第10話「シークレットガールズの正体――母と娘、二つの秘密」
第9話で、母親たちと小林前社長が二十五年前から繋がっていたことを知った五人。
SHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆。
娘たちの疑問は、もう「偶然」で片づけられないところまで大きくなっています。
高野愛とEYE。
森川未紀とMORM。
山本麻子とYAH。
荒木まやとBEE。
柴崎リオとLIZ☆。
顔立ち。
仕草。
ダンス。
歌。
五人で行動していたという過去。
そして、小林前社長との芸能界を通じた繋がり。
一つ一つは偶然でも、それがいくつも重なれば――。
「もしかして、本当に……?」
五人は初代シークレットガールズについて、さらに詳しく調べ始めます。
しかし今回、答えそのものはまだ明かされません。
母親たちにも二十五年間守り続けてきた秘密がある。
そして娘たちにも、SHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆という誰にも言えない秘密がある。
母と娘。
互いに相手へ言えないことを抱えた二つの世代が、今回は初めて「秘密がある」ということだけを認め合うことになります。
真実には届かない。
けれど――確実に距離は縮まっていく。
最大のシークレットが明かされる直前の、第10話です。
第9話の出来事から数日。
二代目シークレットガールズの五人――。
SHI☆。
MIKU♪。
YUNA◇。
MII♡。
LiZ☆。
五人の頭から、母親たちへの疑問は消えていなかった。
むしろ。
小林前社長と母親たちが二十五年前から知り合いだったこと。
しかも「芸能関係の仕事」で繋がっていたこと。
そして――。
「お母さんたち、アイドルだったの?」
と聞いた瞬間、母親五人が揃って固まったこと。
それらが、五人の疑問をさらに大きくしていた。
ただし――。
この時点でも、娘たちはまだ真実には辿り着かない。
そして母親たちも。
まだ。
自分たちが初代シークレットガールズだったことを明かすつもりはなかった。
◇◇◇
朝。
柴崎家。
莉央奈は朝食を食べながら、何度も母・リオの顔を見ていた。
「……」
「……」
リオが箸を止める。
「莉央奈」
「なに?」
「さっきから何?」
「何が?」
「ずっとお母さんの顔見てる」
「見てないよ」
「見てる」
「気のせい」
「絶対違う」
莉央奈は少し笑った。
しかし。
すぐ真顔に戻る。
「お母さん」
「なに?」
「二十五年前って何してた?」
リオの動きが止まった。
「……また?」
「だって気になるんだもん」
「普通に中学生」
「それは聞いた」
「じゃあ何が知りたいの?」
莉央奈はスマートフォンを取り出す。
画面には初代シークレットガールズ。
EYE。
MORM。
YAH。
BEE。
LIZ☆。
リオの表情が一瞬だけ変わる。
莉央奈はその反応を見逃さなかった。
「この人たち」
「うん」
「お母さん、本当に会ったことない?」
「ないよ」
「小林前社長とは会ったことあるのに?」
「それとこれとは別でしょ」
「芸能関係の仕事してたんでしょ?」
「ちょっと手伝っただけ」
「何を?」
「イベント」
「どんなイベント?」
「昔すぎて覚えてない」
莉央奈がじっと見つめる。
「都合よく忘れるね」
「二十五年前だよ?」
「でも中学生の時でしょ?」
「だから余計に」
「ふーん」
リオは何とか笑顔を保つ。
しかし内心。
――もうかなり危ない。
莉央奈は画面を拡大する。
初代LIZ☆。
「やっぱり似てる」
「誰に?」
「お母さん」
「またそれ?」
「目元」
「似てない」
「口元」
「似てない」
「笑い方」
「写真で笑い方分からないでしょ」
「動画も見た」
リオが固まる。
「動画?」
「うん」
莉央奈が再生する。
二十五年前のLIZ☆。
ステージで笑っている。
リオは見ないようにする。
「ほら」
「何が?」
「笑い方」
「似てないって」
「なんでそんなに否定するの?」
「だって似てないから」
莉央奈はしばらく母を見る。
そして。
「……まあいいや」
スマートフォンを閉じる。
