第59話
音楽に合わせて踊りだす。簡単なステップでダンス初心者でも踊れるダンスは、会話を楽しむ為のものだ。
周りの女の子たちのほとんどが頬を赤く染めながら楽しそうに踊っている姿がみえる。
「カイン様もダミー王子様をされるんですね」
戦場で言うと後衛で人を操る・・・・いえ指示をだして人を動かすタイプだと思っていたから前衛って感じがちょっと違和感を感じる。
「・・・・・・・外見や発声、癖までコピーしたつもりなのですが」
ダンスの為に繋がれた手に微かに力がこもるのを感じた。
王子と同じ髪や格好、先程聞いた声も同じ。だけど私と踊る王子様は王子様じゃない。
「瞳が」
「瞳?」
「はい、瞳がカイン様の瞳でした」
こんなに透き通った綺麗な緑の瞳を他に私は知らない。最初は確かに王子様と同じ色をしていたと思ったけど、手を触れてからはもう、カイン様の瞳の色だった。
緑色の瞳に自分が映しだされている。同じようにその綺麗な瞳の中に私の姿が映っているのだろう。
仮面を被っている為表情を読みとるのは難しい。ただ仮面の向こうの瞳が微かに見開いた気がしたので驚いているのかもしれない。思わず笑ってしまった。仮面をつけているせいか、こんなに近い距離なのにあまり緊張しない。仮面っていいのかもしれない。
「・・・・・失敗ですね」
「え?」
「いえ、本当は本来の姿で貴女をダンスに誘いたかったんです。だからこの姿を見破られたのが正直少し悔しいです。貴女と初めて踊るのが本来の自分ではないので」
「いや、緊張してカイン様となんて踊れませんよ!」
「・・・・・王子とは踊るのに?」
「え?!いや、これはその・・・・あっ!カイン様ジャンから何か聞いてませんか?」
「ジャン?・・・・あぁジャン、ジャンですね」
「はい、ジャンから聞いてわざわざ来て下さったんですよね」
何故か握られた手に力を籠められた。伝わる熱と力が心を乱されそうになる。
警報音がなりそうだ。
「私と、後その、妹は何をすればいいんでしょうか?!」
「そうでうね、本来なら貴女は私とのダンスにだけに集中して頂きたかったのですが先に用事を済ませましょう」
ん?なんか今凄い事を言われた気がする。
そして密着度が増し、さっきより近くで声を聞く。
「恐らく貴女と貴女の妹さんは捕まった人間以外にも顔がばれていますから、このダンス中に再度襲撃を受ける可能性が高いです。・・・向こうはどちかが王子の本命相手と思っているはずです。城の内部に裏切り者がいる、しかも中心部の人間が関わっているとなれば王子の性格も知っているはずで。女性、特に思い人となれば自身が動かないなどあり得ないと分かっているはずですから、2人一緒の時に狙いを定めるはずです」
「なるほど。だからラスボス的なカイン様が私の所に来られたんですね」
「ラスボスですか、リリアさんは私の事そんな風に思っていたんですね」
「えっ!??いえ、間違えました!」
しまった、緊張でつい本音が
「ってそれってもしかして、あの娘の所に王子様が!?」
「そうなります。王子は正義感が強い周りの迷惑を顧みない人間ですから」
あれ?後半ディスってない?王子様だよね?上司ですよね?
「今の所私たち側に接触がないので、恐らく貴女の妹さんが本命相手とされている可能性も高いですね」
「確かに私達を比べたらそうなりますね。でも大丈夫かしら