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『シークレットガールズ 新世代へ――母から娘へ、受け継がれる五人の秘密』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
『シークレットガールズ Season 3――母から娘へ、受け継がれる五人の秘密』
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14/19

第7話「どうしてお母さんは知ってるの?――娘たちの疑問」


二代目シークレットガールズとして活動を続ける五人。


SHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆。


歌やダンス、ステージでの立ち振る舞いまで、少しずつアイドルとして成長してきました。


しかし――その成長とともに、五人には新たな疑問が生まれ始めます。


「どうしてお母さんは、そんなことまで知ってるの?」


ステージで緊張した時の視線の置き方。


五人でダンスを揃える方法。


ターンのコツ。


振り付けの細かなズレ。


まるで本当にアイドルとして活動した経験があるかのように、娘たちへ的確なアドバイスをする母親たち。


さらに莉央奈は、二十五年前のLIZ☆を見て、


「お母さんに似てる……」


と感じ始めます。


そして美羽はBEEに。


栞はEYEに。


美空はMORMに。


結菜はYAHに。


なぜかそれぞれ、自分の母親だった初代メンバーへ少しずつ惹かれていくことに――。


娘たちはまだ知りません。


その答えが、ずっと自分たちのすぐそばにいることを。


二十五年間守られてきた最大のシークレット。


母親たちの過去へ、娘たちが初めて本格的に近づいていく第7話です。



二代目シークレットガールズとして活動を続ける五人。


SHI☆。


MIKU♪。


YUNA◇。


MII♡。


LiZ☆。


デビューしてからの日々は、想像していた以上に忙しかった。


学校。


勉強。


友達。


恋人。


そして放課後のレッスンと芸能活動。


少しずつアイドルとして成長している一方で、五人には以前から気になっていることがあった。


それは――。


自分たちの母親たち。


歌について相談すれば、的確な答えが返ってくる。


ダンスについて相談しても同じ。


ステージで緊張した時のこと。


五人で息を合わせる方法。


秘密を抱えながら学校生活を送る難しさ。


なぜか母親たちは、まるで自分自身が経験したことがあるかのように答えてくれる。


これまでは偶然だと思っていた。


だが――。


五人の中に生まれた小さな疑問は、少しずつ大きくなり始めていた。


「どうしてお母さん、そんなこと知ってるの?」


二十五年間守られてきた秘密へ。


娘たちは、ゆっくりと近づき始めていた。


◇◇◇


朝。


高野家。


「お母さん」


「なに?」


高野栞は朝食を食べながら、母・愛を見た。


「ステージでさ」


愛の手が一瞬止まる。


「ステージ?」


「あ……」


栞は慌てて言い直す。


「例えばの話なんだけど」


愛は娘を見つめる。


「うん」


「大勢の人の前で歌う時って、どこ見れば緊張しないと思う?」


愛は少し考えた。


「最初から客席全体を見ようとしなくていいんじゃない?」


「え?」


「まず一人見つけるの」


「一人?」


「うん。笑ってくれてる人とか、楽しそうにしてくれてる人」


栞は黙って聞く。


「その人に向かって歌ってるつもりになれば、少し落ち着くと思う」


「……へえ」


愛は続ける。


「慣れてきたら、その周り。その次はもっと遠く。そうやって少しずつ視線を広げればいい」


「……」


栞の箸が止まった。


愛が気づく。


「どうしたの?」


「お母さん」


「なに?」


「なんでそんなに具体的なの?」


愛の顔が固まった。


「え?」


「普通、『緊張しないように頑張れ』とかじゃない?」


「そ、そう?」


「今の説明、実際にステージ立った人みたいだった」


「そんなことないよ」


愛は笑う。


「テレビでアイドル見てたら分かるでしょ」


「テレビだけで?」


「……たぶん」


