閑話「宍戸先生と崇道先生――二人だけの秘密❸」
学校では歴史教師と英語教師。
二人きりになれば――婚約者。
崇道康熙と宍戸美和には、二代目シークレットガールズの五人と同じように、学校では決して明かしていない秘密があります。
そして今回は、第8話で莉央奈を救うために康熙がとっさに口にした、
「芸能界について学ぶ総合学習で使うサンプルカード」
という説明が、思わぬ展開へ。
本来はLiZ☆の正体を守るためだけの説明だったはずなのに、校長から、
「それなら本当に授業として実施してみては?」
と言われ――まさかの総合学習が本当に開催されることになります。
しかも協力するのは、音楽教師・五十嵐真緒と、康熙の婚約者である英語教師・宍戸美和。
学校では「崇道先生」「宍戸先生」。
二人きりなら「康熙」「美和」。
そして芸能事務所では、二代目シークレットガールズを一緒に支える二人。
そんな二人だからこそ分かる、秘密を持ちながら日常を過ごす難しさ。
今回は二代目の五人とは少し違う視点から描く、康熙と美和の「シークレット」の物語です。
二代目シークレットガールズの正体が学校で発覚しかけた、あの一件から数日。
LiZ☆こと柴崎莉央奈が学校へ持ち込んでしまったメンバーパス。
それを拾った相沢陽向。
さらに、その場にいた藤宮琴音や音楽教師・五十嵐真緒。
あと少し対応が遅れていれば、LiZ☆=柴崎莉央奈という秘密だけではなく、SHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡の正体まで疑われていたかもしれない。
その危機を救ったのは――。
歴史教師・崇道康熙。
そして康熙が苦し紛れに口にした、
「総合学習で芸能界について取り上げるためのサンプルカード」
という説明だった。
だが。
一つの秘密を守るためについた説明は――。
思わぬ形で、康熙自身へ返ってくることになる。
◇◇◇
朝。
職員室。
「崇道先生」
校長から呼ばれ、康熙は顔を上げた。
「はい」
「少しいいですか?」
「分かりました」
康熙は立ち上がる。
その様子を、少し離れた席にいる英語教師・宍戸美和が見ていた。
校長室。
中には校長、教頭。
そして――。
五十嵐真緒。
「失礼します」
「どうぞ」
康熙が入る。
校長が書類を机に置いた。
「崇道先生」
「はい」
「先日お話に出た、総合学習の件ですが」
康熙の表情が一瞬止まった。
――やっぱり来たか。
教頭が続ける。
「芸能界について生徒たちが学ぶ機会を作る、というお話です」
「はい」
五十嵐先生が嬉しそうに言った。
「面白そうですよね」
康熙は内心頭を抱えた。
本来、そんな企画は存在しなかった。
莉央奈を守るため、その場で作った話。
しかし――。
校長と教頭には後から事情を説明した。
もちろん二人は、二代目シークレットガールズの正体を知っている。
だからカードについては問題なかった。
だが。
五十嵐先生を含む一般の教師たちは違う。
校長が少し意味ありげに康熙を見る。
「せっかくですから、本当に実施してみてはどうでしょう?」
「……本当にですか?」
「ええ」
教頭も頷く。
「生徒たちも最近、芸能活動や動画配信、アイドルなどに興味を持っています」
五十嵐先生も言う。
「音楽の授業にも繋げられますし」
康熙は黙る。
逃げられない。
「分かりました」
「では企画案をお願いします」
「はい」
校長が続ける。
「それから、宍戸先生にも協力していただきましょう」
康熙の目がわずかに動く。
「宍戸先生も?」
「海外の芸能活動や英語という観点から話していただけるでしょう」
五十嵐先生も頷く。
「いいですね!」
康熙は小さく息を吐く。
「分かりました」
こうして――。
莉央奈の秘密を守るためについた一言から。
