135.5 ジェラルドリー
魔女の討伐。
基地での死闘の最中、フリードマン大佐が想定外の働きをした。
魔女の球体を次々に破壊。
その動きは、球体への速応性ゆえ。
「魔法を獲得したか……」
グリムはこれを想定して、結んだのか。
戦闘時の無条件原始化。
それは原始化そのもののメリットが霞むほどの恩恵。
原始化発生のための条件が逆説的に満たされる。
すなわち、機体の最適化、機士の属性魔法保有と最高コンディションの強制。
「同じ技を何度も……面白みのない奴!!!」
「おれは本命一筋で誠実だぜ!!!!」
原始化直後、その冴えが流れをつくる。
風魔法による0―100加速までの時間短縮。
機体強度上昇に伴う、靭性移動の瞬間的加速。
魔力感応による状況把握能力の向上に加え、風魔法による逆風が敵の動きを阻害している。
「くっ……覚えたての魔法をよくも……」
異常な集中力と、勘。
原始化直後における最高コンディションが、確変状態をもたらしている。
奇しくもそれは『アルビオン』と近い戦闘スタイルへ。
いや、『アルビオン』による戦闘がインスピレーションとなり、その力へと誘導されたのか。
この機を逃すわけにはいかない。
「ここで決める」
《いいのね、ジェラルドリー》
「はい」
不完全な制御を繰り返してきた『アルビオン』。
その制御の一端をイシス・ドラコニアに返す。
――君は『大気』を操る力が無い。機体の反動に耐えられまい。運が良くても致命的な障害が残る。二度とギアには乗れない。それは彼も望まないが――
予めリスクは覚悟の上。
余が皇帝として誇れる力はただひとつのみ。
「やせ我慢なら、誰にも負けませぬ」
《見事》
イシス・ドラコニアのサポートが始まった。
加速。
内蔵が押しつぶされ、骨が砕けた。
「おのれ……亡霊が出て来たか!!!!」
魔女の機体は跳ね上がった。
大気の圧力とゼロ圧力による加速の相乗効果。
その力は機体を弾丸に変える。
「ぐ……フリードマン大佐! 余が崩す、畳みかけよ!!!」
「了解!!!」
『アルビオン』のトップスピードによる不可視の機動。
肉体をそれに合わせるのはもはや不可能。脱力し、操られるに徹する。
「ぐぅぅ!!!」
高速機動での近接攻撃の連続。
意識が遠のく。
あばらが肺にめり込み意識が覚醒する。
「アハハ、老体でよく動くわね、皇帝陛下!!! 凡庸なあなたがいつまで耐えられるのかしらね!?」
『アルビオン』に合わせられるのは、確変状態にあるフリードマン大佐のみ。
マーヴェリック少尉が即座に己の役割を変える。
スキルによる戦況把握から指示出し、最適な立地へと誘導。
意識が遠のく。動けてあと一回が限度。
「あと一撃!! おれの渾身の『アクセルターン』を喰らいやがれ!!!」
「奴が形態を変えた直後だね~! 一瞬全身もろくなるよ!!!」
魔女が形態を変化させた。
背に腕のような器官が4本。
「いつやるの、今っしょ!!!」
「全員でやります!!!」
《ジェラルドリー、いくわよ!!!》
直後、視界が真っ白になった。
何だ?
限界? 違う……このにおい、身体が焦げている。
《やられた、これは『電撃』だ……》
『電撃』……!?
