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135.幕間劇 

 帝都中央軍基地。

 幕を上げたのは、一人の女だ。


「お前たち、行儀よくしろよ。機士のリアルな現場をよく参考にさせていただくんだぞ」


 兵学校の教官が呼びかけ、未来を担う若者たちは緊張しながら機士や整備士の仕事を観察する。


「グリム・フィリオンはいないのか」


 彼らの目当ては、一人のウェール人整備士。

 軍事工学課においては伝説的存在だ。


「話を聞きたかったのに」

「仕方ないよ。忙しいだろうし」

「あの人はどうかな」


 見学者たちは忙しそうで、どこか彼らを疎んでいる軍人たちの中、佇む一人の女に声をかけた。


「君たち、逃げた方が良いわよ?」


 女の声は高く、唄うように話す。


「ここは戦場になるわ。ガーゴイルが一匹紛れ込んだから」



 冗談か、厄介払いの口実か、いずれにせよ信じる根拠は無かったが、事態が思ったより深刻であることを軍人たちの殺気立った様子から察した。


「貴様、何者だ。ここの所属ではないな」

「遅いわよ。とはいえ見学会で忙しそうだから終わるまで待ってあげても良かったのだけれど」

「動くな。狙撃手が狙っている。まずは素性とここに侵入した目的を教えてもらおうか」

「私はリリス。皇帝を殺しに来たわ」


 皇帝の暗殺を公言。

 十分、死罪に値する。


 即狙撃手へ射殺が指示される。



 しかし、狙撃手は困惑した。射線上に、そのハンドサインを出した上官が立っている。


「おいおい……」


 ふらつく上官の身体。

 狙撃手は違和感から、スコープから目を離し全体を見渡す。


 軍人も整備士も見学者たちも全員、その場に倒れていた。


 魔力の汚染信号波にさらされたなどと、推察できるはずもない。


 狙撃手が再びスコープを覗くとそこにリリスの姿は無かった。


 代わりに、傍にあったギアが動き出した。



「緊急事態発生!! 敵にギアを奪われた!!」



 帝都は先の襲撃から、警備が強化された。

 ギア部隊が駆け付けるまで時間はかからなかった。


 三機一小隊が、機関砲を浴びせる。


 対ガーゴイル戦に用いられる徹甲弾で、貫通力がある50ミリ弾だ。


 ギアの装甲も例外なく、ハチの巣にできる威力がある。


 しかし、リリスの纏うギアは全て躱した。



「ギアの動きじゃない!?」


 金属は曲がり、元に戻ろうとする。

 機体の金属靭性を用いた粘り、反動。

 それを連続で行い、瞬間移動したかにみせる高等技術。

 純然たる機士としての技量の違い。


 リリスが部隊を蹂躙するまでに、時間はかからなかった。



「おのれ……だが、運が悪かったな。今、この基地には彼らがいるのだ!!」



 リリスは駆動音を聞き取り、視覚装置を照準した。


 だが、そこ機影は捉えられず――



 背後から迫る質量体。リリスは勘一発避けた。



「あら、少しはやるじゃない」

「背後からでこれを避けるかよ……」


 巨大ハルバートの一閃。

 リリスの意識は、旧式の量産型に向いた。


 その時――


 音も無く、さらに背後からリリスの機体を、高速で何かが貫いた。



「なっ……!」



「う~ん、綺麗なお姉さんがいると聞いたが残念、殺すぜ!!!」



 派手なイエローカラーのハイ・グロウ。

 その特殊兵装『プレデター』が、リリス機の腕部を食いちぎっていた。



 リリス機はすぐさま、立ち位置を変えた。

 その場に、衝撃波と共に機体が襲い掛かる。


 さらに片腕をもがれたものの、何とかバランスを保ち立つリリス機。

 発生した水の盾が機体を護った。



「ほう、この連携で叩けぬか……」



 純白の機体、アルビオン。



「うれしいわ。こんなに歓迎してくれるだなんて……」


 三機一隊、フリードマン大佐、マーヴェリック少尉、皇帝ジェラルドリー。



 リリス機はもがれた両腕から、ワイヤーやオイルとは違う何かを垂らした。


 もいだ腕がそれを伝って、引き寄せられ、修復した。



「なんでもありかよ……」