栞はじっと母を見る。


愛は目を逸らさず笑顔を保つ。


やがて栞が立ち上がる。


「ごちそうさま」


「学校遅れないようにね」


「うん」


玄関へ向かう娘。


扉が閉まった瞬間――。


愛は大きく息を吐いた。


「……危なかった」


そしてテーブルへ視線を落とす。


二十五年前。


EYEとして初めて大きなステージに立った時。


自分も佐藤先生から、似たようなことを教わった。


それをそのまま話してしまった。


「栞……鋭くなってきたな」


◇◇◇


森川家。


「お母さーん!」


美空の声。


「なにー?」


「ちょっと来て!」


未紀が美空の部屋へ入る。


美空は鏡の前で、同じ動きを何度も繰り返していた。


「何してるの?」


「体育の……ダンス」


「体育?」


「うん!」


かなり苦しい言い訳だった。


「で、ここ!」


美空がターンする。


そして止まる。


「どうしても最後に身体が流れるの」


未紀は娘を見る。


一度。


もう一度。


「軸」


「え?」


「顔から回ろうとしてる」


「顔?」


「身体の中心を意識して。回る前にお腹に力入れて、最後に足を置く位置を最初に決めておく」


美空が目を丸くする。


「……お母さん」


「なに?」


「踊ってみて」


「え?」


「今の説明だけじゃ分かんない」


「いや、お母さんもうそんな――」


「一回だけ!」


「美空」


「お願い!」


未紀は困った顔をした。


そして。


「……一回だけね」


美空が場所を空ける。


未紀が位置につく。


軽く身体を動かし――。


ターン。


ピタッ。


ほとんどブレずに止まった。


美空が固まる。


未紀も固まる。


「…………」


「…………」


数秒。


「お母さん」


「なに?」


「上手すぎない?」


「昔ちょっとやってたの!」


「何を?」


「ダンス!」


「いつ!?」


「若い時!」


「初耳なんだけど!」


未紀は慌てる。


「趣味! 趣味だから!」


美空が疑わしそうに見る。


「本当に?」


「本当!」


「じゃあもう一回」


「やらない!」


「なんで!」


「学校遅れるよ!」


「あっ!」


美空は時計を見る。


「やばっ!」


慌てて鞄を持つ。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい!」


玄関の扉が閉まる。


未紀はその場に立ったまま額を押さえた。


「……やっちゃった」


二十五年前。


MORMとして何百回、何千回と練習したターン。


身体が覚えている。


二十五年経っても――。


完全には忘れていなかった。


◇◇◇


山本家。


結菜は朝食を食べながら、昨日のレッスンを思い返していた。


五人の立ち位置。


歌い出し。


次の振り付け。


どうしても一か所、全員のタイミングが合わない。


「お母さん」


「ん?」


麻子が振り返る。


「五人で同じ動きを揃える時って」


また五人。


麻子は内心警戒する。


「うん」


「一人だけ微妙にズレる場合、どうしたらいいと思う?」


「その一人に合わせるんじゃなくて、全員で基準を決めればいいんじゃない?」


答えが早かった。


結菜が顔を上げる。


麻子は気づく。


「……例えばね」


「まだ何も言ってないけど」


「そう?」


「うん」


結菜は母を見る。


「全員で基準を決めるって?」


麻子は慎重に言葉を選ぶ。


「音でもいいし、誰か一人の呼吸でもいいし」


「呼吸?」


「例えば、リーダー役の子が息を吸った瞬間を合図にするとか」


結菜の目が大きくなる。


「……それ、康熙コーチも同じこと言ってた」


麻子が固まった。


「康熙?」


「……あ」


今度は結菜が固まる。


二人の間に沈黙。


「康熙って誰?」


麻子は当然知っている。


だが知らないふり。


結菜が慌てる。


「クラスの……」


「康熙って名前のクラスメイトいるの?」


「先生!」


「先生?」


「崇道先生!」


「どうして先生をコーチって……」


「体育の話!」


「歴史の先生なのに?」


「……」


結菜は完全に詰まった。


麻子も娘を追い詰めたことに気づく。


