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134.完全義体

 


 全高182cm。機械式の人体模型が、廃品の山に埋もれた部屋の中央で無数の計器につながっている。


 黒鉄色の骨格と、鉄線でできた神経、圧力シリンダでできた血管、カラフルなラバーチューブ製の筋肉でできている。ハートはダイダロス基幹。

 おれに陽電子頭脳を造るノウハウがあれば、ロボット三原則を理解して忠実に動いたことだろう。

 もちろん、そこまでの技術は無い。

 高分子ポリマーで包んだアルミ合金製の頭蓋の中身は、魔力抵抗値の高い金属メッシュで覆った疑似記録晶石を区画化して詰め込んでいるだけ。


 要するに、動かない。


 これは、この時代において全く意味を成さない、ただのお遊びで――これの製作に村一つ買えるほどの予算が投じられているが――ただの案山子(かかし)として人を驚かす程度の利用価値しかない。



《お見事だよ、ウェール公》



 わかる君に入っているクライアントは満足したようだ。

 おれは割り切った。製作期間の短さ、完成品ではなく途中までの、いわば部品の集合体でしかない状態で納品することなど13年働いてきてなかったが、別に世間ではありふれたことだろう。

 これは仕事だ。


「ぼくがこだわったのはせいぜい、プラチナメッキのボディくらいのものです」

《こだわりすぎ。だけど美しい分にはうれしいわ》


 理想的な肉体のフォルム、装甲が干渉し合わない、関節可動域を損なわない、それでいて美しく造ろうと努めた。

 ただおれは芸術家ではなくエンジニアなので、モデルの人物の型を取って、見本を鋳造してそれに合わせ高分子ポリマーを手作業で成形した。

 もちろん、本人の意向で微調整してある。


《あとは仕上げだけ、よろしくね》

「はい」


 言い忘れていた。

 疑似記録晶石の中央、人間で言えば脳の核にあたる部位に小さなくぼみを用意してある。

 ここに最後のピースを納める。


『アルビオン』の機体破片だ。これがOSを内蔵したチップの代わりになる。


 ややオカルトじみているが、生前彼女が機体へ宿した魔力が、魂を導く。これは実証済みだ。

 英霊イシスがわかる君に宿って話していることがその証拠。

 わかる君から破片を取り出し、注意深くそれを義体へセットした。

 記憶、意識、感覚――人間だった頃の経験値の全てが、空だった疑似記録晶石に記録され、フレームに沿って全身に張り巡らされた感応神経ラインを通じて、各アクチュエーターの空気圧を調整し、義体を動かす。


 劇的な効果音も、眩い光の演出もなく、静かにそれは実行され、成功か失敗か逡巡すること10回目ほどで、フレームジョイント部位のフレキシブルギアが回転する駆動音がわずかに漏れた。



「イシス様、いかがです?」

《ああ、とてもいいよ。感触が分かる》



 高性能な振動板から彼女特有の芯が強くしっとりとした美声が再現される。

 冷たい指先がおれの頬に触れた。B級映画ならここでおれの首の骨が折られるだろうが、英霊イシスはおれの頬を弄ぶにしばらく時間を掛けた。



 アルビオンの機士にして、頂に到達した過去の英霊。

 イシスの義体製作が完了した。


 これは彼女の要望でもあり、従機士として必要な備えでもある。

 だが、おれがこのオーダーを最優先した理由は別にある。


 これができると他の英霊に示すことで、情報を引き出せるからだ。

 交渉権はすでにあるのに?

 なぜ交渉材料が必要かといえば、数日前、夢の後すぐにソラリスに霊視を依頼し、事実を知ったからだ。



 おれが知らなかった原作の範囲外の物語を。



 ◇数日前――鉱山実験場



 バイザーモニターにソラリスが映る。

 おれの背後にいるイシスをどうにか祓えないものか相談した。


《それどころではありません。グリムさん》


 いつもおふざけする彼女もこの時ばかりは真剣だった。

 彼女は自分の守護霊、あの祭祀服のウィヴィラ人から事の経緯を聞いていておれからの連絡を待っていた。



《神器という古代兵器をご存じですか?》

「……え?」

《原始のギアが有していた原始化兵装のことです》

「ああ、それならもちろん」


 ゲームでは単に『アーク』と言われていた。

 原始系だけではなく、古代文明の遺産の全てを指す。

 強力な武器だ。原始系の出力に耐え得る強度と属性極振りの攻撃性能を併せ持つ。

 ただ――


「けど、あれは現行ギアには使えませんし」


 原始系と別々に管理され、『アルビオン』や『ネメシス』の武装はこの大陸にはないはずだ。

 逆に『アビス』、『ラザロ』、『ネフィリム』の武装やオプションはあるかもしれないが、機体スペックが足りなければ、リバウンドが発生する。機士も原始化に耐えるレベルでなければならない。それと属性魔法も併せて、となると可能性はゼロに近い。


《すでに数個、発掘され持ち出されているようなのです》

「はぁ……ですが、現行ギアでは使えません。そもそもその情報はどこから?」

《彼らは魔力的つながりで把握できるそうです》

「なるほど、交渉権を求めたのはそれが理由ですか」

《グリムさん、使えないというのは本当ですね?》


 念を押されると、自信が揺らぐ。

 ゲームでは……

 実際に見たわけじゃない。

 フェルナンドが無駄なことをするとは思えない。

 そのまま武器として使うつもりがないとか?