本当に「芸能界をテーマにした総合学習」が実施されることになった。
◇◇◇
職員室へ戻った康熙。
椅子に座る。
美和が横を通った。
「どうだったんですか、崇道先生」
周囲には教師がいる。
康熙も教師の顔へ戻る。
「先日の総合学習についてです」
「総合学習?」
「芸能界をテーマにしたものです」
美和の表情が一瞬止まる。
事情を知っているからだ。
「……ああ」
「宍戸先生にも協力していただきたいそうです」
「私も?」
「海外活動や英語について」
美和は笑顔を保つ。
「分かりました」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
それだけ。
だが昼休み。
誰もいない資料室。
扉が閉まった瞬間。
美和が康熙を見る。
「本当にやるの?」
「ああ」
「ふふっ」
「笑うな」
「だって」
美和は口元を押さえる。
「莉央奈ちゃんを助けるための、とっさの嘘だったんでしょ?」
「嘘というか……」
「完全に嘘でしょう?」
「……そうだな」
美和が笑う。
「それが本当の授業になるなんて」
「俺も想像してなかった」
「康熙らしい」
「どこが?」
「真面目だから」
「関係ないだろ」
「でも最後までちゃんとやるんでしょ?」
「当然」
美和は優しく笑った。
「じゃあ私も手伝う」
「ありがとう」
「婚約者ですから」
康熙は周囲を見る。
「学校では言うな」
「今誰もいないよ」
「そうだけど」
「康熙」
美和が少し近づく。
「なに?」
「最近ちょっと疲れてない?」
「普通だ」
「嘘」
「……」
「学校の授業、二代目のレッスン、総合学習の準備」
美和が指を折る。
「それに私との結婚準備」
康熙が苦笑する。
「最後が一番大変みたいに言うな」
「違うの?」
「違う」
「本当に?」
「本当」
美和は少し笑った。
「ならいいけど」
そして康熙の顔を見る。
「無理しないでね」
「分かってる」
「康熙って、五人のことになると無理するから」
「コーチだからな」
「教師としてもでしょ?」
「そうだな」
美和は静かに言った。
「だったら私が康熙を支える」
康熙は一瞬黙る。
そして小さく笑った。
「頼む」
◇◇◇
午後。
英語。
「それでは、今日は教科書の三十五ページから」
美和が教壇に立つ。
生徒たちは教科書を開く。
莉央奈、美空、結菜、美羽、栞。
二代目シークレットガールズの五人も、いつも通り座っている。
だが――。
五人は知っている。
目の前の宍戸美和が。
歴史教師・崇道康熙の婚約者だということを。
「森川さん」
「はい!」
美空が立つ。
「ここを読んでください」
「はい」
英文を読む。
発音。
以前より、明らかに上達している。
アイドル活動で、英語曲や発音指導を受け始めているためだ。
美和は一瞬だけ気づいた。
しかし。
教師として。
「以前より発音が良くなりましたね」
それだけ。
「ありがとうございます!」
美空が座る。
早川翔太が言う。
「最近森川、歌も英語も上手くなってない?」
「気のせい!」
「またその反応」
教室に笑い。
美和も微笑む。
しかし心の中では――。
――もう少し自然に隠さないと。
そう思っていた。
そして。
休み時間。
美和が教室を出ようとした時。
「宍戸先生!」
莉央奈が呼び止める。
「何ですか?」
周囲には生徒がいる。
「今日の放課後って……」
言いかける。
すぐ気づく。
学校では話せない。
「英語の質問してもいいですか?」
とっさに変えた。
「もちろん」
美和が笑う。
「授業が終わった後なら」
「ありがとうございます」
「何か?」
琴音が莉央奈を見る。
「最近、宍戸先生ともよく話すよね」
「英語分かんないから!」
「そう?」
「そう!」
美和は何も言わず教室を出る。
