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自分の能力が分からない俺でも世界は救えますか?  作者: 上水流幸介
プロローグ
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2/7

転移者

「ごほん。では、僭越ながら私ニールが説明します。」


そう得意げに言って、ニールはこの世界のことを話し始めた。


曰はく、この世界は1つの大陸が、5つの国に分かれている。

俺たちが今いるのは、4番目の強国(つまりは下から2番目なのだが)「フェルランド」という国で、フェルランドは王都「アヴァン」を中心に、アヴァンの真北から時計回りに「スペリオル」「ヒューロン」「ミシガン」「エリー」「オンタリオ」の五つの都市がアヴァンを囲むように広がっており、ちょうど五角形に近い形になっている。


今はエリーからオンタリオに向かって西に移動中らしい。


また、どの国も文明は中世のそれに近い。近代のような科学技術は存在せず、貨幣は銅貨が約10円・銀貨が約1000円・金貨が約10万円といったところだ。


「ニール、ほかの4つの国とやらについても教えてくれませんか?」


「ウィルフレッド・オリヴァー・カルビン・シェラーの4か国のことですね。今言ったのがおよその国の強さの順なので、フェルランドはカルビンとシェラーの間くらいです。」


「なるほど。しかし、国力に差があるなら、戦争起きたりは?」


「この4か国はそれぞれ異なる技術や特質を持っています。ウィルフレッドは鍛冶技術、オリヴァーは魔王国との外交、カルビンは魔法技術、フェルランドは豊富な資源とその加工技術、シェラーは活発な市場があり、それぞれの国が支えあって人や物や資源が回っているので、戦争になると技術を人質に取られ、戦争が成り立たなくなってしまうのです。」


「技術を人質に?そんなことがあり得るのですか?」


「はい。実際、かつては科学技術を持った6つ目の国ローゲンがありましたが、約500年前にオリヴァーと戦争になり敗戦しました。そのとき、最後の抵抗としてローゲンは科学技術に関する書類やデータを消してしまい、その結果、この世界から科学技術はなくなってしまったんです。」


「皮肉にも1国の消滅で世界の均衡が保たれたわけか…。」


「技術提供や資源の分配をめぐって小競り合いがあれど、この500年間大きな戦争が起きていないのはおっしゃる通り皮肉でしかありませんね。」


そういってニールは苦笑いをして馬車の中から外を見つめていた。

この馬車はこの世界から科学技術が失われた代償なんだと気づいた。

そして、この世界が死後の世界でないことは明白だった。


「そういえば魔王国とか魔法とか気になる言葉があったな。それについても解説を頼みます。」


「ええ、喜んで。まず、この世界には魔物と呼ばれる知性を持たない凶暴な生物が自然発生します。未だ発生の原因は解明されていませんが、約300年前に突如世界に現れたのが魔王国です。魔王国は多数の魔物を引き連れ、この世界を侵略しようと戦争を起こしましたが、こちらも世界国として各国が協力し、かなりの力で対抗しました。そして、約100年にも及ぶ戦いで両国は疲弊し、互いの国の安全保障をもって戦争は終結、外交が始まりました。現在、その先頭に立っているのがオリヴァーですね。」


「魔法のほうもお願いします。」


「魔法とは、魔力を使って超常的な現象を引き起こすことです。魔力は魔物を倒すことで手に入る魔石から得られます。そして、魔力はほとんどの人がある程度は使用できます。」


「ほとんどの人がある程度とはどういうことですか?」


「魔法は先天的な才能に大きく左右されるため、稀に使えない人がいるんです。また、人間1人が起こせる魔法は、大きなものを運んだり、水を少し操ったり、火種を作ったりするのが精いっぱいで、魔法使いと呼ばれる人は魔導書、つまり補助演算装置のようなものを並列して使用しています。」


「なるほど、一般人にとって魔法はちょっと便利なものぐらいの認識なんですね。」


「そうですね。ケンも街に着いたら魔力適性があるか確認してみてください。」


「ぜひやってみたいな。でも、この話を聞かずには終われません。なぜ俺が転移者だと思ったんですか?」


「そうですね。あなたはそれを知るべきだ。この世界には、別の世界から『転移者』と呼ばれる人が来ることがあります。転移者の方は決まって文明レベルの高い国からやってくるようで、科学技術に関した高い知識を保有しています。しかし、その知識を狙って各国や魔王国、アンダーグラウンドな存在までも転移者を確保しようと必死に暗躍しており、転移者の方の失踪事件は後を絶ちません。正直、転移者の方には住みにくい世の中だと思います。」


それを聞いた俺は背筋が凍った。そして、問わざるを得なかった。


「まさか、あなたも俺の知識が狙いで?」


「まさか。私は商人ですから、人命を脅かすようなことはしませんよ。」


それを聞いて安心したのもつかの間、ニールは怪しげな笑みを浮かべた。


「まあ、私にも狙いがないわけではありません。」


「やはり、俺の命を!」


「違いますよ!私が欲しいのはあなたが着ている服なのです。」


「この服を?」


「ええ。転移者を外見で見分ける唯一の方法はその奇抜な格好なのです。この世界では確立されていない技術でできているようで、デザインや耐久性や保温性などにも優れ、とても高値で取引されているのです。そこでお願いなのですが、その服を私に買い取らせていただけませんか?」


ここまで聞いてニールが最初に俺のことを奇妙な格好の方といった理由もうなずけた。

こいつは最初から俺の服が狙いだったんだ。

しかし、買い取りだと?


「買い取りということは、私は何かニールからもらえるということですか?」


「もちろん!金貨1枚でどうでしょうか?当然替えの服は用意させてもらいますよ。あなたにとっても悪い話ではないはずです。」


俺は彼が言っている意味が分からなかった。


「なぜ買い取りなのですか?最初見つけた時に気絶させて追いはぎのまねをしたり、この馬車から落とすといって脅せばよいではないですか!」


「私は商人ですから。」


そういって彼は私に金貨1枚を差し出した。


「どうされますか?」


「交渉成立ですよ。」


俺は制服のブレザー・ワイシャツ・下着を渡し、ベルトを外してズボン・パンツ、靴紐をほどいて靴・靴下を渡した。

代わりに受け取った服は世界史の教科書で見たような革製のものだった。


「あの服に比べると着心地は悪いかもしれませんが申し訳ない。」


「いいえ。こうして世界のことを教えてもらって、さらに服を買い取ってもらって、感謝の限りです。」


「そうですね。これであなたが一目で転移者だとわかることはなくなりました。しかし気を付けてください。その知識はこの世界ではあなたの身を滅ぼしかねないのです。」


そう言われて俺は思わずつばを飲み込み、静かにうなづいた。


そうして走り続けてどのくらい経っただろうか。日は傾きつつある。

ぼんやり馬車の外を見ていると、ニールがいきなり立ち上がった。


「ほら、見てください。オンタリオが見えてきましたよ。」


ニールの指す先には、夕日で城壁が照らされた大きな街が姿を現していた。

これで土台はできたので次から本格的に物語を進めます。

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