①飽きるという世界
彼氏との日々に、楽しさはない。見つけられないでいる。美容師には、楽しさがある。でも、充実の域に達していない。
飽きがある。飽きが苦手だ。単純作業。同じ景色。同じ道。同じ部屋。それは、心を沈ませる。
昔は、イケメンが好きだった。イケメンの教科書があったら、表紙になるようなイケメンが好きだった。でも、イケメンは飽きる。単純な人ばかりだったから。
白くて小さめの布。それが顔に、掛けられた人を、やさしくシャカシャカと洗う。水圧強めのシャワーの音が響く。指の平で、やさしくしっかり地肌を擦る。指の平にやや、くすぐったさがいた。
布をかける前の、お顔を覚えていない。たぶん、イケメンだったと思う。この、カット前のシャンプーはもう少しで終わる。終わって布を取っても、こんな人だったな、とはならないだろう。
もう5年だ。美容師になってから。子供の頃からの夢だった。だから、必死で学んだ。でも、美容師は、やや型にハマっている仕事だ。自分に、ピタッとはハマっていない気がした。
布を顔から取る。イケメンらしき人の、顔があらわになる。苦手な美男子だ。椅子を操作し、美男子の身体を起こしてあげる。すると美男子は、ニコッとする。
「ありがとう」
「はい」
さっきから、区切りごとに、ありがとうと言ってくる。布を乗せた後。きれいに流し終わった後。そして、洗う場所に誘導しようとしたときも、そうだった。
恋はしていない。彼氏はいるけど、恋じゃない。タオルで、髪を押さえながら思う。水分をタオルで吸収しながら、そう思った。
恋のような好奇心。恋のようなドキドキは、みんな美容師に注いできた。だから、まだ男性に、本気で恋をしていないことに気付いた。
私の好きな人って、どういうタイプなんだ。落ち着いた人か? 落ち着く人か? よく分からない。
いつもの道順で歩く。髪を洗う場所から、カットの場所へと美男子を誘導する。ブラウンの床に、ちらほらあるカット後の髪の毛が、少し気になる。移動中に、小さな音で軋む、床が少し気になる。
恋をしたいと思った。ほぼ同じ毎日に、刺激という要素を入れたかった。彼氏とは、もう別れようと思う。新たな人を見つけようと思う。でも、無理矢理するものではない。
お客様には、たまに誘われる。でも、みんなイケメンばかり。私の心は、いつも高揚しない。