その表情に笑みが浮かびそうになるのを、必死に抑えていた。
◇◇◇
放課後。
芸能事務所。
五人はレッスン室へ集まった。
「康熙コーチ」
LiZ☆が言う。
「何だ?」
「総合学習、本当にやるの?」
康熙の動きが止まる。
「どこで聞いた?」
「先生たちが話してた」
MIKU♪が笑う。
「まさか、あの時の言い訳が本当になるなんて」
「笑うな」
YUNA◇も苦笑する。
「でも先生、どうするんですか?」
「普通に授業をする」
「芸能界について?」
「ああ」
MII♡が言う。
「私たち、めちゃくちゃ詳しいけど知らないふり?」
「当然」
「難しい……」
SHI☆も。
「質問されたら?」
「普通の中学生として答えろ」
MIKU♪が手を挙げる。
「『アイドルの仕事って大変ですか?』って聞かれたら?」
「知らないって言え」
「毎日やってるのに?」
「言え」
「厳しい!」
LiZ☆が笑う。
「康熙コーチも大変じゃん」
「何が?」
「本当は私たちのコーチなのに、芸能界を知らない歴史教師みたいに話すんでしょ?」
「……そうだな」
五人が笑う。
「先生もシークレット生活だ」
「お前たちほどじゃない」
「美和先生も参加するんでしょ?」
「そうだ」
MIKU♪の目が輝く。
「夫婦共同授業!」
「まだ夫婦じゃない」
「婚約者共同授業!」
「学校では言うなよ」
「分かってる!」
◇◇◇
そこへ。
「失礼します」
美和が入ってきた。
「美和さん!」
MIKU♪が手を振る。
「お疲れさま」
ここでは周囲に一般生徒はいない。
美和も少し柔らかい表情。
康熙が言う。
「ちょうど総合学習の話をしてた」
「私も教材作ってきたよ」
「もう?」
「康熙より仕事早いでしょ?」
「……」
五人が一斉に笑う。
「康熙コーチ負けてる!」
「うるさい」
美和は資料を広げる。
「海外で活動するアーティストには、英語でのインタビューとか海外スタッフとのコミュニケーションも必要だから」
SHI☆が真剣に聞く。
「私たちにも必要ですか?」
「もちろん」
「海外活動するんですか?」
「いつかはあるかもしれないでしょ?」
五人が少し目を輝かせる。
「海外……」
「シークレットガールズが?」
LiZ☆が呟く。
康熙が言う。
「夢を見るのはいいが、まず日本でちゃんと活動しろ」
「現実的!」
「当然だ」
美和が笑った。
「康熙はこういう人だから」
「知ってます」
五人が揃って答える。
康熙が呆れる。
「何で意気投合してるんだ」
◇◇◇
レッスン後。
五人が帰宅。
芸能事務所の小さな会議室。
康熙と美和だけが残っていた。
机の上。
総合学習の資料。
芸能界の仕事内容。
アーティスト。
マネージャー。
音響。
照明。
スタイリスト。
振付師。
海外活動。
SNS。
秘密保持。
「秘密保持?」
美和が資料を見る。
「入れるの?」
「ああ」
「シークレットガールズを意識して?」
「直接は言わない」
康熙は説明する。
「芸能人の情報管理や、公開してはいけない情報について」
「なるほど」
「生徒たちにもネットリテラシーを教えられる」
美和は康熙を見る。
「結果的に、いい授業になりそう」
「そうだな」
「最初は嘘だったけど」
「それは言うな」
「ふふっ」
美和が笑う。
しばらく二人で資料作成。
静かな時間。
やがて。
美和が手を止める。
「康熙」
「ん?」
「私たちの秘密も、いつまで隠す?」
康熙も手を止めた。
婚約。
学校では秘密。
今は校長、教頭、新社長、そして二代目五人など、ごく限られた人物しか知らない。
「結婚する時には言うしかないだろ」
「そうだね」
「職員にも、生徒にも」
「みんな驚くかな」
「間違いなく」
美和が想像して笑う。
「清水先生とか絶対驚く」
「藤堂先生も」
「生徒たちは?」
「MIKU♪とLiZ☆が一番うるさい」
