連戦に次ぐ連戦
2章の前半は、遠征の厳しさと楽しさを書けたらと思っています。
週2 水曜日・日曜日 更新 予定です。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ロマノと呼ばれる高原と、ルミナスと呼ばれる山地の間付近にくると、ノクス皇国近くに出ていた魔獣と比べ、遥かに強力な魔獣が次々と出現した。
連戦に次ぐ連戦で、ダメージはないものの肉体的にも精神的にも疲労が溜まってくる。
特にきついのが、第二世界での戦闘をするためのインターバルだ。
第一世界の魔素は第二世界からの流入によるため極めて薄く、転移するための魔素が溜まるまで三十分ほど必要らしい。その時間の緊張感も、じわじわと体力を削っていく。
「さすがにキツイわね……ルーダはずっと前線だけど大丈夫?」
「なんとか……さっきは後ろに抜けられそうになって、焦りましたけど」
「疲労が溜まるとミスが出やすくなるからね。リョウが機転を利かせて止めてくれたから良かったけど」
メンソールは心底疲れたような声だった。
普段は飄々として掴みどころのない人だが、ここまで疲労感が滲むのはドラゴン討伐以来かもしれない。
かくいう俺も疲労はピークだった。前回の遠征で多少は慣れたとはいえ、便利な日本で暮らしていた俺が、この短期間で完全に順応できているはずがない。
「今日はどこまで行く予定?」
本心では今すぐにでも休みたかった。
ノクス皇国周辺では特殊な香を炊きながら歩くことで弱い魔獣を避けられたが、ここではそれも効かない。夜番中に魔獣が襲ってくることも度々あり、気が抜けない状況が続いていた。
「今日はもう少し先、山地に入る手前まで行きたいです。境目は一日で一気に越えたいので」
もう少しと言っているが、皆初めての土地だ。地図を信じて歩くしかない。
第二世界とつながる前に作られた地図ではあるが、百年程度で地形が変わることはないと思いたい。
「……あそこに何かいるわね」
メンソールが緊張した声で言う。
俺には全く見えない。
都会から田舎に移住してしばらくすると視力が戻った経験があるから、毎日こういった風景の中で生きている彼女たちの目が良いのは理解できる。
「熊……っぽい。美味しいのかな?」
キャンシルが呟きながら戦闘態勢に入る。
周囲に他の魔獣がいないことを確認し、全員が走り始めた。
「記憶によるとエンシェントベアーです。文献にはかなり強いとしか……慎重に行きましょう」
その言葉が終わらないうちに、巨大な影が立ち上がった。
今日、何度目かの激しい戦闘が始まった。
****
「今日はここで野営しましょ」
高原を抜け、山地に入ったところの森で野営することになった。
皆慣れた手つきでテントを建て、暗くなる前に火を熾し、仕留めたばかりの熊肉を捌いて火にくべていく。
「はい、ルーダ」
キャンシルが焼けた肉をルーダに渡す。
その自然な動作を眺めながら、ずっと気になっていたことを口にした。
「前から気になってたけど、キャンさんとルーさんってどういう関係なの?いつも一緒にいるけど」
「特別な関係ではないよ」
「え~そういう関係じゃないの~?キャンは好きなんでしょ~?」
メンソールがニヤニヤしながらキャンシルをいじる。
キャンシルはその流れに慣れているのか、ないない、と言いながら受け流した。
「まぁ……いつも一緒にいるけどね」
ルーダも言葉を濁して、それ以上は何も言わなかった。
俺から見ると恋人同士という感じではないが、お似合いだとは思っている。何か理由がありそうだけど、深くは聞けなかった。
「リョウは恋人いないの?」
「昔はいたけど、今はいないかな」
二十年前の話だけど……と心の中で付け加えておく。
「メンソさんとリョウはお似合いだと思う」
「ないわ~~」
キャンシルの突拍子もない一言を、メンソールが即座に切り捨てた。
メンソールは年齢の割に大人びていてキレイだし、尊敬もしている。
でも恋人という感じではなかった。
……即答はちょっと傷ついたけど。
「この世界は自分が生きるのでも精一杯だしね」
メンソールが静かに言った。
その言葉を聞いて、ルーダとキャンシルの関係も、もしかしたらそういうことなのかもしれないと思った。
この世界は厳しい。
この遠征は身を持ってそれを実感するには十分だった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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次回は3月15日(日) 20:00更新予定です。