「あ、ごめん。別にいいのよ」


「う、うん」


気まずい沈黙。


しばらくして結菜が尋ねた。


「でもお母さん」


「なに?」


「本当に経験ない?」


麻子の心臓が跳ねる。


「何の?」


「五人で何かやる経験」


「あるよ」


「あるの?」


「学校行事とか」


「……学校行事」


「そう」


「ふーん」


結菜は納得したような、していないような顔で朝食を続けた。


麻子は心の中で呟く。


――危なすぎる。


娘のYUNA◇としての活動が本格化するほど。


自分のYAHとしての経験が、つい口から出てしまう。


◇◇◇


荒木家。


「お母さん、これ見て」


美羽がスマートフォンを差し出した。


画面には二代目シークレットガールズのステージ映像。


もちろん美羽本人もMII♡として映っている。


だが母・まやの前では、ただのファンのふりをする。


「シークレットガールズ?」


「うん」


「最近人気なんでしょ?」


「そうみたい」


まやは当然、全部知っている。


それどころかデビューステージも客席で見ていた。


美羽が映像を止める。


「このMII♡って子」


まやの心臓が跳ねる。


「うん」


「ここの動き、変じゃない?」


娘自身だった。


まやは画面を見る。


「少し遅れてるね」


「やっぱり?」


「うん。前の動きから次へ移る時に、一瞬考えてる」


美羽が母を見る。


「……分かるの?」


「見れば」


「普通そんな細かいところ見る?」


「……見る人は見るよ」


「お母さんってアイドルのダンス詳しかったっけ?」


「昔好きだったから」


美羽が画面をスクロールする。


すると――。


初代シークレットガールズの古い映像が関連動画に出てきた。


「これ初代」


まやの表情が一瞬変わった。


EYE。


MORM。


YAH。


BEE。


LIZ☆。


美羽が言う。


「最近こっちも見てるんだ」


「へ、へえ」


「二十五年前なんだって」


「そうなんだ」


知っている。


本人だから。


美羽が画面を指差す。


「私、BEEが好き」


「えっ!?」


まやの声が裏返った。


美羽が驚く。


「何?」


「何でもない!」


「そんな驚く?」


「ちょっと意外で」


「なんで?」


「いや……」


美羽は画面のBEEを見る。


「なんか、この人好きなんだよね」


まやは何も言えなかった。


画面に映っているのは、二十五年前の自分。


娘がそれを見て「好き」と言っている。


嬉しい。


でも。


正体は言えない。


美羽がふと呟く。


「……誰かに似てる気もする」


まやの表情が固まる。


「誰に?」


「分かんない」


「そ、そう」


「でもなんか見たことある顔」


まやはスマートフォンから目を逸らした。


◇◇◇


そして。


柴崎家。


莉央奈は自室でスマートフォンを見ていた。


初代シークレットガールズ。


その中でも――LIZ☆。


最近、何度も見ている。


LiZ☆というステージネームを与えられてから、余計に気になるようになった。


「……やっぱり似てる」


何に。


誰に。


それが分からない。


その時。


「莉央奈ー!」


下からリオの声。


「朝ご飯冷めるよ!」


「今行く!」


莉央奈はスマートフォンを持ったまま階段を下りた。


「おはよう」


「おはよう」


リオが朝食を出す。


莉央奈はスマートフォンをテーブルへ置いた。


画面にはLIZ☆。


リオの手が止まる。


「……それ」


「初代シークレットガールズ」


「最近よく見てるね」


「うん」


莉央奈はリオを見る。


画面を見る。


またリオを見る。


「……何?」


リオが尋ねる。


「お母さん」


「なに?」


「LIZ☆って知ってる?」


「有名だったからね」


「会ったことある?」


リオが固まった。


自分自身に会ったことがあるか。


「ないよ」


「本当に?」


「本当」


莉央奈は画面を拡大する。


「この人さ」


「うん」


「なんかお母さんに似てない?」


時間が止まった。


リオは数秒、何も言えなかった。


「……私?」


「うん」


「似てないよ」


「目元とか」