「もう知ってるじゃない」
「学校で正式発表した時、知らないふりして驚くんだろ」
美和が吹き出す。
「確かに!」
「『ええー! そうだったんですかー!』とか」
「演技できるかな」
「アイドルなんだからできるだろ」
「でもあの二人は無理そう」
「俺もそう思う」
二人が笑う。
◇◇◇
帰宅途中。
学校から離れた夜道。
康熙と美和は並んで歩いていた。
ここではもう、同僚教師として距離を取る必要はない。
美和が康熙の腕へそっと触れる。
「疲れた?」
「少し」
「正直でよろしい」
「お前は?」
「私も」
「授業多かったしな」
「うん」
少し歩く。
「ねえ」
「何?」
「結婚したらどうする?」
「何を?」
「学校で」
「どうするって?」
「同じ名字になる可能性あるじゃん」
康熙が少し考える。
「そうだな」
「宍戸先生じゃなくなるかもしれない」
「別姓を選ぶ可能性もあるけどな」
「そうだけど」
美和が微笑む。
「もし私が崇道美和になったら」
康熙が美和を見る。
「学校でややこしいな」
「そこ?」
「崇道先生って呼んだら二人振り向く」
「確かに」
二人が笑う。
美和が続ける。
「でも私はちょっと嬉しい」
「何が?」
「同じ名字」
康熙は一瞬黙る。
「……そうだな」
「照れた?」
「照れてない」
「絶対照れた」
「照れてない」
美和は楽しそうに笑う。
そして――。
「康熙」
「何?」
「ありがとう」
「急に何だ」
「色々」
美和は歩きながら話す。
「先生としても頑張って」
「うん」
「コーチとしても五人を守って」
「うん」
「私とのことも大切にしてくれてる」
康熙は前を向いたまま答える。
「当たり前だろ」
美和は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
◇◇◇
数日後。
総合学習の日。
体育館。
全学年ではないが、複数クラスの生徒が集められていた。
壇上。
康熙。
美和。
五十嵐真緒。
校長。
生徒席には――。
二代目シークレットガールズの五人。
もちろん普通の中学生として。
「今日は芸能界の仕事について考えます」
康熙が話し始める。
早川翔太が小声で言う。
「崇道先生、芸能界詳しいのかな」
莉央奈は心の中で。
――私たちのコーチだからね。
当然言えない。
康熙が説明する。
マネージャー。
スタッフ。
ステージ。
リハーサル。
衣装。
そして――。
「芸能活動には、公開してよい情報と、公開してはいけない情報があります」
五人の表情が変わる。
「本人やスタッフだけが知っている情報」
康熙は続ける。
「そして、その秘密を守ることも仕事の一つです」
莉央奈はあの日を思い出す。
メンバーパス。
陽向に拾われた日。
「一人の不注意が、たくさんの人へ影響することもあります」
康熙の言葉。
五人には違う意味で響いていた。
陽向も、何気なく莉央奈を見る。
莉央奈は前を向いたまま。
その後。
美和が壇上へ。
「では私は、海外活動と英語についてお話しします」
発音。
海外インタビュー。
外国人スタッフ。
通訳。
コミュニケーション。
生徒たちは真剣に聞いている。
美空が小声で言う。
「美和先生、かっこいい」
結菜。
「声」
「あ、ごめん」
そして。
質疑応答。
一人の女子生徒が手を挙げた。
「アイドルって恋愛は禁止なんですか?」
体育館がざわつく。
五人が固まる。
康熙も美和も一瞬止まった。
五十嵐先生が苦笑。
康熙が答える。
「事務所や契約によって違う」
「じゃあ先生は恋愛してますか?」
体育館に笑いが起きた。
「質問が変わってるぞ」
康熙が苦笑する。
二代目五人。
特にMIKU♪とLiZ☆は――。
笑いを必死に堪えていた。
「先生、彼女いないんですか?」
男子生徒まで。
康熙。
「授業と関係ない」