「学校行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関が閉まる。
リオは椅子に座った。
「……本当にそっくりなところまで見つけ始めた」
額を押さえる。
まだ。
言わない。
少なくとも。
今はまだ。
◇◇◇
高野家。
「お母さん」
栞が愛へ声を掛ける。
「なに?」
「昔、人前で歌ったことあるって言ったよね」
「学校行事くらいって言ったでしょ」
「どんな曲?」
「覚えてない」
「何人で?」
愛の動きが止まる。
「……何人?」
「うん」
「クラスみんなじゃない?」
「本当に?」
「なんでそんな質問するの?」
栞は少し迷う。
「最近、お母さんの昔が気になるだけ」
「どうして?」
「秘密多そうだから」
「秘密なんてないよ」
「……」
栞は何も言わなかった。
しかし。
心の中では思っている。
――絶対ある。
◇◇◇
森川家。
「お母さん!」
「なに?」
美空がスマートフォンを持って走ってくる。
「これ見て!」
「何?」
「初代MORM!」
未紀が固まる。
「……また初代?」
「最近気になるんだもん」
美空は動画を再生する。
MORMがステージで踊っている。
「ここ!」
「何?」
「このターン」
未紀の心臓が跳ねる。
「この前お母さんがやったのと似てない?」
「似てない!」
即答。
美空が驚く。
「まだ最後まで見てないけど」
「……」
「怪しい」
「偶然!」
「でも身体の使い方まで似てる」
「昔のダンスって似たようなの多いから!」
「本当?」
「本当!」
美空が腕を組む。
「じゃあお母さん、MORMの振り付け踊れる?」
「無理!」
「動画見ながらなら?」
「無理!」
「なんでそんな必死?」
未紀は逃げるようにキッチンへ向かった。
「朝ご飯冷めるよ!」
「絶対何かあるなぁ……」
美空は呟いた。
◇◇◇
山本家。
結菜は母・麻子へ、ある質問をしていた。
「お母さん」
「なに?」
「昔、小林前社長とどこで会ったの?」
「イベント」
「何の?」
「芸能イベント」
「誰の?」
「……色々」
「色々って?」
「本当に細かいこと覚えてないの」
結菜はじっと母を見る。
「じゃあ小林前社長って、昔のお母さんを何て呼んでた?」
麻子の表情が変わる。
「え?」
「名前?」
「普通に山本さんとかじゃない?」
「中学生に?」
「そういう人もいるでしょ」
結菜は少し考える。
「……YAHとかじゃなくて?」
麻子の箸が止まった。
ほんの一瞬。
でも。
結菜は見た。
「お母さん?」
「な、何?」
「今、反応した」
「してない」
「YAHって言った時」
「気のせい」
結菜は何も言わない。
ただ。
疑問はさらに大きくなった。
◇◇◇
荒木家。
美羽は母・まやの前に古いBEEの写真を置いた。
「お母さん」
「何?」
「この人ってどんな人だったと思う?」
まやは困る。
「知らないよ」
「想像で」
「明るそう」
「それだけ?」
「可愛いんじゃない?」
「お母さんとちょっと似てる」
まやの目が動く。
「どこが?」
「顔」
「似てない」
「またみんなそれ言うんだよね」
「みんな?」
「栞たち」
まやの表情が変わる。
美羽は続ける。
「初代の五人と、お母さんたち五人」
「……」
「それぞれちょっと似てるって」
「偶然よ」
「五人とも?」
「世の中には似てる人いるから」
「全員?」
「……」
まやは答えに詰まった。
美羽はその表情を見る。
何かある。
確信はない。
でも。
何もないとは思えなくなっていた。
◇◇◇
学校。
五人は朝から、いつも以上に静かだった。
「どうしたの?」
琴音が莉央奈へ尋ねる。
「何が?」
「みんな難しい顔してる」
陽向も。
「また秘密会議か?」
莉央奈がすぐ答える。
「違う」
「その即答が怪しい」
「普通!」
「最近お前、『普通』って言いすぎ」
「気のせい!」
琴音が笑う。
「まあ、喧嘩してないならいいけど」
五人は顔を見合わせる。
喧嘩ではない。
ただ。
同じ疑問を抱えている。
◇◇◇
昼休み。
人の少ない場所。
五人が集まる。
「報告します」
美空が手を挙げる。
「何?」
結菜が尋ねる。
「MORMのターンと、うちのお母さんのターンがめちゃくちゃ似てた」
