流れの完成
調整池は、機能していた。
龍の喉へと向かう濁流は、一度そこに落ちる。
暴れていた水は、勢いを削がれ、広がり、そして流れていく。
主流は、既に制御されていた。
目に見える被害は、消えている。
――だが。
フリドは、水面を見下ろしたまま言った。
「……出口だけの問題じゃない」
一拍。
「流れ込む量だ」
龍の喉は、流れている。
詰まっているわけじゃない。
だが――
「一度に流せる量が、決まってる」
それを超えた分が、どうなるか。
フリドは、濁流を指さした。
「処理しきれなかった水は、行き場を失う」
一拍。
「だから、広がる」
地面へ。低地へ。湿地帯全体へ。
「……器に対して、水が多すぎるんだ」
アイヴィーが、目を細めた。
「……でかい桶の水を、そのまま口に運んでるみてえなもんか」
一拍。
「一度じゃ飲みきれねえ。こぼすだけだ」
フリドは、わずかに頷いた。
「そうだ。なら――少しずつ運べばいい」
アイヴィーが、先に言う。
「時間をかけりゃ、空にできる。……つまり、一度に流すなって話だ」
フリドは、静かに続けた。
「流せる分だけ流す。それが、制御だ」
フリドは、池の外周へと視線を走らせた。
流入は、まだ散っている。
主流は制御した。
だが、それ以外の流れが、各所から流れ込み、池の縁を荒らしている。
「土属性――《穴掘り》」
地面が、削れる。
流れを、繋ぐ。
直通路を作ったことで、主流は制御できた。
だが、それ以外の水は違う。
元の流路が、そのまま残っている。
浅い窪み、崩れた地面、偶然できた溝。
水はそこを選び、勝手に流れ込む。
結果、池の縁のあちこちから、水が入り込む。
場所ごとに勢いが違い、流れがぶつかり、乱れる。
「……だから、荒れる」
フリドは、小さく呟いた。
「なら、入口を減らす」
水が入る場所を、限定する。
他は、潰す。
繋ぐ。
導く。
流れを、“選ばせない”。
それだけで、流れは整う。
次に、池の内部へと視線を向ける。
今の池は、ただの窪地だ。
どこも同じ深さ。
だから、水は一番低い場所に集まり、そこで滞る。
「……出口の高さを、決めるか」
フリドは、地面に手を当てた。
龍の喉へと繋がる流路。
その高さを、基準にする。
そこより高い水だけが、外へ流れる。
それより低い水は――流れない。
「土属性――《土盛り》」
池の内部が、持ち上がる。
出口へと続く“浅い通り道”を作る。
その横に、さらに深い窪みを掘る。
深い場所は、水が落ちる。
だが、出口に届かない。
だから、溜まる。
浅い場所は、出口の高さに繋がる。
だから、流れる。
水は、低いところへ落ちる。
だが――出口に届く高さにある水だけが、外へ出る。
水は深さではなく、高さで選別される。
混ざらない。だから、安定する。
最後に、フリドは龍の喉へと視線を向けた。
唯一の出口。
そこに流れ込む水量は、まだ揺れている。
「……ここだな」
呟き、地面へと手をかざす。
「土属性――《土盛り》」
龍の喉へと続く流路の手前。
わずかに、絞る。流れを、細くする。
一気に流れ込まないように。
流しきれなかった水は、池に留まる。
そして、順に流れる。
一定量だけが、常に流れ続ける。――調整。
それが、ここで初めて成立した。
水面が、変わる。
揺れが消える。渦が消える。
濁流ではない。流れだ。
一定の、制御された動き。
水が、水として、そこにある。
「……やっと、“作った”な」
アイヴィーが、小さく呟いた。
フリドは、答えない。ただ、水を見る。
そして、静かに言った。
「……流れているんじゃない」
一拍。
「流している」
その言葉は、確信だった。
水は、もはや暴れるものではない。
扱うものだ。
――しばらくして。
アイヴィーが、ふと視線を逸らした。
「で?」
「?」
「掘りだした土、どうすんだ」
フリドは、わずかに目を細める。
空間収納に積み上げられた、膨大な土砂。
それは、ただの副産物ではない。
資源だ。
「……使う」
短く、そう答えた。
視線の先。
わずかに乾いた地面。水に沈まない場所。
そこに、可能性があった。
今回はほとんど細かいところへの対応でした。なくてもいいっちゃいいかも。
水路構築、応急処理はこれにて完了です。
ただし、水害の後はまだまだ問題が山積み……。
楽しんでいただければ幸いです。
よろしければ、何点でも構いませんので評価いただけると嬉しいです。