さらに笑い。
今度は。
「宍戸先生は?」
美和にも。
「私も授業とは関係ありません」
笑顔でかわす。
だが。
五人は知っている。
二人が婚約者同士だということを。
莉央奈が下を向く。
肩が震える。
琴音が気づく。
「莉央奈、何笑ってるの?」
「なんでもない!」
「絶対何か知ってる?」
「知らない!」
また秘密。
今度は先生たちの。
◇◇◇
総合学習終了後。
廊下。
二代目五人。
康熙が通る。
「先生!」
美空が言いかける。
康熙が視線を送る。
学校。
「……今日の授業、分かりやすかったです」
すぐ言い直す。
「そうか」
「はい」
莉央奈も。
「秘密を守る話、勉強になりました」
康熙は少しだけ目を細める。
「なら、忘れるなよ」
「はい」
一般の生徒には普通の会話。
しかし五人には分かる。
これはシークレットガールズとしての話でもある。
その時。
美和がやってくる。
「崇道先生」
「宍戸先生」
五人は二人を見る。
学校ではただの同僚。
でも。
もう騙されない。
二人の間には、確かな絆がある。
美空が小声で莉央奈へ。
「すごいよね」
「何が?」
「こんなに普通にできるの」
「私たちもでしょ」
「あ」
その通りだった。
自分たちも。
教室では普通の中学生。
ステージでは二代目シークレットガールズ。
五人も康熙と美和も――。
大切な秘密を守りながら、日常を生きている。
◇◇◇
夕方。
職員室。
総合学習を終えた康熙が資料を片付けている。
「崇道先生」
五十嵐先生。
「はい」
「今日、良かったですね」
「ありがとうございます」
「最初聞いた時は急な企画だなって思ったんですけど」
康熙の心臓が少し跳ねる。
「結果的には良かったと思います」
「そうですね」
五十嵐先生は笑う。
「またやりましょう」
「……はい」
康熙は答えた。
五十嵐先生が去る。
少し離れたところから美和が見ている。
目が合う。
二人とも少し笑った。
――本当に続くのか。
そんな気持ちが伝わる。
◇◇◇
夜。
二人きり。
「お疲れさま」
「お疲れ」
美和が温かい飲み物を差し出す。
康熙が受け取る。
「ありがとう」
二人は並んで座る。
「今日の質問すごかったね」
「恋愛の?」
「うん」
「答えづらすぎる」
「私も」
美和が笑う。
「『婚約者がここにいます』って言いたかった?」
「全然」
「本当?」
「言ったら体育館ひっくり返る」
「それはそう」
二人は笑う。
そして少し静かになる。
美和が康熙を見る。
「でも」
「何?」
「いつかは普通に言えるんだよね」
「そうだな」
「私たち、婚約してますって」
「ああ」
「五人も」
「何?」
「いつか普通に言えるといいね」
美和はテレビに映るシークレットガールズを見る。
「私がMIKU♪です」
「私がLiZ☆です」
「って」
康熙も画面を見る。
「その時は来る」
「うん」
「でも今じゃない」
「分かってる」
「今は、秘密を守りながら成長する時だ」
美和は小さく頷いた。
そして。
「私たちも?」
康熙が美和を見る。
「私たちも今は秘密」
「そうだな」
「じゃあ一緒だね」
「何が?」
「二代目シークレットガールズと」
康熙は少し笑う。
「まあな」
美和も笑った。
学校では歴史教師と英語教師。
二人きりでは婚約者。
康熙はさらに、二代目シークレットガールズのコーチ。
いくつもの顔。
いくつもの秘密。
だが――。
それらは決して嘘ではない。
すべてが本当の自分。
そして互いにその全部を知っている相手がいる。
「美和」
「なに?」
「これからもよろしく」
「もちろん」
「学校も」
「うん」
「五人のことも」
「うん」
「それから……」
「私たちのことも?」
康熙は頷く。
「ああ」
美和は嬉しそうに笑った。
二代目シークレットガールズの五人だけではない。