「似てない」


「笑った時とか」


「偶然」


「髪型変えたら結構似そう」


リオは朝食を並べながら必死に平静を保つ。


「世の中、似てる人はいるよ」


「でもさ」


莉央奈はじっと母を見る。


「お母さん、昔の写真全然見せてくれないじゃん」


「そんなことないよ」


「中学生くらいの見たいって前も言ったのに」


「どこにあるか分からないの」


「本当に?」


「本当!」


「じゃあ今度探そうよ」


「時間ある時ね」


リオは笑った。


しかし内心は冷や汗。


見せられるわけがない。


中学生時代の写真。


そこにはLIZ☆として活動していた頃のものが大量にある。


娘に見せれば――。


一瞬で終わる。


◇◇◇


学校。


五人は教室へ入った。


「おはよう」


「おはよう!」


いつもの仲間たちが挨拶する。


早川翔太がスマートフォンを持って近づいてくる。


「なあ、昨日のシークレットガールズの配信見た?」


五人の顔が一瞬固まる。


「ちょっとだけ」


栞が答える。


「SHI☆めちゃくちゃ良かった!」


栞は心の中で。


――ありがとう。


「俺はLiZ☆」


別の男子が言う。


莉央奈は反応しないよう必死。


「MII♡でしょ」


女子生徒も加わる。


美羽も知らないふり。


そして小松日菜が美空のところへ来る。


「美空!」


「なに?」


「MIKU♪昨日最高だった!」


「……そ、そうなんだ」


「美空も見た?」


「少し」


「笑い方、美空に似てない?」


美空の顔が固まる。


「似てないよ!」


「そうかな?」


「絶対違う!」


日菜が笑う。


「なんでそんな必死なの?」


「必死じゃない!」


少し離れたところで悠斗が見ている。


やはり。


自分もMIKU♪を見た時、美空に似ていると思った。


その疑問はまだ消えていなかった。


◇◇◇


昼休み。


五人はいつものように集まった。


「ねえ」


栞が言う。


「みんなに聞きたいことある」


「何?」


莉央奈が尋ねる。


「最近……お母さん変じゃない?」


四人の動きが止まった。


「栞も?」


美空が言う。


「え?」


今度は栞が驚く。


結菜も頷く。


「私も思ってた」


美羽も。


「私も」


莉央奈は腕を組む。


「やっぱり?」


五人は顔を見合わせる。


美空が声を小さくする。


「うちのお母さん、ターンめちゃくちゃ上手かった」


「え?」


「普通にやってみてって言ったら、ピタッて止まった」


美羽も言う。


「うちはMII♡のダンス見て、どこが遅れてるか一瞬で分かった」


結菜。


「うちのお母さんは、五人で動きを合わせる方法を康熙コーチとほぼ同じこと言った」


栞。


「ステージで緊張した時の視線の置き方、すごく具体的だった」


そして。


莉央奈。


「うちは……初代LIZ☆に似てる」


四人が固まる。


「誰が?」


「お母さん」


「ええ?」


美空が声を出しそうになり、結菜が止める。


「声」


「ごめん」


莉央奈はスマートフォンを取り出した。


初代LIZ☆。


「ほら」


四人が画面を見る。


しばらく黙る。


美羽が最初に言った。


「……確かに」


「でしょ?」


栞も。


「目元、ちょっと似てる」


美空が驚く。


「本当だ!」


結菜はじっと写真を見る。


「でも二十五年前でしょ?」


「うん」


「リオおばさんの若い時を知らないから何とも言えないけど」


莉央奈は頷く。


「だから昔の写真見たいって言ったんだけど、全然見せてくれない」


五人が黙った。


何かある。


でも。


何なのか分からない。


美空が言った。


「まさかさ」


四人が見る。


「お母さんたち、昔アイドルやってたりして」


一瞬。


全員が静かになった。


そして――。


「まさか」


結菜が笑った。


美羽も笑う。


「五人とも?」


栞。


「偶然すぎるよ」


莉央奈も。


「だったらすごすぎ」


五人が笑う。


冗談。


そのつもりだった。


だが――。


その答えこそ真実だった。


五人の母親。


愛。


未紀。


麻子。


まや。


リオ。


その全員が。