「その魔力的つながりで、把握できるなら……逆に居場所を探知するとか?」

《持ち出されたこと以外わからないそうです。どうやら汚染信号に近い妨害措置を講じているようで》


 汚染信号は魔力伝いに広がりそうだから、そう簡単に場所の特定はできないか。それにおれの通信機からしか声がしなかったということは行動範囲も何かに縛られている可能性がある。


 しかしフェルナンドが霊とかを信じて妨害措置を敷いているとは思えない。

 運がいいのか。

 それか……第三者の介入。

 だとしたら、それはおれの知らない誰かなのか……


《その先の情報は、直接グリムさんに伝えると》

「そうですか……」

《では、ご武運を》


 まさか、ずっと無線装置で霊界通信を?



 ◇鉱山実験場――地下廃鉱跡閉鎖区画


 湿気とカビの匂いのする分厚い岩で覆われた小さな空間で試した。

 もしものときのためだ。

 わかる君に『アルビオン』の破片を組み込み、イシスとの安定した通話を可能にした。



《ありがとうウェール公。これでちゃんと会話ができるわ》

「イシス様ですか? いや、イシス陛下とお呼びするべきですか? それともクィーン・ガイナとか?」

《ただのイシスでいいわ。王女ではない。ドラコニアという姓も後でつけられた。ガイナは当時の首都の名で名乗ったことはない》


 正直なところ無機質な声だけでは、それが誰かは判別できなかったが、本物っぽい。

 おしとやかで、ちょっとアクセントが古い。


「なぜぼくをウェール公と?」

《おしゃべりをしていたいけど、時間が惜しいから本題に入りましょう。いいかしら?》

「ぜひ」

《ウェール公、あなたはガーゴイルの祖を知っている?》


 現代のガーゴイルのルーツは古代文明の遺跡で眠っていたもの。それが原作の説明。

 それが元々どうやって生まれたかだって?


「原始化と関係が……?」

《そうよ。そして、ガーゴイルは滅びかけても、また似たような人類の失敗から新たに誕生してきた。祖に近い個体は複数いる。いわばガーゴイルの原始形態――『始祖』ね》


 おれが知っているのは、紐付きの第四進化形態まで。

 その上位個体がいるのか。


「話が見えません。それが?」

《そのうちの一体が、フェルナンドに協力しているわ》



 どうやって?

 信号を操作したとして――いや、全く理解できない。

 そんなことができるなら、おれは戦う意味がないのでは?



《誤解しないで。これは技術の確立ではないわ。『始祖』形態のガーゴイルは高い知能を持っているのよ》

「なるほど……」


 原作にないガーゴイルの核心。そりゃ描かれていない面もあるか。


 おれは脳をフル回転した。


 人間を取り込む――脳――進化――人型形態 

 信号制御――独自のネットワーク 

 このパワーバランスは? 

 意図的な文明維持――なぜ?――機械化工業技術 文明の発達のため?――おれとフェルナンドの対立構造が技術革新を促す――フェルナンド側に肩入れ 英霊への対策――詳しすぎる――スキル?――違う 中身は元人間――元人間の知識――元機士の非到達者――理解した。


「フェルナンド側が、こちらの切り札が原始系であることを知ったわけですね」

《すごい、ウェール公。真面目なあなたはフェルナンドより賢いわ》

「でも深刻です」


 ガーゴイルのネットワークにこちらの情報が共有される恐れもある。

 早く対処しなければ……


《だから、情報共有しているのよ。でも能力、用途不明の神器への対処には別に情報が必要》


 いや、用途ははっきりしている。

 おれが造ったギアへの対策だろう。

 しかし、その運用方法が分からない。


「それで、その情報とは?」

《『アルビオン』の神器はどれも奪われていないわ。この大陸には無いから。他は別途交渉して聞き出さないと。それぞれの到達者に》


 これは『理』との契約2番、ガーゴイルについての情報共有。

 そこに神器は含まれないのか。


「なら交渉材料を見つけないと。彼らの子孫をガーゴイルから守るとか?」

《別の大陸まで助けに行くのは現実的じゃないわね》

「確か、あの時積極的に交渉したがっている人がいた」

《神器が盗まれたのを知っていたからね》

「なのに、なぜあの場で言わなかった?」

《交渉で有利になるためよ。敵の敵は味方、なんて簡単なら戦争は無くならないわ》


 そりゃそうか。

 ガーゴイル対人類という構図なんてシンプルじゃない。


 到達者同士にも派閥や対立、それに全員人種も違ったし、服装の様式が違ったから文化的にも異なる。

 そもそも時代が全然違う。

 民族間抗争、ひょっとしたら宗教的対立のようなものがあって一枚岩じゃないのか。



「こんな時に厄介な……」

《大丈夫。他の者たちが求めている物ならわかるわ》

「それって……」



 イシスのアイデアで、まず義体を造れるという実証をして見せることにした。

 一人一体。

 属性魔法極振りの独自駆動方式型完全義体。


 現世に英霊たちを呼び戻す。


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― 新着の感想 ―
原始系になるのに失敗がガーゴイルとすると、ガーゴイルの方が作りやすそうでやばそう
ひええ、ロボット式英霊サーヴァント召喚システムじゃねえか……
中々最終決戦行かないねぇ〜
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