出ると、隣接するヘリポートへと向かう。
遠くから重低音が響いたので視線を向けると、大統領のリベレーターが立ち上がったところである。この距離でも歩行の振動が伝わるほどで、非現実的なまでの質量と暴力を可視化していた。
「……馬鹿騒ぎもほどほどにな」
宗近は大統領の玩具に背を向けると、迎えに来たヘリコプターを見上げた。
§
荒涼とした火山灰の大地に、雷鳴のような轟音が絶え間なく響いている。銃声というにはあまりに濃密な連続音で、まるで大気を引き裂く噴火のようだ。
富士山の向こう側から差し込む西日は、すでに黄金からマゼンタへと変わり始めていた。西から広がり始めた高層雲の底を、朱色の光が斜めに差し込んでいる。富士の稜線が残照に染め上げられる中、苛烈な西風が吹いて黒土を舞い上げている。
大地に仁王立ちしたリベレーターが、自身の身長に匹敵する銃身を操る。人工筋肉がもたらす莫大なパワーで、まるで手足のように軽々と御していた。
右腕に固定された50mm六連装ガトリング砲が、砲身を回転させて壮絶なマズルファイアを噴いている。人間ならば全身を骨折するほどの反動を、小枝を扱うように易々とねじ伏せていた。
羽虫が群れるような不愉快な音を立てて、秒間60発もの劣化ウラン弾が射出されている。500メートル先にあった廃車が、一瞬で鉄屑となって爆散する。戦車の装甲すら貫く運動エネルギーで、引きちぎったように金属片に変わったのだ。
現実感を喪失するほど巨大な薬莢が、絨毯爆撃めいた密度で吐き出されている。黒土を陥没させて足元に落ちると、ぶつかり合って金属音を鳴らしている。周囲には加熱したニトロセルロースの、鼻を刺すような硝煙の酸臭が満ちていた。
限界値を超えて発熱した銃身から、陽炎のような熱気が立ち昇っている。本体のスイッチを押すとロックが外れて、六連装バレルが滑り落ちるように外れた。傍らにある新品のバレルに手を伸ばすと、本体に吸い付くように一息で装着する。
リベレーターは全高10メートル、総重量にして35トンもの怪物機である。エイハブが本来持っている繊細さを失う代わりに、通常の3倍もの有包炭素筋肉と、極厚のゲーサイト装甲を搭載した。
西日を乱反射させる装甲はあまりにも眩しく、血濡れの星条旗のように禍々しくも美しい。エイハブに標準搭載されている光学迷彩すら、この権威的なカラーリングのために捨てているのだ。
『逃げ隠れする必要はない。なぜなら私が最強だからだ』
歩くだけで地鳴りをとよもし、大地を深々と陥没させる。ただ真正面から敵陣に乗り込み、アメリカンな火力と防御力で薙ぎ払う。
前線の戦術合理性など凡人の思考だと一蹴し、悪乗りと筋肉で蹂躙するマスモンスターだ。アメリカの大きさと威力、何よりも傲慢を体現したような威容である。
エイハブに搭乗中の大統領にとって、生身の肉体はただの抜け殻である。リベレーターという機体そのものが、今の大統領にとっては自分の体だ。生身は搭乗こそしているが、子宮のように腹部に収まって眠っている。
エイハブは操縦桿やペダルなどで、いわゆる操縦するものではない。
操縦者とエイハブが一体化するのだ。
生身の感覚が機体に移行するように、エイハブを自分の体だと誤認する。
オムニという脳波に割り込むシステムで、身体図式を生身と入れ替えている。手足のように動くといった比喩ではなくて、文字通りにエイハブが自分の体になる。
35トンにも及ぶ機械の塊が、今の大統領にとっての肉体だ。指を動かす感覚でガトリング砲のトリガーを引き、歩こうとするだけで脚部の人工筋肉が収縮する。人間が生まれながらにして、手足を動かす感覚と何も変わらない。
自分が神話の巨人になったように、人知を超えた能力を手にする。ガトリング砲の反動もほぼ感じないし、軽く発砲するだけでビルが崩れる。
足元で右往左往する生身の人間など、小人のようにしか思えなくなる。この全能感に近い陶酔を知ってしまえば、ホワイトハウスの執務室など退屈な独房だ。
「……つまらん」
硝煙と土煙が舞う演習場で、大統領は退屈そうに独りごちた。的当てなど楽しいのは最初だけで、すぐに飽きて何も感じなくなる。まず三次元マトリクスを展開している状況で、たった500メートル先の静止した的など外しようがない。
しかし大統領は白けているが、50mmもの口径は尋常ではない。無造作に何千発もばら撒いているが、弾頭の大きさが女性の握りこぶしほどもあるのだ。
