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②オジジという世界

 そこに来たのは、コミュニケーションが苦手そうなオジサンだった。髪の毛が、肩まで伸びていた。他の人とは、どこか違っていた。


 案内をする場面でも、床を見ていた。オジサンが、私から目を逸らせば逸らすほど、興味がわく。


 どちらかというと、かわいい。マスコットのような感じ。ファンと呼ぶ方が、近いかもしれない。そんな部類だった。


「どのように、いたしましょうか?」

「オススメで」

「私におまかせで、よろしいですか?」

「あい」

 オススメを聞かれたのは、美容師になって、初めてだった。『ハイ』という返事も、『あい』になっていた。興味がまた増えた。


 鏡を通して、オジサンの顔を覗く。しかし、オジサンはこちらを見てくれていない。鏡にぶつけたオジサンの視線は、私の後ろの空間で果てていた。


「すみませんすみません」

 オジサンが、突然謝ってきた。ずっとずっと、謝っていた。目をつむり、光を完全にシャットアウトしながら。

「何を謝っているんですか?」

 私は、そう聞いていた。発言が読めない。よく分からない。そんなところが、心に気持ちよく刺さってゆく。


「間違っていたらすみません。僕の統計学上では、あなたの顔は、イケメン好きの顔なので」

「えっ?何ですかそれ?」

 独特な観点すぎるけど、何処かオジサンと気が合う気がした。とても面白いと感じた。


 オジサンの口癖は『かわいい』だった。私にも『かわいいですね』と言ってくれた。褒めてくれた。

 その時は、ハサミの動きが止まるくらいのパワーだった。全然、そんなことを言うタイプには、見えなかったから。褒めることができるとは、全く思っていなかったから。


 オジサンをもっと、かわいくしたい。私の好きな髪型にしたい。私の好みに近づけたい。そんな個人的な願望で、いっぱいだった。

 歳が離れている。本来の私のタイプではない。でも、楽しい。楽しいということは、好きなのかもしれない。


 オジサンの相づちが、かわいい。オジサンの言動すべてが、かわいい。

 初めて恋をした気がした。


 20年以上生きてきた。それなのに、初恋とか。少し遅いかもしれない。

 でも、この気持ちは、ずっと続いてゆく予感がある。

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