「やっぱり?」
莉央奈が反応する。
栞も言う。
「うちは昔、人前で歌ったことについて聞いたけど、全然詳しく話してくれなかった」
美羽。
「BEEに似てるって言ったらすごく否定された」
結菜。
「YAHって名前を出したら、お母さん反応した」
四人が結菜を見る。
「本当に?」
「一瞬だけだけど」
そして莉央奈。
「うちはLIZ☆の動画見せた」
「どうだった?」
「絶対見たくなさそうだった」
五人は黙る。
ここまで来ると。
偶然では片付けにくい。
美空が言う。
「ねえ」
「なに?」
「もう答え出てるんじゃない?」
結菜がすぐ止める。
「まだ決めつけない」
「でもさ」
「証拠がない」
莉央奈がスマートフォンを出す。
「じゃあ証拠探そう」
四人が見る。
「初代のこと、もっと調べる」
栞が尋ねる。
「どこまで?」
「当時の記事とか映像とか」
「名前は出てないはずだよ」
「でも何かあるかもしれない」
美羽が頷く。
「確かに」
結菜は少し迷う。
そして。
「分かった。でも」
四人を見る。
「お母さんたちの部屋を勝手に探すとかはなし」
「分かってる」
「人の物勝手に見るのもなし」
「うん」
「ネットとか公開されてる資料だけ」
「それならいい」
五人は頷いた。
自分たちの母親の秘密。
それを暴きたいわけではない。
ただ。
知りたい。
なぜ。
あれほどアイドルのことを知っているのか。
なぜ。
小林前社長と昔から繋がっているのか。
そして。
なぜ。
初代シークレットガールズと、こんなに似ているのか。
◇◇◇
放課後。
レッスン室。
康熙が五人を見る。
「今日は全員、集中力がない」
「……」
五人は黙る。
「何かあったか?」
「何も」
結菜が答える。
康熙は五人を見渡す。
明らかに何かある。
しかし。
学校や家庭のことを無理に聞き出すつもりはない。
「なら切り替えろ」
「はい」
音楽。
五人が踊る。
だが。
LiZ☆のターンが少し遅れる。
「ストップ」
康熙が音を止める。
「LiZ☆」
「はい」
「考え事するなら帰れ」
「……ごめんなさい」
「ここにいる時はここに集中」
「はい」
康熙は再び音楽を流す。
五人も気持ちを切り替える。
アイドルとして。
今は。
自分たちの仕事をする。
◇◇◇
レッスン終了。
新社長がレッスン室へ来た。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
五人が挨拶。
新社長は五人の表情を見る。
「何かあった?」
康熙が言う。
「今日は少し集中力がありませんでした」
新社長が五人を見る。
「学校?」
「違います」
栞が答える。
「家?」
五人の表情が少し変わる。
新社長はすぐ察した。
「母親のこと?」
沈黙。
五人が一斉に新社長を見る。
「……なんで分かるんですか?」
美空が尋ねる。
新社長は少し笑う。
「君たちのお母さんたちから、最近色々聞かれているとは聞いてるから」
「何を?」
莉央奈がすぐ尋ねる。
新社長は言葉を選ぶ。
「昔のこと」
「前社長と知り合いだったこと?」
「それも」
「じゃあ」
結菜が尋ねる。
「新社長は、お母さんたちの昔を知ってるんですか?」
新社長は黙る。
ここ。
答え方を間違えれば終わる。
「全部は知らない」
嘘ではない。
父から聞いている。
でも。
自分自身が二十五年前を直接見たわけではない。
「じゃあ、何を知ってるんですか?」
美羽が尋ねる。
「父と昔から縁があったこと」
「芸能関係で?」
「そう聞いてる」
「アイドル?」
美空。
新社長は少し間を置く。
「そこは本人たちに聞くべきだと思う」
五人の表情が変わる。
否定しなかった。
それだけで。
疑いは強くなる。
莉央奈が言う。
「じゃあ、何かあるんですね」
「誰にでも昔はあるよ」
「そういう意味じゃなくて」
「今は」
新社長が静かに言う。
「君たち自身のことを大事にしてほしい」
五人が黙る。
「君たちは二代目シークレットガールズだ」
SHI☆。
MIKU♪。
YUNA◇。
MII♡。
LiZ☆。
「初代に興味を持つのはいい。でも」
新社長は壁に飾られた初代五人の写真を見る。
「初代と自分たちを比べすぎるな」
栞が尋ねる。