彼女たちを支える二人にも――。
今しか持てない、特別な「シークレット」がある。
いつか秘密ではなくなるその日まで。
歴史教師・崇道康熙。
英語教師・宍戸美和。
二人はこれからも。
学校では普通の同僚として。
二人きりでは大切な婚約者として。
そして二代目シークレットガールズを支える仲間として――。
誰にも知られない、小さな秘密を大切に守っていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
閑話「宍戸先生と崇道先生――二人だけの秘密❸」では、第8話のメンバーパス事件から生まれた思わぬ出来事を描きました。
莉央奈の正体を守るため、
「総合学習で使用するサンプルカード」
と説明した康熙。
その場を切り抜けるための言葉だったにもかかわらず――本当に芸能界をテーマにした総合学習を行うことになってしまいました。
しかし結果的には、芸能界で働く人々の仕事だけではなく、SNSや情報管理、そして「秘密を守ること」の大切さまで生徒たちへ伝える授業になりました。
特に、
「一人の不注意が、たくさんの人へ影響することもあります」
という康熙の言葉。
一般の生徒たちにとっては情報管理についての話。
けれどSHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆の五人にとっては、まったく違う意味を持っています。
第8話で経験したばかりだからこそ、莉央奈には誰よりも強く響いた言葉だったことでしょう。
そして今回もう一つ描いたのが、康熙と美和自身の未来です。
今は学校で、
「崇道先生」
「宍戸先生」
と呼び合っている二人。
けれど二人きりなら、
「康熙」
「美和」。
いつか結婚すれば、今の婚約関係を学校の教師や生徒たちへ正式に明かす日もやってきます。
その時、何も知らなかった教師や生徒たちは驚くでしょう。
一方ですでに真実を知っている二代目シークレットガールズの五人は――知らなかったふりをして驚かなければなりません。
MIKU♪やLiZ☆が上手に演技できるのかは、少し心配ですが……。
そして美和が語ったように、いつか二代目の五人にも同じ日が訪れるはずです。
高野栞がSHI☆。
森川美空がMIKU♪。
山本結菜がYUNA◇。
荒木美羽がMII♡。
柴崎莉央奈がLiZ☆。
今は絶対に明かせない五人の正体も、いつの日か堂々と話せる日が来るかもしれません。
ただ――今はまだ、その時ではありません。
そして次回は本編、第9話。
「母たちの再会――二十五年前のシークレット」
物語は再び、初代シークレットガールズへ。
高野愛――元EYE。
森川未紀――元MORM。
山本麻子――元YAH。
荒木まや――元BEE。
柴崎リオ――元LIZ☆。
二十五年前、誰にも正体を知られないように青春を駆け抜けた五人が、母親となった現在、再び集まります。
話題になるのはもちろん――二代目シークレットガールズとなった自分たちの娘たち。
「私たちも、あんな感じだったよね」
二十五年前の失敗。
レッスン。
学校で正体が発覚しかけた出来事。
佐藤先生との思い出。
小林前社長に何度も助けられた日々。
母親となった五人が、かつてのシークレットガールズとして過ごした青春を振り返ります。
しかし――。
その再会をきっかけに、娘たちは新たな事実へ辿り着くことになります。
「どうしてお母さんたち五人が、小林前社長と昔から知り合いなの?」
第7話から続いている母親たちへの疑問。
そして第8話でさらに強くなった「秘密」という存在。
二十五年前の初代と、現在の二代目。
母と娘。
二つのシークレットガールズを繋ぐ最大の秘密へ――五人の娘たちが、また一歩近づきます。
第9話へ続きます。




