王の裁定
「両者とも正しい」
王は続ける。
「ドナール、貴殿の言は理解できる。西方戦線は国家存続の要だ」
「1年先の戦線を維持するためには今、兵站が必要というのもその通りだろう……しかし」
王は静かに、だが断固として告げた。
「既にフリドは貴殿の手によって除名された。その手続きを行ったのは、他ならぬ貴殿自身だ」
「分家にするためには必要な手続きが、現時点では行われていない」
ドナール家当主は、表情に出さず、奥歯を噛み締めた。
「そして、兵站について。幸いにも、今年度の収穫は豊作といえよう」
「ゆえに、今年ただちにシュヴァンプ領の兵站を組み込まずとも、西方戦線は維持できる」
「もしも戦線が悪化した場合には徴収が必要だろうが……それはその時に、王命をもって行えば独立家門であっても問題はない」
王は淡々と続ける。
「次に、フリドの功績について」
「1年未満で1万人規模の都市を作り上げ、あらたな穀物生産も行った……」
「これは議論の余地がないだろう。男爵位を授けるのに、全く問題はない」
全当主は頷く。
「そして彼の功績で余が最も重く見たのは、穀物生産である」
「一番大規模な湿地帯はかの領地ではあるが……他にも、多くの湿地帯が存在する」
「王国全土の穀物生産量を底上げできるのであれば……将来の戦線を、大きく支えることができるはずだ」
「一時の兵站より、長き国力を選ぶ」
王は、視線を二人の当主に交互に向けた。
「また、新興都市に兵を要求することは、その成長を阻害する。余がそう判断した」
「その才能は、一貴族家のためではない」
「王国のために使われるべきものだ」
「ゆえに――」
結論を告げる。
「現時点では『独立家門』として扱う」
「……ただし、有事の際にはドナール家、フレイン家、両家ともに支援を行うよう命じる」
「ドナール。一度は縁を切ったのだ。関係は一から構築し直すがよい」
沈黙が流れる。
抗う術はない。王の決定は絶対だった。
「…………王の決断に従います」
ドナール家当主は、絞り出すような声で答え、力なく席に座り直した。
「……では、次の議題に移る」
嵐のような議論は、そうして幕を閉じた。
――……‥‥‥・・・・・・
数時間後。
会議室を後にしたドナール・ドナールは、廊下を早足で歩いていた。
「……クソッ!!」
行き止まりの壁に、拳を叩きつける。
だが、堅牢な王城の壁は、その程度の衝撃ではびくともしない。
(あの女狐め……我が家門に泥を塗りおって……!)
会議の光景が、屈辱と共に脳裏へフラッシュバックする。
フレイン家当主の、あの勝ち誇ったような、蔑むような眼差し。
フリドという強力な駒を、間一髪で手中に収め損ねた悔恨。
(いったい、あの女はいつから目を付けていたのだ……!? もしや、奴が裏で手を回して……!)
不吉な疑念が脳裏をよぎる。
だが、あれほど辺境の未開地だった場所を見初めるほどの投資をするほど、フレイン家は愚かではないはずだ。
となれば、結論は一つしかない。
(……我が家の情報網に、穴があったということか)
ドナール・ドナールは、激しい動悸を抑えながら、次の課題――諜報体制の再構築へと意識を向けた。
その瞳には、さらなる執念が宿っていた。
王が何を見据えるのか、的な話。
それぞれが何を重視しているのか、ちょっとでも伝われば幸いです。
楽しんでいただければ幸いです。
よろしければ、何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。