「どうして?」
「君たちは君たちだから」
「……」
「初代の真似をするために集めたわけじゃない」
新社長は五人を見る。
「二代目には、二代目のシークレットガールズを作ってほしい」
その言葉。
五人には少し響いた。
母親たちの秘密は気になる。
初代の正体も。
でも。
自分たちが今やるべきこと。
それは。
SHI☆。
MIKU♪。
YUNA◇。
MII♡。
LiZ☆。
として成長すること。
◇◇◇
その夜。
五人はオンライン通話を繋いでいた。
「見つけた?」
美空。
「今のところ特に」
栞。
「昔の記事って、本当に正体について何も書いてない」
結菜が言う。
「シークレットガールズだからね」
莉央奈。
「本名非公開」
美羽。
「学校も非公開」
美空。
「家族も」
栞。
「徹底してる」
二十五年前。
初代がどれだけ秘密を守っていたのか。
今の自分たちだからこそ分かる。
自分たちも同じ。
本名。
学校。
家族。
全てを隠している。
莉央奈が一つの記事を共有する。
「これ」
画面に古いインタビュー記事。
『シークレットガールズ、五人の絆』
結菜が読む。
「五人は学校生活と芸能活動を両立しながら――」
美空。
「今の私たちじゃん」
「そうだね」
さらに。
『メンバーは互いを家族のような存在と語る』
美羽が言う。
「お母さんたちも仲いいよね」
栞。
「二十五年以上」
また繋がる。
でも。
決定的ではない。
莉央奈が別の映像を再生する。
古いステージ裏の映像。
顔の一部が映る。
LIZ☆が笑う。
何気ない癖。
髪を耳へかける仕草。
莉央奈が止める。
「……これ」
四人が見る。
「何?」
「お母さんもやる」
「仕草?」
「うん」
再生。
LIZ☆が話しながら髪を耳へかける。
莉央奈も。
四人も。
少し黙る。
美羽が言う。
「それだけなら偶然かも」
「うん」
莉央奈も分かっている。
でも。
偶然が増えすぎている。
◇◇◇
同じ頃。
母親五人のグループ通話。
「今日どうだった?」
愛。
未紀。
「美空、完全に疑ってる」
麻子。
「結菜も」
まや。
「美羽も」
リオ。
「莉央奈は動画まで見比べてる」
全員。
「……」
愛が言う。
「新社長から連絡あった」
「何て?」
「今日五人から聞かれたって」
未紀。
「何て答えたの?」
「本人に聞くべきって」
麻子。
「否定しなかったの?」
「嘘を増やしたくないんでしょ」
まやが少し考える。
「私たちもそろそろ覚悟した方がいいね」
リオが言う。
「でも」
四人が見る。
「まだ話さない」
「うん」
「今は」
リオは静かに続ける。
「娘たちが二代目として、自分たちの力でやってる途中だから」
愛も頷く。
「それに」
「何?」
「自分たちで全部調べて、真実に辿り着くのも違うと思う」
麻子。
「最後は私たちが話したい」
「うん」
未紀。
「二十五年前のこと、ちゃんと」
まや。
「娘に」
五人の答えは同じ。
まだ。
明かさない。
ただ。
その日は近い。
◇◇◇
翌日。
学校。
昼休み。
二代目五人は中庭にいた。
美空が言う。
「結局、決定的なものなかったね」
結菜。
「当然だよ」
「どうして?」
「初代も秘密を守ってたんだから」
莉央奈が空を見る。
「私たちと同じように」
栞。
「正体が簡単に分かるもの残してたら、シークレットガールズじゃないよね」
美羽。
「そうだね」
少し沈黙。
「ねえ」
美空。
「もし本当にお母さんたちが初代だったら」
「うん」
「どうする?」
今度は誰も「まさか」と笑わなかった。
栞が言う。
「驚く」
美羽。
「多分泣く」
美空。
「私は叫ぶ」
結菜。
「それは想像できる」
莉央奈。
「私は……」
四人が見る。
「聞きたい」
「何を?」
「全部」
莉央奈は言う。
「どうやってシークレットガールズになったのか」
「どんなレッスンしたのか」
「学校でどんなふうに隠してたのか」
「バレそうになったことあるのか」
そして。
「どうして今まで教えてくれなかったのか」
五人は静かになる。
もし。
本当にそうなら。
母親たちも。
自分たちと同じ苦しさを知っている。
恋人に言えないこと。
幼馴染に言えないこと。
学校でファンの話を聞いても知らないふりをすること。