「残念無念……ありゃ、ガーゴイルだ」



 ギアよりも金属を取り込みガーゴイルとしての性質が発揮されている。

 ベテラン二人が驚いたのもつかの間、リリス機は壁を突き破った。



「むっ……ここはやつの餌場か」



 壁の向こうにあった重機、パーツ、ギア……


 リリスはそれらを吸収し、機体を自分好みに作り替えようとしていた。



「やらせはせん!!!」



 変態を遂げる前に、勝負を決める。

 小隊は迷わず襲い掛かった。

 しかし、三機それぞれの機士は勘でドリフトし、何かを避けた。



 通過した物体。



 機士の動体視力でも捉えられないそれは、リリスがギアから抽出した超高密度の鉱物である。



(魔法、スキルか? 水魔法だけじゃなかったのか)

(弾丸より遅いが、砲弾より速いね。機動が読めないじゃない)

(問題は、あれは一個か否か)



 皇帝の危惧した通り、その球体は2つ、3つと増加していった。



 アルビオンは機体特性で緊急回避、

 マーヴェリックはスムースモーションと全体把握というスキル特性から直撃を避けた。

 フリードマンは加速していない状態で避け切ることは不可能と判断、ハルバートでの撃墜を試みた。



「うおぉぉ、くそぉぉ!!!!!」



 高速で飛来した球体を正確に刃で捉えるという神業を見せるも、特殊対装甲加工を施された刃はリリスの生み出した高密度体の衝撃力の前に、無残にも砕けた。



 フリードマンの加速した思考が、激しい戦闘とは違う、安らぎを一瞬見せた。



「――――マリアさん……」



 彼は、彼女の正体をもう知っている。

 第一皇女クラウディアのかりそめの姿。

 元々、高根の花だった上に身分も違う、別世界の人間だ。


 それで自分の感情に蓋をするほど、フリードマンは器用でも物わかりのいい男でもなかった。




「まず一人目ぇ!!」



 包囲する球体が隊列を組み、三式グロウへ流れ込んだ。



(手ごたえがない?)



 リリスは見えざる粉塵の奥にいる機影を、拡張した視野で追う。



 三式グロウは立っていた。

 装甲の角が削れているが決定打は受けていない。



「悪いな、相棒……無理をさせて」



 フリードマンはリリスが見せた、金属性質を用いた高速移動を土壇場でものにしていた。



「だが、これが最後のチャンスだ、使うぜ、グリム!!」



 三式グロウが光を放った。


「まさか……!!」



 リリスはその光の正体を知っている。

『原始化』――正確には非到達者における『簡易原始化』である。

 それでもまごうこと無き、属性魔法の極致、機体との親和性を極限まで高める儀式だ。


 フリードマンは友人から渡されたチケットを使うかどうか、愛機への影響を考慮しためらっていた。



「死ぬわけにはいかねぇ!! おれは勝負に勝って、マリアさんに告白するんだ!!」



『原始化』に必要な条件を満たさないフリードマンには無いはず。

 リリスはそれでも放置するわけにはいかない。

 止めに入ろうとしたところ、二機に割って入られた。



「戦場で、ダメージを負った状態……しかも属性魔法を持たない機士が簡易原始化ですって?」



 リリスの球体が巡る。


 先ほどのリプレイのような光景だ。



 オリーブグリーンの塗膜に、亀裂のように走る発光ライン。

 装甲が縮小し代わりに砕けたハルバートの刃が肥大している。

 機体周囲に突風が舞う。



 原始化グロウはハルバートをしならせ、回転し、迫る球体を両断した。


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― 新着の感想 ―
もしかしてギル義兄さんが原始化したら、シームレスなサイボーグになったりして。
散々機体の変更拒否してたからね。 原始化で最新鋭機より性能上がったはずだからもう乗り換えは言われないよねw
愛用改良型量産機の超強化は激アツ! グリムとスカーレットが結婚できるならフリードマンとクラウディアが結ばれるくらいよゆーよゆー
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