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見張る目


 都市を守るための防衛策は、停滞を許さぬ勢いで、着実に形を成していった。


 まず、主流から安全に水を取り込むための水門設置。

 その作業は、フリドの手に委ねられていた。

 主流の水量は凄まじく、その圧力と流れを制御して設置を行うには、高度な魔力操作と精密な技術が要求される。

 この複雑かつ危険な工程を完遂できるのは、現在の彼以外に存在しなかった。

 本来であれば、数週間……いや、数カ月か、そもそも施工不可能な工程。

 それをフリドの規格外の魔力により、数日で完成させた。


 同時に、都市を取り囲む台地の一部を繋ぎ合わせる大規模な土木作業も並行して進められていた。

 排水用の水門を整備し、湿地特有の浸水被害を防ぐための防壁を築くためだ。


 一方、地上では村人たちの手による、泥臭くも懸命な防衛準備が進んでいた。

 監視所となる簡易的な小屋や、侵入を阻むための関門が次々と立ち上がっていく。

 遠距離での意思疎通を図るための狼煙の準備、交代制の当番決め、そして警備隊の増員。

 かつては平穏な村の風景であった場所に、今では「防衛」という名の緊張感が漂い始めていた。


 その変化は、生活の細部にも及んでいた。

 かつて夜間、港と宿屋街の両方に停泊していた舟は、現在はすべて港側へと集約されている。

 物資や人員の移動を悪用した不測の事態を防ぐため、厳格な管理体制が敷かれたのだ。


 課題は山積みだった。

「……武器についても、もっと強力なものが必要だ」

 村人たちの間で上がる声に、フリドは内心で苦い思いを抱いていた。

 しかし、現時点では狩猟用の道具の域を出るような、本格的な兵器を生み出す術は整っていない。


 整備が進むたびに、守りが強まっていく実感はある。

 だが、それと反比例するように、心の奥底には拭いきれない不安が(おり)のように溜まっていた。


「フリド様! 報告がございます!」


 作業の手を止めると、息を切らしたガルムが駆け寄ってきた。その表情は、単なる業務連絡以上の重みを孕んでいる。


「……どうした。工事の遅れか?」


 フリドが問いかけると、ガルムは周囲を一度伺い、声を潜めて告げた。


「監視所の建設現場において……どうやら、こちらを監視していると思われる影があったようです。今すぐに何かあったわけではありませんが、念のため、ご報告させていただきます」


 その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 フリドは無意識のうちに魔力を練り、火属性の補助魔法――《熱源探知(サーモセンス)》を展開した。

 視界が熱のゆらぎによって塗り替えられる。周囲の生物が放つ微かな熱の点を探った。

 蠢く小動物の熱は、霧の向こうで点々と確認できる。だが、不自然なほどに「人」の熱源は見当たらない。


 ……水門の現場にはいないのか。それとも、こちらの魔法を察知して姿を消したのか。

 見えないからこそ、そこに「意図」があるのだと直感してしまう。どこかに潜む、誰かの視線。


 フリドは、熱源のない暗い霧の深淵を見つめたまま、低く、だが確かな意志を込めて命じた。


「……ガルム、警備隊の採用と弓の作成を急げ。敵がこちらの存在を認識し、動き出す前に――準備を整える必要がある」


 返事をするガルムの背中を見送りながら、フリドは周囲に立ち込める湿地帯の霧を仰いだ。

 今日の霧は、いつもより深く、重く、すべてを飲み込まんとするかのようにまとわりついていた。


準備的な話。相手も気づき始めているかもしれない……。


楽しんでいただければ幸いです。

よろしければ、何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

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