二十五年前のシークレットガールズ。


EYE。


MORM。


YAH。


BEE。


LIZ☆。


本人だった。


◇◇◇


午後。


歴史。


崇道康熙が教壇に立つ。


「今日はここまで」


授業が終わる。


五人は康熙を見ていた。


康熙が気づく。


「……何だ?」


「何でもありません」


五人が揃って答える。


康熙が怪訝そうな顔をする。


そして教室を出る。


美空が小声で言う。


「康熙コーチに聞いたら分かるかな」


結菜が即答。


「駄目」


「なんで?」


「お母さんたちの昔のこと聞いてどうするの?」


「だって気になるじゃん」


栞も考える。


「康熙コーチって初代のこと知ってるよね」


莉央奈が言う。


「佐藤先生とも親戚だし」


美羽も。


「小林前社長とも繋がってる」


結菜は少し黙った。


確かに。


康熙なら、何か知っている可能性がある。


でも。


「今日は聞かない」


結菜が言った。


「なんで?」


「もし本当に何かあるなら、お母さん本人から聞きたい」


四人が静かになる。


莉央奈が頷く。


「それはそうかも」


◇◇◇


放課後。


芸能事務所。


五人はレッスン室へ入る。


康熙が待っている。


「揃ったな」


「はい」


「今日は新曲のフォーメーション確認」


「はい!」


五人が並ぶ。


音楽。


踊る。


SHI☆。


MIKU♪。


YUNA◇。


MII♡。


LiZ☆。


数回踊った後。


「ストップ」


康熙が言う。


「YUNA◇」


「はい」


「全体を見すぎ」


「分かりました」


「MII♡、一歩遅い」


「はい」


「MIKU♪、笑顔はいいが動きを忘れるな」


「はい!」


「SHI☆、もう少し前」


「はい」


「LiZ☆」


「ターン?」


「今日は違う」


「よかった」


五人が笑う。


康熙も苦笑する。


その時。


レッスン室の扉が開いた。


新社長だった。


「お疲れさまです」


「お疲れさまです!」


五人が挨拶する。


新社長はレッスンを見る。


そして壁には――。


初代シークレットガールズの写真。


五人は自然とそこを見る。


新社長が気づく。


「最近、初代が気になるのか?」


五人が反応する。


「はい」


莉央奈が答えた。


「特に何が知りたい?」


一瞬。


五人が顔を見合わせる。


美空が言いそうになる。


だが結菜が先に答えた。


「どんな中学生だったのかなって」


新社長は少しだけ表情を変えた。


「普通の中学生だったよ」


「本当に?」


「少なくとも父からはそう聞いている」


「学校では?」


栞が尋ねる。


「友達と笑って、勉強して、時には怒られて」


五人は自分たちを見る。


同じ。


美羽が尋ねる。


「家では?」


「そこまでは詳しく知らない」


新社長は五人を見る。


「どうして急に?」


「なんとなくです」


結菜が答えた。


新社長はそれ以上聞かなかった。


だが康熙と目を合わせる。


二人とも感じていた。


――娘たちが、少しずつ近づいている。


◇◇◇


レッスン終了後。


新社長と康熙だけが残った。


「気づき始めていますね」


新社長が言う。


「ああ」


「母親たちから何か?」


「相談は受けてない」


康熙は壁の写真を見る。


「でも時間の問題かもしれない」


「まだ話す時期ではありません」


「分かってる」


新社長は静かに言う。


「五人自身が二代目シークレットガールズとして、もう少し成長してから」


「その方がいいだろうな」


「初代の正体を知った時、自分たちが選ばれた理由を『母親の娘だから』だけだと思ってほしくない」


康熙が頷く。


今、五人は自分たちの力で努力している。


歌って。


踊って。


悩んで。


秘密を守って。


二代目として歩いている。


その自信を持ってから。


真実を知るべきだった。


◇◇◇


その夜。


五つの家。


ほぼ同じ時間。


五人の娘たちは、それぞれ母親を見ていた。


栞は愛を。


美空は未紀を。


結菜は麻子を。


美羽はまやを。


莉央奈はリオを。


自分たちの母親。


