表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
55/64

湿地の守り方


 領主館の会議場には、どこか重厚で、それでいて建設的な熱を帯びた空気が流れていた。


 集まったのは、各部門を代表する信頼の置ける面々だ。

 警備担当代表のガルム。石材採取・加工を担うステインとモルナ。

 木材採取代表のラグン。そして、外部との繋がりを持つ商人代表としてヴァルドとダーヴィト。


 狩猟・採取部隊のエイルやラウス、アイヴィーたちの姿はない。

 彼らは現在、黄金色に波打ち始めた稲の収穫を見据え、食料確保の最前線で奔走している最中なのだ。

 今は、都市の「腹」を満たすことが最優先事項である。


 静寂を破ったのは、遠慮のないヴァルドの声だった。


「それで、領主様。わざわざこのような場を設けて……一体何の集まりですかな?」


 その問いに、フリドは居住まいを正し、一同を見渡した。


「皆さん、お忙しいところ集まっていただきありがとうございます。今回、皆さんに集まっていただいたのは他でもない、この都市の『防衛』について、皆さんの知恵を拝借したいのです」


 言葉の重みに、ガルムが短く、力強く頷いた。

 現在進行中の都市拡張は巨大化の一途を辿っている。いつどこから敵が訪れるかは予測できない。

 そのため、警備部隊だけでなく、都市の構造を知る各部門の知恵を借りることが不可欠だと判断したのだ。


「防衛、ですか……」

 ダーヴィトが眉をひそめ、独り言のように呟く。

「商人にとって、戦いとなると少し縁遠い気がいたしますが」


「そう感じるかもしれないが、実はそうとも言い切れないよ」

 フリドは、商人の重要性を説くように言葉を継いだ。

「例えば、山道を通ってやってくる者たちの情報は、真っ先に商人たちの手に入る。外部の情勢や敵対勢力の動きを知る上で、君たちは最も重要な『目』なんだよ」


 ダーヴィトは、その指摘に深く納得したように頷いた。


「……では、私たちは、何をすればよいのでしょう?」

 ラグンが身を乗り出す。ステインとモルナも、期待と緊張の入り混じった眼差しを向けてきた。


「君たちには、この土地での『記憶』を呼び起こしてほしい。かつて、この湿地帯はどうなっていたのかな? 防壁となるような手段が、昔にはなかったかな?」


 フリドの問いに、一同は沈黙し、思考を巡らせる。

 しばらくの沈黙の後、ステインがポツリと口を開いた。


「……そもそも、フリド様がお越しになる前は、襲撃そのものがほとんど起きなかったはずですな」

「そうだね。それに、昔はこのあたりにはもっと深い泥があった。土地に精通した者でなければ、村の入り口にすら辿り着けなかったよ」


 モルナが続く。


 かつての湿地帯を覆っていた、底なしの泥。

 それは天然の防壁そのものだった。

 重装備の兵士が足を取られれば、そのまま泥の底へと沈んでいく。

 敵にとって、この土地は近づくことすら困難な「拒絶の地」だったのである。


 ……ならば、どうにかしてそれを再現できないだろうか。

 フリドの脳裏に、一つのビジョンが浮かぶ。


「……水量を調整できるようにすれば、その泥を『活用』できるかな?」

「水を、操る……?」

 モルナが不思議そうに首を傾げた。


「ああ。例えば、敵の侵入が察知された時だけ、都市の周囲を意図的に沼地へと戻す。そうなれば、敵の進軍ルートは木道や石橋といった、我々が管理する場所に限定されるよね」


 フリドの提案に、会議場に緊張と興奮が走った。

 しかし、同時に現実的な懸念も噴出する。


「おお……それは素晴らしい。ですが、どうやって? 急に水量が増えすぎて、こちらの居住区まで浸水してしまったら元も子もありませんぞ」

 ラグンの指摘はもっともだ。これまでの沼地の性質や、かつての雨季の被害を考えれば、水害のリスクは無視できない。


「水を引くこと自体は、主流の水路から導き出せば済む話だよ。難点は急激な変化による被害だね。……それなら、水門を操作する前に、敵の接近をいち早く察知し、住人に警告を発する仕組みを作ればいい」


 フリドが視線を向けると、ガルムが即座に反応した。

「なるほど。となると、山道への『監視所』の設置もセットで考える必要がありますな。敵がどこから来ているかを見極めるための目だ」


「山道の監視所……。それなら良い場所がありますよ」

 ヴァルドが指を立てた。

「商人がよく休憩に使う、あの広場付近はどうでしょう? 視界も開けていますしね」

「ふむ……ついでにそこに休憩所でも併設して、軽食でも提供できるようにすれば、商売にもなりますな」

 ガルムとヴァルドの会話が、いつの間にか防衛と経済を両立させる建設的な議論へと移っていく。


 その傍らで、フリドはステインやモルナ、ラグンと、水門の位置や土木工事の規模について話し合いを深めていった。


 ――水門、そして監視所。

 利便性を損なうことなく、必要に応じて都市の形態そのものを変貌させる。

 それは、静止した街から、生き物のように変化する要塞への進化。


 この日、新たな防衛の仕組みが産声を上げた瞬間であった。


そもそも取れるものも無くて、更に攻めるには面倒な場所なら敵も来ないよね的な話

今はフリドのおかげで価値が出た、からこそ敵が来てしまうんですね……


楽しんでいただければ幸いです。

よろしければ、何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