自分の歌を、自分じゃないふりをして聞くこと。
全部。
経験したのかもしれない。
◇◇◇
その時。
中庭の向こう。
康熙と美和が歩いている。
学校では。
「崇道先生」
「宍戸先生」
二人の本当の関係を。
五人だけは知っている。
以前。
誰一人として気づかなかった。
でも。
真実を知った今なら。
二人の小さな視線や。
さりげない気遣いに。
意味があると分かる。
莉央奈が言う。
「やっぱりさ」
「何?」
「知らないから見えないことってあるね」
結菜が二人を見る。
「康熙コーチたちみたいに?」
「うん」
「私たちも」
「うん」
「お母さんたちも?」
誰も答えない。
でも。
その可能性は。
どんどん大きくなっていた。
◇◇◇
放課後。
五人は事務所へ。
レッスン。
歌。
ダンス。
今日は全員よく集中していた。
「ストップ」
康熙が音楽を止める。
「今日はいい」
MIKU♪が驚く。
「褒めた!」
「大げさ」
「康熙コーチが褒めた!」
LiZ☆。
「珍しい!」
「次から褒めないぞ」
「ごめんなさい!」
五人が笑う。
新社長がレッスン室の後ろから見ている。
初代と似ている。
でも。
同じではない。
娘たちは娘たち。
確かに。
自分たちのシークレットガールズを作り始めている。
◇◇◇
レッスン終了。
五人が帰った後。
新社長と康熙。
「まだ話さないそうです」
新社長。
「母親たち?」
「ああ」
「それでいいと思います」
康熙が壁の初代写真を見る。
「かなり近づいてるけどな」
「分かっています」
「最終話まで持つか?」
新社長は少し笑う。
「本人たちが決めることです」
「そうだな」
「今は」
新社長はレッスン室を見る。
「二代目が二代目として立てるようになることが先です」
◇◇◇
その夜。
柴崎家。
莉央奈はリビングへ降りた。
リオがテレビを見ている。
「お母さん」
「なに?」
莉央奈は隣へ座った。
「一個だけ聞いていい?」
「いいよ」
「今すぐ答えなくてもいい」
リオが娘を見る。
「何?」
莉央奈は少し迷ってから言った。
「お母さん」
「うん」
「私に、まだ言えないことある?」
リオは何も答えられなかった。
数秒。
沈黙。
莉央奈は母の顔を見つめる。
リオは。
嘘をつくことをやめた。
「……ある」
莉央奈の目が大きくなる。
初めて。
母親が認めた。
「あるんだ」
「うん」
「何?」
「まだ言えない」
莉央奈は少し寂しそうにする。
でも。
「そっか」
それ以上、聞かなかった。
リオが驚く。
「聞かないの?」
「うん」
「どうして?」
莉央奈は少し笑う。
「私もあるから」
リオが娘を見る。
自分が二代目LiZ☆。
それを母親には知らないと思っている。
莉央奈にとっては。
自分も大きな秘密を抱えている。
「だから」
莉央奈が言う。
「お母さんが話せる時になったら教えて」
リオの胸が熱くなる。
「……うん」
「絶対ね」
「絶対」
母と娘。
互いに。
相手が何を隠しているのか。
まだ知らない。
莉央奈は母がLIZ☆だったことを知らない。
リオは――娘がLiZ☆だと知っている。
しかし。
そのことも娘には隠している。
二つの秘密。
二十五年前から続く秘密。
そして現在進行形の秘密。
それらは。
まだ交わらない。
◇◇◇
森川家。
美空も未紀へ。
「お母さん、秘密ある?」
未紀は迷った。
そして。
「ある」
美空が驚く。
「やっぱり!」
「でもまだ言わない」
「ずるい!」
「美空もあるでしょ?」
「……」
美空が固まる。
「何で?」
「母親ですから」
「怪しい!」
二人は笑った。
◇◇◇
山本家。
「お母さん」
「なに?」
「いつか話してくれる?」
麻子は結菜を見る。
「うん」
「約束?」
「約束」
◇◇◇
荒木家。
美羽とまや。
「秘密って悪いことじゃないんだよね」
美羽が言う。
まやは少し笑う。
「大切なものを守るためならね」
◇◇◇
高野家。
栞。
「お母さんが話したいって思った時でいいから」
愛は娘を見つめる。
「ありがとう」
◇◇◇
同じ夜。
五人の娘たち。
五人の母親たち。
答えは。
まだ明かされなかった。
EYE。
MORM。
YAH。
BEE。
LIZ☆。