ずっと近くにいる人。


いつもと何も変わらない。


なのに。


何か知らない部分がある気がする。


◇◇◇


柴崎家。


「お母さん」


「なに?」


リオが洗濯物を畳んでいる。


莉央奈が隣へ座った。


「昔のこと聞いていい?」


リオの手が止まる。


「昔?」


「中学生の頃」


「いいよ」


「どんな子だった?」


リオは少し考える。


「普通」


「それだけ?」


「友達と遊んだり、学校行ったり」


「放課後は?」


危険な質問。


「……色々」


「色々って?」


「友達といたり」


嘘ではない。


シークレットガールズの五人といた。


「お母さん」


「ん?」


莉央奈はリオの目を見る。


「何か隠してる?」


リオの胸が締め付けられる。


「どうして?」


「なんとなく」


「隠してないよ」


「本当に?」


「本当」


莉央奈は少しだけ黙った。


そして笑う。


「じゃあいいや」


「うん」


莉央奈は立ち上がり、自室へ戻る。


リオはその背中を見つめた。


「……ごめんね」


小さな声。


まだ。


言えない。


でも。


いつか必ず。


◇◇◇


森川家でも。


「お母さんって昔、何か秘密あった?」


「秘密!?」


未紀が必要以上に驚いた。


「その反応怪しい!」


「何もない!」


「絶対何かある!」


「ないって!」


二人は笑いながら言い合う。


山本家。


「お母さん、昔五人組で何かしてた?」


麻子が固まる。


「どうして五人?」


「なんとなく」


「してないよ」


その答えに、わずかな間があった。


結菜は気づいた。


荒木家。


「BEEって、本当に知らない?」


「知ってるよ。昔有名だったから」


「会ったことは?」


「ない」


まやは娘から目を逸らす。


高野家。


「お母さんって歌ったことある?」


「カラオケなら」


「人前で」


愛は笑う。


「学校行事くらいかな」


栞は母親を見つめる。


どの家庭でも。


母親たちは秘密を守った。


しかし――。


娘たちは以前よりも、明らかに何かを感じ始めていた。


◇◇◇


数日後。


昼休み。


五人が集まる。


「やっぱり怪しい」


莉央奈が言った。


「うちも」


美空も頷く。


「聞いたら驚き方がおかしかった」


美羽も。


「BEEの話したら目逸らした」


栞。


「うちは人前で歌ったことあるか聞いたら、学校行事って」


結菜は少し考える。


「でも証拠はない」


「そうなんだよね」


莉央奈がスマートフォンを出す。


初代シークレットガールズの写真。


五人が一緒に見る。


EYE。


MORM。


YAH。


BEE。


LIZ☆。


二十五年前。


同じ年頃の五人。


美空が呟く。


「もし、本当にお母さんたちだったらどうする?」


誰も笑わなかった。


以前なら冗談として笑えた。


今は――。


少しだけ、可能性を感じている。


美羽が言う。


「でも五人全員って……」


栞。


「すごい偶然だよね」


結菜は静かに写真を見る。


「偶然じゃなかったら?」


四人が結菜を見る。


「私たちが二代目に選ばれたのも……」


そこまで言って止まる。


五人の表情が変わる。


なぜ。


五人だったのか。


なぜ。


自分たちだったのか。


新社長は、「候補として見ていた」と言った。


でも。


本当は――。


「……考えすぎかな」


莉央奈が言う。


「たぶん」


結菜は答えた。


だが。


誰も心から納得していなかった。


◇◇◇


その日の帰り。


五人は廊下を歩いていた。


向こうから康熙と美和。


「崇道先生」


「宍戸先生」


学校では普通の同僚。


五人はもう、その裏にある真実を知っている。


二人が婚約者だということを。


以前なら絶対に想像できなかった。


見えているものが、すべてとは限らない。


莉央奈が康熙とすれ違った後、ふと立ち止まる。


「ねえ」


四人が振り返る。


「私たち、先生たちのことも全然気づかなかったよね」


結菜が頷く。


「うん」


「ってことは」


莉央奈は少しだけ真剣な顔になる。


「お母さんたちにも、私たちが知らない顔があってもおかしくないよね」


