閑話「宍戸先生と崇道先生――二人だけの秘密❷」
二代目シークレットガールズの五人が、それぞれ大切な人に言えない秘密と向き合った第5話。
その裏側で――五人を支える崇道康熙にも、まだ彼女たちへ明かしていない大きな「シークレット」があります。
学校では歴史教師。
放課後はSHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆を育てるコーチ。
そして、さらにもう一つ。
同じ学校で英語を教えている宍戸美和とは、ただの同僚ではありません。
二人は将来を誓い合った婚約者同士。
学校では「崇道先生」「宍戸先生」。
けれど二人きりになれば「康熙」「美和」。
教師たちにも生徒たちにも知られないように距離を保ちながら、二人は密かに将来へ向かって歩いています。
ところが最近、生徒たちからも、
「崇道先生と宍戸先生って、お似合いじゃない?」
という声が聞こえ始め――。
さらに二代目シークレットガールズの五人も、康熙に恋人がいるのではないかと疑い始めました。
五人の秘密を守るコーチ自身にも秘密がある。
今回は、そんな康熙と美和の「二人だけの秘密」第2弾です。
二代目シークレットガールズが正式にデビューしてから数日。
学校では、SHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆の話題が日に日に増えていた。
しかし、その五人の正体が――。
高野栞。
森川美空。
山本結菜。
荒木美羽。
柴崎莉央奈。
自分たちと同じ学校に通っている五人だと知る者は、ほとんどいない。
そして、この学校にはもう一組。
生徒にも、ほとんどの教師にも知られていない秘密を持つ二人がいた。
歴史教師・崇道康熙。
英語教師・宍戸美和。
学校では、ただの同僚。
けれど二人きりになれば――。
将来を誓い合った、婚約者同士だった。
◇◇◇
朝。
職員室。
「おはようございます」
「おはようございます、崇道先生」
康熙が職員室へ入ると、すでに何人もの教師が出勤していた。
自分の机へ向かう途中。
「おはようございます、崇道先生」
聞き慣れた声。
康熙が振り返る。
美和だった。
「おはようございます、宍戸先生」
たったそれだけ。
美和は英語の教材を持ち、自分の席へ戻っていく。
康熙も歴史の授業準備を始める。
周囲から見れば、ごく普通の朝。
だが二人の左手には、学校では見せない大切な指輪がある。
婚約指輪。
勤務中は目立たないようにしている。
二人の関係を知るのは、校長、教頭、小林前社長の実の息子である新社長など、ごく限られた人物だけ。
そして今のところ――二代目シークレットガールズの五人にも正式には話していない。
「崇道先生」
同僚教師が康熙に声を掛ける。
「はい」
「最近、放課後に学校を出ること多いですよね?」
一瞬、康熙の動きが止まった。
「そうですか?」
「ええ。何か用事でも?」
「少し個人的な仕事がありまして」
嘘ではない。
二代目シークレットガールズのコーチ。
それも康熙にとって大切な仕事だった。
すると別の教師が冗談交じりに言った。
「まさかデートじゃないですよね?」
「違います」
即答。
少し離れた席で、美和が聞いていた。
「崇道先生なら恋人くらいいてもおかしくないでしょう」
「そうそう」
「宍戸先生はどう思います?」
突然話を振られた美和。
「え?」
康熙と美和の視線が一瞬だけ合う。
美和は何事もなかったように微笑んだ。
「私に聞かれても分かりませんよ。崇道先生のプライベートは存じませんから」
「ですよね」
周囲が笑う。
康熙は資料へ目を戻す。
その表情は平静。
だが心の中では――。
――婚約者本人が何を言ってるんだ。
美和も自分の席で笑いを堪えていた。
◇◇◇
一時間目。
歴史。
「では、前回の続きを始める」
康熙が黒板に文字を書く。
生徒たちは教科書を開く。
「柴崎」
「はい!」
莉央奈が立ち上がる。
「前回説明した内容を答えてみろ」
「えっと……」
莉央奈が答える。
「正解」
「よしっ」
「喜ぶほど難しい問題じゃない」
「先生、一言多いです!」
教室に笑いが起こる。
今ここにいる康熙は、あくまで歴史教師。
莉央奈も、ただの中学生。
LiZ☆とコーチではない。
やがて授業終了のチャイムが鳴った。
「今日はここまで」
康熙が教材をまとめる。
ちょうど教室の扉が開いた。
「失礼します」
次の英語を担当する美和だった。
「崇道先生、お疲れさまです」
「宍戸先生、お疲れさまです」
康熙が教室を出る。
