↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/9

第8話:決着

 ズーム機能を使い、私はスサノオとピーターを探した。

 スサノオは機敏に火を避けながら、八岐大蛇を斬りつけている。

 ピーターは陰陽師たちと共に火の中にあり、強制離脱状態に入った。


「やった!」


 戦場に蔓延する絶望と裏腹に、私の気分は絶頂だった。

 スサノオの存在は気になるけれど、最強のライバルがいなくなったのだ。

 あとはもう、私がスコア一位になるだけだった。

 幸いなことに変体後の八岐大蛇も、仕掛け弓でダメージを受けた。


 私は何度も矢を射た。

 生存プレイヤーが減ったことで、私の生み出す五千の『一』が目立ち始めた。

 もはや誰もが私の存在に気づいている。

 とても良い気分だった。


 八岐大蛇はまた炎の弾を吐いた。

 広い戦場が真っ赤な火に包まれる。

 プレイヤーには防ぎようのない攻撃らしく、犠牲者は次々に増えた。

 生存者が百人程度まで減る中、スサノオは一人で気を吐いている。

 火と火の弾と火柱を躱しながら、八岐大蛇に立ち向かった。


 インカムを通してプレイヤーの声が聞こえてくる。

 多くはスサノオに対する賞賛だが、私に対する非難や呪詛も混ざっていた。

 中には「卑怯」や「イカサマ」といった言葉も聞こえた。

 外のプレイヤーに妬まれる状態は、特段気にならないけれど、戦闘に集中するために私はインカムの音量を下げた。


「キサカ! 聞こえるか!」


 問答無用の大きさで、スサノオの太い声が耳に届いた。

 私はマイクを通じて「はいはい。叫ばなくても聞こえてる」と応じた。


「火を吐く前の顎を狙え! それが奴の弱点だ!」

「急になに言ってんの? なんであんたに、そんなことがわかるの?」

「わしの勘だ! しかし間違いない!」


 無茶苦茶で、まともに相手をする気は起きなかった。

 しかも、スサノオは命令口調だ。

 私は「仮にそうだとしても、なんで私があんたに従わないといけないのさ!」と反論した。


「奴の首は高い位置にある。わしの剣ではどうにも届かん!」

「だからなに? さっきあんたは『一人でも勝つ』と言ったよね。『本物の戦い方を教えてやる』と言ったよね」


 さすがに言い返せないのか、スサノオは黙り込んだ。

 気持ちの良い沈黙だった。

 そのあいだも八岐大蛇は、節操なく火を撒き散らしていた。

 スサノオを残し、離脱するプレイヤーがまた増えた。


 やがてスサノオは「すまん!」と謝罪した。

 初めて謝られた気がした。


「――わしが間違っていた。八岐大蛇はわしが思っていたよりも強い。討伐するためには、わし一人の力では足りなかった」


 真剣な声に、私はどうするか考えた。

 スサノオは偉そうな奴だが、嫌っているわけではない。

 謝ってくれたことで、さっきの不満も解消した。

 ただ、いまのままを続けていれば『スコア一位』が確定的だ。

 すぐ近くにある目的を前に、下手なリスクを取りたくなかった――目的?