本来、この50mm六連装ガトリング砲は、艦艇に搭載される近接防空システムとして開発されたものだ。あの国防高等研究計画局が考案したのだが、開発が凍結されたことで長らく死蔵されていた。
開発者が冷静になったそうで、ほぼ完成していたのに中断された。
『……待て。50mmもの弾丸を毎分3,600発もばら撒いて、我々は一体、地球上の何を相手に撃つつもりだ?』
威力の不釣り合い、コスト、積載、兵站など、あらゆる面で『どうかしている』と断じられ、開発者すら『気の迷い』と打ち捨てた試作兵器だ。
近年の軍事トレンドは、スマート、コンパクト、そして高効率である。
嘆かわしいことである。
巨砲が正義であった古き良き時代は去り、今はせせこましい精密誘導兵器ばかりが幅を利かせている。だが男の美学は合理的な効率ではなく、愚かとも思えるロマンから生まれるもののはずだ。
男が構える砲とは、デカければデカいほど良いのだ。
男なら皆そうだ、そうに決まっている。
敵をねじ伏せる圧倒的な火力と、攻撃に耐える質量こそ、原初から息づく暴力の源泉である。戦う力こそが男のプライドであり、ひいては国家の威信そのものだ。
「退屈だ。実に退屈だ」
また一台の廃車に銃口を向け、土煙が晴れた後には何も残らない。威力に関しては申し分ないが、歯ごたえがなさすぎて心が躍らない。
力量差による虐殺を楽しむなど、まともな感受性をした常人の発想だ。暴力が身近にない善人の、平和的な感性とすら言っていい。殺人者の心理を理解しておらず、素人の妄想のようにすら思える。
恐怖や苦痛のようなリアクションを求めるなど、殺す相手を自分と同じ人間として見ている証拠である。常識人の倫理観を浅薄に裏返して、分かりやすい悪人を記号化しているだけだ。
本質的に人を殺せるタイプは、殺す相手の人間性など最初から見ていない。手にかけた相手の顔など思い出せないし、それまでに殺した人数も覚えていない。相手を生き物として扱っていないから、殺しても精神的な負荷が生じないのだ。
これは一流の兵士である大統領しかり。
人の命を泡と捉える、仄火にしても同様だ。
そして真の戦士であるのなら、極限の戦闘にこそ歓喜を見出す。強敵と限界を超えるほどの死闘の果てに、息の根を止める勝利こそが喜びだ。
もう二十年も前の話になるが、大統領はDEVGRUという海軍の特殊部隊にいた。衛星も見通せない密林や市街地で、防具もつけずに超至近距離で戦う。最前線に出る戦闘要員として、国家指導者の物理的排除にも従事した。
発砲した直後の銃口を押し付けられ、大統領の皮膚に火傷の跡が付く。毛穴にまとわりつく熱帯の湿気も、大量に浴びた返り血の臭いも今は懐かしい。
戦争は悲惨な側面で語られがちだが、大統領にはさほど悪い経験ではない。悲しいことは多くあったし、陰惨と呼ぶべき現場にも踏み込んだ。
だが戦争における極限の悪意を承知してもなお――あの頃は楽しかった。
「三次元マトリクスは正常です。索敵半径1.5マイル。現時刻をもちまして、警戒レベル1の継続を報告します」
すぐ隣で女性が報告したように、無機質なシステムボイスが聞こえた。この声は人間のオペレーターではなく、リベレーターを管制しているAIである。
オムニが視覚野に割り込んで、AIが合成した外部情報を入力する。いま大統領が見ている外の景色は、『三次元マトリクス』という超電子空間である。
上空を旋回する無人偵察機『シーガル』と、リベレーターのセンサー群が捉えた数値を、AIが電子処理して統合したものだ。
瞳で見た景色のように思えるが、細部の解像度が桁違いである。それこそ視力が0.1しかなかった人が、10.0になる眼鏡でもかけたようだ。AIが情報の間引きを行っているが、それでも酔いかねないほど緻密である。
リベレーターから半径1.5マイルは、まさに千里眼じみて知覚できる。リアルタイムで風にそよぐ雑草や、野ネズミの体温までわかるのだ。
今回はあくまでも演習に過ぎず、偵察機は近傍にしか出していない。だが偵察機の数と性能を増やせば、理論上は地平線の先すら目視することができる代物だ。
「……来ないか」
大統領の思考に反応して、三次元マトリクスが周辺を再走査する。センサーの数値を計算して、即座に『異常なし』の冷たい反応が返った。
時間の約束はしていないが、仄火への招待状は送ったはずだ。大統領は意識だけでため息をつき、すっぽかされたことに落胆する。あの不遜な小娘が怖気づくとは思えず、きっと新作ゲームで忙しいのだろう。