その時。
早川翔太が二人を見ながら呟いた。
「崇道先生と宍戸先生ってさ」
「何?」
西野彩花が尋ねる。
「なんかお似合いじゃね?」
美和の動きが一瞬止まりそうになる。
「分かる!」
別の女子生徒も話に入る。
「歴史と英語の先生同士!」
「それ関係ある?」
「でも雰囲気違うから逆に合いそう」
莉央奈も二人がいた扉の方を見る。
「確かに」
美羽が頷く。
「崇道先生は落ち着いてるし、宍戸先生は明るいしね」
美空が笑う。
「実は付き合ってたりして」
「森川さん」
「はいっ!」
突然、美和に名前を呼ばれた。
「授業を始めますよ?」
「す、すみません!」
教室に笑いが広がった。
美和は何事もなかったように教科書を開く。
だが心の中では――。
――付き合ってるどころか婚約してます。
もちろん、口に出せるはずがなかった。
◇◇◇
昼休み。
康熙は校長室へ呼ばれていた。
「失礼します」
「どうぞ」
中には校長と教頭。
そして美和もいた。
「宍戸先生も?」
康熙が尋ねる。
校長が笑う。
「ここには私たちしかいませんよ」
その一言で少し空気が変わる。
美和が康熙を見る。
「お疲れさま、康熙」
「お疲れ、美和」
学校内では滅多にない、名前での呼び合い。
教頭が苦笑する。
「やはり、そちらの方が自然ですね」
「普段ずっと『宍戸先生』ですから」
康熙が答える。
校長が二人を見る。
「婚約関係を隠していることについて、何か困っていることはありませんか?」
美和が少し考える。
「今のところは大丈夫です」
「私もです」
康熙も答える。
「ただ――」
「何です?」
「生徒たちが最近、私たちを『お似合い』と言い始めました」
美和が思わず笑う。
教頭も笑った。
「生徒はよく見ていますからね」
「まだ何も気づいていないと思いますが」
「それでも注意してください」
校長の表情が少し真剣になる。
「二代目シークレットガールズもデビューしたばかりです。崇道先生にはコーチという、もう一つの重要な立場があります」
「はい」
「学校内で余計な騒ぎになるのは避けた方がいいでしょう」
「分かっています」
美和も頷いた。
「私も気をつけます」
校長は微笑む。
「ただ、学校が二人の結婚そのものに反対しているわけではありませんからね」
「ありがとうございます」
「時期が来たら、正式に報告すればいい」
康熙と美和は顔を見合わせる。
「はい」
二人の返事が重なった。
◇◇◇
放課後。
「SHI☆、もう少し右!」
「はい!」
「MIKU♪、そこ早い!」
「はいっ!」
「YUNA◇、全体を見ろ!」
「はい!」
「MII♡、次の位置!」
「はい!」
「LiZ☆!」
「分かってる!」
「まだ何も言ってない!」
「えっ!?」
レッスン室に笑いが起きる。
「LiZ☆、先読みしすぎ」
MIKU♪が笑う。
「だって絶対何か言われると思ったから!」
「実際、言うつもりだった」
康熙が答える。
「ほら!」
二代目シークレットガールズの五人は、デビュー後もレッスンを続けていた。
ステージに一度立ったから完成ではない。
むしろ、ここからが本番。
康熙の指導も以前より細かくなっている。
「もう一度、最初から」
「ええー!」
「嫌なら終わるか?」
「やります!」
五人が位置につく。
音楽。
ダンス。
五人の動きが揃う。
康熙は真剣な表情で見ていた。
そして一曲が終わる。
「今日はここまで」
「終わったー!」
MIKU♪が床に座り込む。
「疲れた……」
MII♡も座る。
LiZ☆が康熙を見る。
「康熙コーチって、本当に容赦ないよね」
「お前たちのためだ」
「学校より厳しい」
SHI☆が言う。
「当然だ」
YUNA◇が水を飲みながら尋ねる。
「コーチって、これから学校戻るんですか?」
「ああ」
「大変じゃないですか?」
「慣れてる」
「でも学校の仕事もあるのに」
康熙は五人を見る。
「お前たちが心配することじゃない」
その時。
康熙のスマートフォンが震えた。
画面を見る。
美和からだった。
『終わった?』
康熙は短く返信する。
『今終わった』
『夕食どうする?』
『一緒に食べよう』
『分かった。待ってる』
康熙がスマートフォンをしまう。
だが――。
LiZ☆が見ていた。
「……康熙コーチ」
「なんだ?」
「今、笑った?」
「笑ってない」
「笑った!」
MIKU♪も反応する。
「誰から!?」
「関係ない」
「怪しい!」
MII♡まで笑う。
「彼女とか?」
康熙の動きが一瞬止まった。
五人が静かになる。
「……え?」
LiZ☆の目が輝く。