その正体。
そして。
二十五年前の五人の青春。
まだ。
母親たちの胸の中。
一方。
娘たちも。
SHI☆。
MIKU♪。
YUNA◇。
MII♡。
LiZ☆。
その正体を学校や大切な人たちから守っている。
母と娘。
二つの世代。
二つの秘密。
どちらも。
今はまだ。
明かす時ではない。
けれど。
秘密があることそのものは――。
母と娘の間で、初めて認められた。
「いつか話す」
「話せる時になったら」
それぞれが交わした約束。
二十五年間閉じられてきた扉は。
まだ開かない。
しかし。
その鍵に――。
娘たちは確かに手をかけ始めていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第10話では、初代シークレットガールズの正体にかなり近づきながらも、あえて真実そのものはまだ明かされませんでした。
栞は、母・愛とEYE。
美空は、母・未紀とMORM。
結菜は、母・麻子とYAH。
美羽は、母・まやとBEE。
そして莉央奈は、母・リオとLIZ☆。
それぞれの共通点を次々と発見していきます。
特に莉央奈は、LIZ☆の顔だけではなく、笑い方や髪を耳へかける仕草にまで母・リオとの共通点を見つけ始めました。
一方、美空はMORMのターンと未紀の動き。
結菜は「YAH」という名前を出した時の麻子の反応。
美羽はBEEとまやの顔立ち。
栞も、愛がステージについて詳しすぎることへの疑問を強めています。
もう五人とも、
「まさかね」
と笑って終わることはできなくなりました。
それでも決定的な証拠が見つからないのは、二十五年前の初代シークレットガールズが、それだけ徹底して正体を守っていたからでもあります。
本名。
学校。
家族。
日常生活。
すべてを秘密にしていた初代五人。
その事実を知れば知るほど、今の二代目五人には、初代が自分たちと同じ道を歩いていたことが分かってきます。
そして今回、大きく変わったのは母と娘の会話でした。
莉央奈がリオへ尋ねた、
「私に、まだ言えないことある?」
という言葉。
リオは初めて、
「ある」
と答えました。
正体は明かさない。
何を隠しているのかも言わない。
けれど、「秘密なんてない」と嘘をつくことはやめました。
そして莉央奈も、
「私もあるから」
と答えます。
莉央奈にとっての秘密は、自分が二代目LiZ☆であること。
ただしリオは、その事実をすでに知っています。
母は娘の秘密を知っている。
娘は母の秘密をまだ知らない。
同じ家で暮らす二人なのに、それぞれ違う立場で「シークレット」を抱えている――。
Season 3ならではの母娘関係が、よりはっきりした回になりました。
他の四組の母娘も同じです。
「いつか話す」
「話せる時になったら教えて」
答えを無理に聞き出すのではなく、相手が話せる日を待つ。
五人の娘たち自身も秘密を持っているからこそ、母親たちの「まだ言えない」という気持ちを少しだけ理解できるようになりました。
ただし――真実が明かされる日は確実に近づいています。
次回、第11話・最終話。
「母から娘へ――受け継がれる五人の秘密」
ついに二十五年間守られてきた最大のシークレットが明かされます。
高野愛――EYE。
森川未紀――MORM。
山本麻子――YAH。
荒木まや――BEE。
柴崎リオ――LIZ☆。
自分たちの母親こそが、伝説の初代シークレットガールズだった――。
そして母親たちから語られる、二十五年前の真実。
なぜシークレットガールズになったのか。
どんな学校生活を送っていたのか。
どうやって秘密を守ったのか。
佐藤先生や小林前社長との日々。
そして、なぜ二十五年間娘たちへ正体を話さなかったのか。
さらに娘たちも、自分たちの秘密を母親へ伝えようとします。
しかしそこで初めて知ることになります。
「え……お母さんたち、最初から知ってたの!?」
初代五人と二代目五人。
母と娘。
そして小林前社長から新社長へ。
佐藤先生から崇道康熙へ。
二十五年を隔てて存在していた二つのシークレットガールズが、ついに一つに繋がります。
Season 3、最後の物語。
第11話・最終話へ続きます。