「キサカ! 頼む! 八岐大蛇を討伐するために、わしに協力してくれ!」

「……わかったよ」


 私はスサノオの懇願を受け入れた。

 討伐するためと言われれば、頷かないわけにはいかない。

 私だって最初の討伐祭は、勝つために参加したのだ。

 当時はスコアなんてどうでも良かった。

 まだ外の奴等を嫌ってもいなかった。


 私は仕掛け弓の照準を、胴体から頭に変えた。

 動きの激しい頭部だが、誘導機能を使えば当てられる。

 私の周囲の仕掛け弓が、ギッと音を立てて上を向いた。


「――火を吐く直前を狙えば良いんだね?」

「任せた!」


 これまで計十六回の攻撃を終え、残った矢は約七万本。

 私は次の五千本で八岐大蛇の頭部を狙った。

 真っ赤に輝くタイミングを見計らい、その直前に射出する。

 誘導能力を使って、下顎から上顎に抜ける経路を選択した。


 矢に縫われる形で閉じた口は、自らの火で盛大に爆発した。

 煙で燻る頭部に、見たこともないダメージ値が現れる――五十万。

 ただの一撃で、私は記録を更新したらしい。

 まだ生存者のいる戦場からも、敗退したプレイヤーが集まる広場からも、大きな歓声が上がった。


 黒化した首は力なく折れ、落ちたところをスサノオが斬り込んだ。

 スサノオが叩き出したダメージ値も破格の十万だった。

 ボロボロになった頭部は消滅し、八岐大蛇の首の数が減る。


 また歓声があがった。

 言葉として認識できないような、感情の塊。

 未踏の展開に、みな高揚している。

 私も冷静でいられなかった。


 私たちの声に合わせるかのように、八岐大蛇が悲鳴を上げた。

 アスファルトを電気鋸で切るような、不快で甲高い鳴き声だった。

 インカムの音量を下げていた私ですら、鼓膜が痛くなったのだ。

 多くは耐えられないだろう。

 広場を見ると、ゴーグルやイヤホンを外すプレイヤーもいた。


「次だ!」


 構わずスサノオが叫んだ。

 私は戦場に目を戻す。

 八岐大蛇の七つの口が、再び炎の弾を吐き出した。


 戦場はいよいよ火に包まれ、生存者がゼロに近づいている。

 私は一つの頭部を狙い、再び五千本の矢で口を縫った。

 爆発した頭部に、五十万という白の数字が浮かび上がった。

 スサノオはまた、落ちた首にトドメをさした。

 微かに残る生存プレイヤーも、八岐大蛇の胴体に攻撃している。


 人間側は劣勢だが、明らかに空気が変わっていた。

 スサノオだけでなく、私を応援する声も混じってきた。

 名前も知らぬ男が「キサカ! 頑張れ!」と私に言った。

 私は「ありがとう!」と応じ、攻撃を続けた。


 体色の変わった八岐大蛇は、薙ぎ払いも鱗の攻撃もしなかった。

 ただ火を吐くだけだ。

 炎の弾は強いけれど、対応できないわけではない。

 同じ手順で私たちは、八岐大蛇の首を落としていった。

 生存者はもう十人に満たなかったが、『終わり』は着実に見えていた。


 七つ目の頭をなくしたところで、八岐大蛇はまた体色を変えた。


 燃えるように真っ赤な外観。

 ピタリと攻撃を止め、とぐろを巻く姿は、溶岩を垂れ流す火山のようだ。

 見ているだけで熱かった。

 八つの頭が一つまで減らされたのに、逆に存在感を増していた。

 本物の八岐大蛇が目の前に復活したら、こんな感じなのかもしれない――そんなことを私は思った。


 静かだった。

 みな一言も声を出さず、八岐大蛇に見入っている。

 スサノオですら見上げるだけで、一歩も動かなかった。


 気味の悪い二つの目が、キョロキョロと動いた。

 まるで獲物を探すようだった。

 八岐大蛇はスサノオを見て、戦場を見て、広場を見た。

 そして最後に、私を見つめた。

 戦場の誰でもなく、八岐大蛇は私を見ていた。


「キサカ! 八岐大蛇の体に、矢を打ちまくれ!」

「言われなくても!」


 私は連続で仕掛け弓を稼働した。

 一本首とは言え的が大きいので、狙わなくても大部分は当たる。

 私は誘導機能も使わず、夢中で矢を撃ちまくった。


 私は怖かった。

 恐怖が私を駆り立てた。

 八岐大蛇がなにをするのか、まったく見当がつかなかった。


 私の五回分の攻撃で、計二万五千本の矢が突き刺さった。

 いまや八岐大蛇はサボテンのようだ。

 その大量の棘を足場に、スサノオは飛び上がった。

 大蛇の全身に斬撃を加えながら、上へ上へと登っていく。


 どうしようもない異常さに気づき、私はゾッとした。

 スサノオはなぜARの物体に触れられるのだろうか?

 なぜARの物体に体重を乗せられるのだろうか?


「休むな! 攻撃を続けろ!」


 スサノオの声が、私に考えることを止めさせた。

 私はまた仕掛け弓を動かし、五千本の矢を射た。

 残りは一万本強。

 限界が近づいていた。


 八岐大蛇は全身をバタつかせ、スサノオを振り落とした。

 その後はまた頭部を持ち上げ、ジッと私を見つめる。

 体色は輝きを増し、いまや白に近づいていた。


「キサカ! すべてを吐き出せ!」


 スサノオの檄で私は奮い立った。

 すぐに五千本の仕掛け弓を放つ。

 残りは六千本強。

 他のプレイヤーは純粋に私を応援していた。


「いくぞ!」


 スサノオが最後の首を目指し、再び八岐大蛇に飛び上がった。

 何もかもが速く、斬り込んでいく姿を視認できない。

 スサノオの通過した後には、真っ赤な血飛沫が残された。

 八岐大蛇はまた甲高い悲鳴を上げた。


 私は最後の矢を放った。


「おおおおおお!」


 スサノオは勢いよくジャンプした。

 下から弾き出されるような勢いだった。

 あまりにも高く飛んだので、最後は闇夜に混じり、見えなくなったほどだ。


 スサノオの置き土産のように、八岐大蛇の頭部は真っ二つに切断されていた。

 長い舌は口からはみ出し、両目は白くなっている。

 その白目を中心に、私の五千本が突き刺さった。

 現れたダメージ値は、まさかの百万だった。


『討伐成功』


 ウィンドウが現れ、ゲームクリアを示す文字が出た。

 プレイヤーたちは大騒ぎで、音量を下げていたのに、耳がおかしくなりそうだった。

 キサカ! キサカ! と、私のハンドルネームが連呼された。

 達成感と嬉しさで、私は泣きそうになる。


 スコアランキングを開いてみると、一位は四百五十八万ダメージで私だった。

 私は山の中で一人叫んだ。

 半年間の苦労が報われるようだった。

 姉さんの疲れた顔も思い出した。


 全部とは言わないが、大部分がスサノオのおかげだった。

 私はスサノオに感謝した。

 スサノオがいなければこんな気分にならなかっただろう。


 私はズーム機能を使い、プレイヤーたちでごった返す戦場を探した。

 時間をかけたが、スサノオはどこにもいなかった。

 あの男がまさか死ぬとは思わないけれど、あの高さから落下して、無事に済むとも思えない。

 私は心配だった。

 見つけられない理由もわからなかった。


 私はまた、スコアランキングを確認した。

 二位はピーターの十七万で、三位は別のプレイヤーだった。

 リストのどこにもスサノオの名はなかった。


 名で検索しても、似たワードで検索しても、なぜかスサノオはヒットしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。