「今の間!」
「絶対何かある!」
MIKU♪が立ち上がる。
「康熙コーチ、彼女いるんですか!?」
「帰れ」
「答えてない!」
「レッスン終了だ」
「逃げた!」
「早く帰れ!」
五人の笑い声がレッスン室に響いた。
◇◇◇
夜。
康熙は学校へ戻っていた。
職員室。
すでに多くの教師が帰宅している。
美和は自分の席で待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
康熙が答える。
「今日はどうだった?」
「かなり良くなってる」
「本当?」
「ああ」
「デビューして、自信ついたのかな」
「それもあると思う」
美和が微笑む。
「よかった」
康熙が荷物を置く。
「ただ……」
「どうしたの?」
「五人に怪しまれた」
「何を?」
「俺に彼女がいるんじゃないかって」
美和が数秒黙る。
そして――。
「ふふっ」
笑い始めた。
「笑うな」
「だって」
「美和」
「ごめん、ごめん」
美和は口元を押さえる。
「なんでバレそうになったの?」
「お前からのメッセージ見てたら、笑ってたらしい」
「康熙が?」
「ああ」
「そんなに嬉しかった?」
「……」
「ねえ?」
「帰るぞ」
「照れてる」
「照れてない」
美和は楽しそうに笑った。
「二代目の五人に知られるの、案外早いかもね」
「それは困る」
「どうして?」
「生徒だぞ」
「でも、あの五人なら秘密を守れるでしょう?」
康熙は少し考える。
「それはそうだが……」
「自分たちも大きな秘密を守ってるんだもの」
「まだ話すつもりはない」
「はいはい」
美和は立ち上がった。
「じゃあ帰ろう」
◇◇◇
学校を出た二人。
校門付近では距離を取る。
教師と教師。
それ以上には見えないように。
そして学校から十分ほど離れたところで、美和が康熙の隣へ並んだ。
「疲れた」
「今日授業多かったのか?」
「六時間」
「それは大変だったな」
「康熙は学校の後にレッスンでしょ?」
「まあな」
「私より大変」
「比べるものじゃない」
しばらく歩く。
美和が小さく笑った。
「ねえ」
「何?」
「さっきの話」
「何だ?」
「五人に彼女いるのかって聞かれた話」
「まだ言うのか」
「もし『彼女どころか婚約者がいる』って言ったら、どんな顔するかな」
康熙は想像する。
LiZ☆。
MIKU♪。
YUNA◇。
MII♡。
SHI☆。
「……うるさそうだ」
「特にMIKU♪とLiZ☆?」
「間違いなく」
二人が笑う。
「しかも相手が私だって知ったら?」
康熙が黙った。
美和は楽しそうに続ける。
「学校の英語教師・宍戸美和です」
「大騒ぎだな」
「でしょう?」
「だから言わない」
「でもいつかは知るよ」
「ああ」
その時が来れば。
五人にとって康熙と美和は、ただの教師ではなくなるのかもしれない。
二代目シークレットガールズの秘密を共有する者同士。
そして、二人の婚約という秘密を共有する者同士。
だが――。
今はまだ、その時ではなかった。
◇◇◇
二人が夕食を済ませた後。
美和の部屋。
学校から十分離れれば、もう教師として距離を取る必要はない。
美和が温かいお茶を二つ用意する。
「はい」
「ありがとう」
康熙が受け取る。
二人は隣同士で座った。
テレビには、芸能ニュースが流れている。
『注目の新人アイドル、シークレットガールズ――』
二人の視線がテレビへ向く。
画面には五人。
SHI☆。
MIKU♪。
YUNA◇。
MII♡。
LiZ☆。
「すごいね」
美和が呟く。
「もうニュースになってる」
「デビュー直後だからな」
「学校のみんなも話してたよ」
「こっちもだ」
テレビの中で、五人が笑っている。
美和はその姿を見つめる。
「この子たち、本当に知らないんだよね」
「何を?」
「自分たちのお母さんのこと」
「ああ」
「自分たちが追いかけてる初代シークレットガールズが、一番近くにいるなんて」
康熙も画面を見る。
「いつか分かる」
「その時、康熙も一緒にいる?」
「コーチだからな」
「そっか」
美和は微笑む。
そして少し間を置いて。
「私も?」
康熙が美和を見る。
「もちろん」
「本当に?」
「ああ」
「私はコーチじゃないよ?」
「それでもだ」
康熙は静かに答える。
「お前も、もうこの秘密を知ってる」
美和は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私も支える」
「英語担当か?」
「それだけじゃない」
「じゃあ何?」
「康熙担当」
「……」
「婚約者だから」
康熙は苦笑した。
