構造の勝利
各地にて善戦を繰り広げた結果だろう。
敵の多くは一度引き、作戦会議を行っているようだ。
フリドもまた、脳内で考えを整理する。
(敵に考える間もなく追撃を行いたい……が)
今の都市にはそのような兵力は存在しない。
戦の経験もないような村人たちが大半だ。
幸いなことに、狩りの経験を持つ者は多い。そのため、武器は十分に扱える。
だが、統率された集団を相手取るほどの練度はまだ存在しない。
(敵は想定よりも練度が高い……ただの盗賊ではないのだろう)
統率された動き。
とくに、単純な突撃ではなく盾を構えながら進んできたその陣形は、すぐに身につくものではないだろう。
明らかに、訓練された跡が見て取れる。
だが、だからこそ違和感も残る。
(敵国が攻めてきたにしては軍全体も、敵の魔法使いも少ない……か)
フリド自身、軍に所属したことはない。
だが、少なくともこの規模の都市を200人程度で占拠するのは難しいだろう。
他国が攻めてくるのであれば、この数では足りないだろう。
通常、都市を攻め落とすには、防衛側の三倍以上の兵力が必要だと聞く。
まして、この世界では魔法使いの存在が戦局を左右する。
二百人程度で都市を制圧するには、あまりにも無謀だった。
つまり、正規の軍隊ではない。
(敗戦兵か逃走兵……練度の高さを見るに敗残兵、か)
であれば、彼らの目的は何か。
そのようなことを考えているうちに、敵に動きがあった。
石橋と木道。
整備された「通り」は、侵入者にとっての最短経路であると同時に、逃げ場のない通路でもあった。
それゆえに、こちらの攻撃も集中する。
敵は察していた。
正面からの突破には、我が方の弓兵と魔法による強固な抵抗が待ち構えていることを。
そのため、石橋を中央に、木道のみでなく、通常の地面、沼地を歩いてくる。
横に広がり、侵入経路を増やす算段のようだ。
途中に水路がある為、所々で長い木板を持っている。あれを橋にするのだろう。
(……想定通りだ)
高台の監視所から、フリドは冷静に戦況を観測する。
敵兵たちは、自分たちが「進軍を回避し、安全な迂回ルートを見つけた」と信じている。
彼らにとって、あの深く沈み込むような泥地は、踏み込めば足を取られる忌避すべき場所であり、同時に、正面の防衛網を避けられる唯一の隙に見えたはずだ。
だが、彼らは知らない。
その「泥地」こそが、最大の障壁であると。
「……狼煙を上げろ。合図だ」
フリドの指示を受け、監視所の兵が松明を掲げ、高く、黒く鋭い煙を空へ放つ。
ほどなくして、都市内部へ水を引き込む水門が次々と閉じられる。
都市内部へ引き込まれるはずだった主流の水は、外周へと流れ込み始めた。
「弓、撃て!」
敵に矢を射る。とにかく進行を遅らせるのが狙いだ。
敵は盾を構え、ゆっくりと、しかし確実に前進してくる。
合わせて、石橋の敵兵はフリドの魔法により攻撃を行う。
弓と盾、魔法が飛び交う攻防の中でも、敵は少しずつ前へ進んでいく。
その時だった。
「うっぷ、なんか、水量がおかしくないか…?」
沼地を歩く敵が異変に気付く。少しずつ、だが確実に足元の水位が増していた。
水門を切り替えてから僅かな時が過ぎ、その効果が現れ始めたのだ。
ほどなくして、沼地を歩いていた敵兵は腰、肩まで水に飲まれ、または引き返した。
「くそっ……! 雨でもないのに、なぜこんなに増水を……!?」
発展した後のシュヴァンプ領しか見たことのない敵兵は知らない。
この土地は常に水に溢れ、どのように苦労し、フリド達が改良を重ねてきたかを。
「戻れ! 全兵力で石橋を攻め落とす!」
逃げ道を求めた結果、敵は自ら最も守りの厚い石橋へ集まり始める。
フリドは静かに頷いた。
「……計画通りだ」
決戦は、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。
弱点も強みになる、的な話。
石橋と木道が通れたら通りたい、けれど無理だったらそりゃそれ以外を使うだろう。
でも、たとえば日本の城のように堀でもあればきついよねぇ~と考えました。
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