仄火が来るのを待っていたため、演習の時間も夕方まで長引かせた。エイハブは完全な無光戦闘が可能だが、管理棟にいる見物人はそうもいかない。
今回の演習は自衛隊へのプロパガンダでもあるため、星条旗カラーが闇にまみれては意味がない。さすがに日本側も暇ではないのか、管理棟に残っている自衛官もすでに最小限だ。
使用後のエイハブは点検が必要なため、日が落ちる前に終わるとしよう。ガトリング砲に安全装置をかけると、火器管制システムが自動で実包を排出した。
「残念だ。せっかくのダンスパートナーだと思ったのだがね」
女性が気まぐれなのは、創世から変わらない世の常である。デートで待ちぼうけを食らっても、笑顔で許すのが男の甲斐性か。
大統領が演習を切り上げて、AIへ自律帰投をロードしようとしたときだ。
「警告。未確認物体が急速に接近中」
三次元マトリクスが認知サッケードの隙間に割り込み、大地から立ち昇る巨大な土煙をとらえていた。富士の裾野に広がる砂礫を津波のように切り崩し、斜面をほとんど垂直に駆け下りる何かがいる。
赤い夕陽をプラチナ色に反射する白い装甲は――死神のエイハブである。
「来たか……」
AIが過剰なアドレナリンを検知して、戦術グリッドを警告の赤に染める。大統領の心拍数が自然に上昇し、安全管理システムが抑制を試みる。
だが搭乗席の中でまどろむ肉体は、抑えきれない歓喜に口元を歪めていた。
「思わせぶりだな、リトルガール!」
まるで斜面をサーフィンするように、純白の巨躯が猛然と疾走している。移動速度は目を疑うほどで、またたく間に富士山から下山した。
平野部の演習場に突入したことで、白い機体はさらに出力を増した。踏み込むだけで大地が爆裂し、化け物じみた脚力で全身を押し出している。
演習場の外縁を縁取る雑木林を、まるで些細な障害物のように飛び越える。走り幅跳びのように樹木すら超えて、凄絶に着地したときも姿勢がブレない。猫のような躍動感で止まらずに疾駆すると、最短距離でリベレーターに突っ込んでくる。
まさに不条理の化身。
現代の陸上戦力では、世界最強の一角である。
恐怖と混然一体になった興奮が、大統領の精神を猛烈に満たしていく。足元から伝わる重い震動が、肌を刺すような緊張感となって押し寄せていた。
『ミスター・プレジデント! 未確認機が接近しています!』
緊急の通信回線が開かれて、管理棟にいる大統領補佐官が叫んでいた。三次元マトリクスから遅れることしばし、今更アナログなインフラが検知したようだ。
『危険です! 相手は正体不明の機体です! 直ちに退避してください! シークレットサービスが迎撃します!』
「この私が逃げる? ありえん!」
大統領は傲慢に笑い飛ばした。
合衆国大統領が背中を見せるなど、政治的に許されないのだ。まずシークレットサービスが拳銃や自動小銃を構えたところで、仄火には肉の壁にすらならない。
「それにあの機体は知人だ、問題はない」
『知人? このような場所にお知り合いですか?』
「ああ。わざわざ私の誘いに応じて、遊びに来てくれたのだ」
『遊び? エイハブで、ですか?』
「女性とのデートなんだ。邪魔をしないでくれたまえ」
『デート!?』
補佐官の声が裏返る。
常識に照らせば気が触れたようだが、大統領はいたって真面目である。
『で、でしたら……。せ、せめて、模擬弾に換装してください! いま装填されているのは実弾のはずです! もし万が一のことがあれば!』
「模擬弾だと?」
大統領は心底おかしそうだ。
大統領の戦意に反応して、リベレーターの人工筋肉が隆起する。堅牢な装甲で覆い尽くした機械の兵士が、武者震いを起こしたように微振動した。
「馬鹿なことを言うな! あれは手加減などできる相手ではない!」
大統領は雄々しく叫ぶと、ガトリング砲のセーフティを解除する。給弾ベルトが高速で飲み込まれ、薬室に50mmもの暴威が送り込まれていく。
「最高のレディを迎えるのに、造花の花束では無礼が過ぎる! 本気の殺意を向けてこそ、真なる愛は証明されるのだ!」
三次元マトリクスの端で、絶句する補佐官の顔がレンダリングされる。顔色がロウソクのように蒼白だし、その横にいた女性秘書は無言で床へと卒倒していた。
この期に及んでは、政治も、外交も、会計監査も意味がない。
富士山が見下ろす黒野には、規格外の陸戦兵器が並び立ち、決着をつける機会に恵まれた。どちらが真の強者なのか、牙を交えないようでは戦士ではない。
「行くぞ! 世界最強の筋肉を見せてやる!」




