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杭打ち


 解析は終わった。

 先ほどこの重檜(おもひ)に触れ、その熱伝導率と密度を算出した結果、この湿地においてこれ以上の建材は存在しないと断定した。次に行うべきは、この素材を「点」として機能させるための構築作業だ。


「フリド様、本当にその木を打つおつもりで? さっきも言いましたが、こいつは沈むんです。一度泥に飲まれれば、二度と引き上げられませんぞ」


 ガルムが不安げに、目の前にそびえ立つ重檜(おもひ)の巨木を見つめている。

 彼の懸念は正しい。だが、それは「重さ」を制御できない者の理屈だ。


「問題ないよ、ガルム。沈ませずに切り出し、沈まない場所まで打ち込むだけさ。始めるよ」


 僕は巨木の幹に手を添え、内部の密度分布を脳内のマップに展開する。


「【風属性】――《研磨(ポリッシュ)》、および【火属性】――《熱源探知(サーモセンス)》」


 《熱源探知》で密度の低い「隙間」を狙い、《研磨》による超高速摩擦を一点に集中させる。キィィィィィン、という耳を刺すような高周波の音とともに、巨木が自重でゆっくりと傾き始めた。


「――逃げろ、倒れるぞ!」


 ガルムが叫ぶ。だが、僕は逃げない。


 公的に記録された俺の系統適性は、確かに生活魔法だ。

 だが、適性によって本能的に発現する魔法とは別に、術式を個別に学び、魔力回路を構築することで習得できる技術がある。それが『補助魔法』だ。

 即戦力にならないと実家では軽視されていたが、書庫で埃を被っていた術式のうち、有用そうなものはいくつか独学で習得済みだ。


「【闇属性】――《念動(テレキネシス)》」


 本来ならそのまま泥濘に没するはずの数トンの巨躯を、目に見えぬ「念力」が中空で捕捉した。自由落下の慣性を殺し、姿勢を水平へと固定して、泥土の上に静かに横たえる。


「……空中で、止めたのか……?」


 呆然とするガルムを余所に、僕は間髪入れず加工に移る。《研磨》と《念動》を組み合わせて旋盤のように丸太を回転させ、不純な辺材を削り落としていく。


「【火属性】――《着火(イグニッション)》」


 仕上げに、心材の表面を均一に加熱し、炭化層を形成させる。これで防腐性はさらに跳ね上がる。

 完成した「杭」を、僕は再び《念動》で垂直に立て直した。


「ガルム、下がって。ここからが本番だ」


 僕は杭の先端を泥に押し当て、深層にある「岩盤」を魔力の伝播によって捕捉する。


「【土属性】――《穴掘り(ディグ)》、および《振動(バイブレーション)》」


 《穴掘り》で杭の進路となる泥を排除しつつ、杭自体に高周波振動を与えた。周囲の泥は液状化し、摩擦抵抗が消えていく。振動は杭の直下にだけ閉じ込めている。外に逃がせば、地盤ごと崩れるからだ。


 ズズ、ズズズ……。


 重厚な振動が周囲を揺らし、重檜(おもひ)が吸い込まれるように沈んでいく。そして、仕上げだ。


「【土属性】――《質量増加(ヘヴィ)》」


 杭自体の有効質量を魔法的に数倍へと跳ね上げた。

 抵抗を失った泥の中を、超重量と化した重檜(おもひ)が、自重だけで一気に岩盤まで押し込まれる。


 ――ゴンッ!


 泥の底から、逃げ場のない硬質な手応えが伝わってきた。


「岩盤に到達。……定着を確認した」


 魔法を解くと、液状化していた泥が再び杭をがっちりと締め付けた。

 底知れぬ泥濘の中に、岩盤と直結した「絶対に動かない点」が誕生した。


「……信じられん。あんな死の資材を、たった一人で、こうも容易く……」


「容易くはないよ、ガルム。魔力の変換効率は最悪だ」


 僕は額の汗を拭い、泥の海に屹立する一本の杭を見つめる。


「だが、これで『テスト』は完了した。一気に仮設の橋を建てよう」


工事の様子です。説明したい病なので、実際の工事風景を書きました。

次の話はちょっとテイストが変わります。個人的にお気に入りです。


楽しんでいただければ幸いです。

よろしければ、何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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