「それが一番大変そうだな」
「どういう意味?」
「冗談」
「もう」
二人の笑い声が静かな部屋に響いた。
◇◇◇
翌朝。
学校。
「おはようございます、崇道先生」
「おはようございます、宍戸先生」
昨日の夜とは違う。
学校では再び、ただの同僚。
その近くを莉央奈、美空、結菜、美羽、栞が歩いていた。
「おはようございます!」
「おはよう」
康熙が答える。
「おはようございます」
美和も笑顔で返す。
二人は別々の方向へ歩いていく。
五人も教室へ向かおうとした。
しかし――。
「ねえ」
莉央奈が立ち止まる。
「何?」
美空が振り返る。
莉央奈は遠ざかる二人を見る。
「昨日、康熙コーチに彼女いるんじゃないかって話したじゃん」
「うん」
「もしかしてさ……」
四人が莉央奈を見る。
「学校の先生だったりして」
「ええ?」
美羽が驚く。
結菜が小声で言う。
「まさか」
栞も二人の背中を見る。
「でも、絶対にないとも言えないよね」
美空が目を輝かせる。
「じゃあ調べてみる?」
「駄目」
結菜が即答する。
「なんで!」
「先生のプライベートでしょ」
「ちょっとだけ!」
「駄目」
「YUNA◇厳しい!」
「ここ学校!」
「あっ!」
美空が慌てて口を押さえる。
五人は顔を見合わせた。
「危な……」
莉央奈が小声で呟く。
その時。
廊下の向こうで康熙が振り返った。
「お前たち、早く教室へ行け」
「はーい!」
五人が走り出す。
美和はその様子を遠くから見ながら、少し笑っていた。
まだ五人は知らない。
昨日、自分たちが、
「康熙コーチ、彼女いるんですか?」
と問い詰めたその答えが――。
毎日のように学校で顔を合わせている英語教師・宍戸美和であることを。
しかも「彼女」ではない。
すでに二人は将来を誓い合った婚約者。
歴史教師と英語教師。
コーチと、その婚約者。
学校ではただの同僚。
二人きりになれば、互いを名前で呼び合う大切な存在。
二代目シークレットガールズに五人だけの秘密があるように――。
康熙と美和にもまた。
まだ五人には知られていない、二人だけの「シークレット」があった。
そして、その秘密が五人に明かされる日は――。
少しずつ近づいていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
閑話「宍戸先生と崇道先生――二人だけの秘密❷」では、学校とプライベートでまったく違う二人の関係を描きました。
学校ではあくまで同僚。
「おはようございます、崇道先生」
「おはようございます、宍戸先生」
それだけを聞けば、二人が婚約しているとは誰も思いません。
しかし二人きりになれば、
「康熙」
「美和」
と呼び合う婚約者同士へ戻ります。
しかも今回は、生徒たちから、
「二人ってお似合いじゃない?」
という声まで出始めました。
生徒たちは冗談半分ですが――実際には大正解。
さらにレッスン中には、康熙が美和から届いたメッセージを見て思わず笑ってしまい、LiZ☆たちから、
「康熙コーチ、彼女いるんですか!?」
と問い詰められることに。
もちろん康熙は答えませんでした。
もし五人が真実を知れば、「彼女がいる」というだけでも驚くはずなのに、その相手が毎日のように学校で英語を教えてもらっている宍戸美和で、しかもすでに婚約していると知れば――大騒ぎになることは間違いありません。
そして莉央奈は最後に、
「もしかして、学校の先生だったりして」
と、少しだけ真実へ近づきました。
二代目シークレットガールズの正体。
初代シークレットガールズと母親たちの正体。
康熙のコーチとしての顔。
そして康熙と美和の婚約。
この物語には、少しずついくつもの「シークレット」が重なり始めています。
そして次回は本編、第6話。
「崇道先生のもう一つの顔――学校とアイドルの二重生活」
いよいよ康熙自身の二重生活が中心となります。
学校では歴史教師として五人に接し、放課後になればコーチとして厳しく指導する康熙。
そんな中、ある出来事から――SHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆の五人が、康熙と美和の関係を知ってしまうことに。
「えっ……宍戸先生が!?」
「康熙コーチの婚約者!?」
ついに明かされる、二人の秘密。
そして五人は、康熙たちと一つの約束を交わすことになります。
――このことは、学校では絶対に秘密。
秘密を守られている五人が、今度は先生たちの秘密を守る側へ。
第6話へ続きます。