回避不能の攻撃手段を……
「か、身体が……」
《動け、ジェラルドリー!!!!》
「ぐああああ!!!」
マーヴェリック少尉の断末魔。
「マーヴェリック少尉!! ぐっ、何も見えない!!! 何も、陛下!!! ぐあああああ!!!!!」
フリードマン大佐も餌食となった。
「危なかったわ。まさか私にここまでの魔法を使わせるとはね」
これだけの出力、ガーゴイルの増幅器官の力か。
「じゃあね、皇帝陛下……」
◇
「――っ!!」
今のは……『予知夢』か。
「あと一撃!! おれの渾身の『アクセルターン』を喰らいやがれ!!!」
「奴が形態を変える直後だね~! 一瞬全身もろくなるよ!!!」
魔女が形態を変化させた。
背に腕のような器官が4本。
「いつやるの、今っしょ!!!」
「全員でやります!!!」
《ジェラルドリー、いくわよ!!!》
『電撃』が来る。
だが、電流はギアより速い。避けることは不可能。
――ギアのアンカーボルトって、3つ役割があるんだよ。砲撃時の固定。高機動時のブレーキング。それから――
「アンカーボルト!!! 目を閉じよ!!!」
ジジッと音がする。
機体内が高温に。
「バカな……アンカーボルトで電流を逃がした? とっさに」
《ジェラルドリー、戦闘中に寝ていたのか?》
「お叱りは後程」
「うお、冷却システムがやばいって!!」
「だが、好機だ!!!」
形態を変化させた直後の、莫大な魔力消費。
「反撃のいとまを与えず、圧倒せよ!!!」
「「了解――――」」
質量体の連撃が緑の嵐と化し魔女を削った。
凶悪な発破音の連続で黄色の捕食者が器官機を次々と破壊していく。
「ちぃ、小賢しい真似を……!!」
(『電撃』の影響か……『予知夢』の後だからか。視界が歪む……いやこれは)
大気に反応するアルビオンと魔力的な共感覚状態へと至り、余の眼がついに大気の差とうねりを捉えた。
大気中の物質の差異までわかる。
《『アルビオン』の本質、大気の分解と再構成による、我が必殺の『息吹』》
『アルビオン』の装甲が解放、全身から光が迸る。
掲げた両腕。
ハンドマニュピレーターの先より、不可視の攻撃が放たれた。
「ぐっ……アアアアアアッ!!!!」
魔女が纏うガーゴイルの身体が急速に崩壊していく。
魔法による防御も装甲も関係ない。
「これは……」
「近付くなよ、大佐。これは腐食……我らが皇帝はとんでもないねぇ……」
これが最初の機士、イシス・ドラコニアの力。
《とんでもないのは私でもジェラルドリーではないよ》
余とイシス・ドラコニアが思い浮かべる人物は同じであろう。
「君、さっきから陛下の御名を呼ぶなんて失礼だぞ!!」
「ああ、きれいなお姉さま、この戦いが終わったらぜひお酒をご一緒に」
「これが伝説の『息吹』……腐敗性ガスの生成とは凶悪ね」
ドロドロに崩壊しながら、禍々しい存在感は消えていない。
「これで勝った気にならないことね。目的は果たした。中央軍基地の崩壊が契機となり、彼の計画は加速する。私はいずれ再びあなたたちの前に災厄として現れるでしょう。私は不滅よ」
「そうか。だが今は消え去るがいい」
号令を出す。
包囲したギア大部隊からの集中砲火により、爆発炎上。
「二人共、大儀であったな。だが大佐、告白は後にせよ」
「……陛下お聞きになっておられましたか」
「戦いはまだ続く。貴官のモチベーションが下がるのは好ましくない」
「……はい」
「陛下、たぶん今大佐は使い物にならなくなりましたよ~?」
「む、そうか……」
「告白して吹っ切れた方がいいっしょ。ねぇ、大佐?」
「ダメな前提で進めないでくれよ!!」
少尉が煽る。そういうものか。
「こっくはく、こっくはく」
「よ、よぉぉし!!! 今ならいけそうな気がする!!!」
大佐が通信をウェールランド基地へ繋げた。
「マリアさん、この戦いが終わったらおれと結婚してくださぁい!!」
《なら無傷で帰還してちょうだい。それが条件よ》
「えぇぇ、わっかりました!!!! やったー!!!!」
まさか……
これは予知できなかった。
「大佐……背後には気を付けろよ……」
《ウェールランド基地から全機へ、フリードマン大佐が重大な不文律違反の疑い!!!》
《抜け駆け野郎の奇跡はもう起きない。やつの活躍を許すな》
《何がカルカドの英雄!! おれたちは帝国最強のウェールランド軍だ!!!》
《うぉぉぉ!!! 大佐一人に手柄を持っていかれるな!!!!!》
《中央軍へ、一人負傷者が出る予定だ。ベッドを空けておけよ!!》
ギア部隊は、笑いながら拍手を送る。
「悪いが、今のおれは無敵だ。お前ら全員束になってもおれには勝てねぇよ!!!」
《全機出撃準備!! あの調子に乗ったいけ好かない上官を殴りにいくぞ!!!!》
「かかって来いよ!! 返り討ちにしてやる!!!」
ウェールランド軍の士気が高まった。
マリアよ。恐ろしいぞ。