五人は何も言えなかった。


それが――。


まさに真実だったから。


◇◇◇


夜。


五人の母親たちは久しぶりに集まっていた。


愛。


未紀。


麻子。


まや。


リオ。


「最近、聞かれてる?」


リオが尋ねる。


全員が頷く。


未紀がため息をつく。


「美空にターン見せちゃった」


「何してるの!」


まやが驚く。


「仕方ないじゃん!」


麻子も苦笑する。


「私は五人で合わせる方法聞かれて、普通に答えちゃった」


愛も。


「私もステージで緊張した時の話を」


まや。


「美羽はBEEの動画見てる」


そしてリオ。


「莉央奈は……LIZ☆が私に似てるって」


四人が静かになった。


「そこまで?」


未紀が尋ねる。


「うん」


リオは苦笑する。


「昔の写真見せてって言われてる」


麻子が言う。


「それは無理だね」


「絶対無理」


「一発で分かる」


五人は笑う。


でもすぐ、静かになった。


愛が言う。


「いつまで隠す?」


誰もすぐには答えなかった。


二十五年前。


自分たちは、自分がシークレットガールズであることを周囲から隠した。


二十五年後。


今度は――。


自分たちが元シークレットガールズだったことを、娘たちから隠している。


まやが言う。


「小林さんたちの考えもあるし」


麻子。


「娘たち自身が、二代目としてちゃんと歩けるようになるまでは」


未紀も頷く。


「うん」


リオは静かに言った。


「でも、いつかは絶対話そう」


四人がリオを見る。


「私たちの口から」


愛が頷く。


「そうだね」


「ちゃんと全部」


五人が顔を見合わせる。


二十五年前のこと。


初めて集まった日。


レッスン。


ステージ。


友情。


秘密。


そして――。


自分たちがEYE、MORM、YAH、BEE、LIZ☆だったことを。


その日が来たら。


母として。


そして初代シークレットガールズとして。


娘たちへ伝える。


◇◇◇


一方。


それぞれの家で。


娘たちはスマートフォンに映る初代シークレットガールズを見ていた。


SHI☆はEYE。


MIKU♪はMORM。


YUNA◇はYAH。


MII♡はBEE。


LiZ☆はLIZ☆。


なぜか自然と、自分の母親だったメンバーへ興味を持っている。


「……誰なんだろう」


莉央奈が呟く。


答えは。


すぐ近く。


同じ家の中にいる。


「莉央奈ー、早く寝なさい!」


階下からリオの声。


「はーい!」


莉央奈はスマートフォンを閉じる。


そして笑った。


まだ知らない。


その声の主が。


二十五年前――。


自分が今見ていた画面の中で笑っていたLIZ☆本人だったことを。


母親たちの最大の「シークレット」。


それはまだ守られている。


けれど――。


娘たちは確実に。


その扉の前まで近づき始めていた。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


第7話では、ついに二代目シークレットガールズの五人が、自分たちの母親へ本格的な疑問を抱き始めました。


これまでも時折、


「どうしてそんなに詳しいの?」


と思う場面はありました。


しかし今回は、その違和感が五人の中で一つに繋がり始めています。


高野愛は、ステージで緊張した時の視線の置き方を知っている。


森川未紀は、二十五年経った現在でも綺麗なターンができる。


山本麻子は、五人で動きを揃える方法を康熙コーチと同じように説明できる。


荒木まやは、MII♡のダンス映像を一度見ただけで細かな遅れを見抜く。


そして柴崎リオは――初代LIZ☆とあまりにもよく似ている。


それも当然です。


愛こそEYE。


未紀こそMORM。


麻子こそYAH。


まやこそBEE。


そしてリオこそLIZ☆本人なのですから。


けれど娘たちには、まだその事実は明かされません。


特に印象的だったのは、昼休みに五人が冗談半分で口にした、


「お母さんたち、昔アイドルやってたりして」


という言葉。


それこそが、まさに正解でした。


そして五人はさらに、


「私たちが二代目に選ばれた理由も、お母さんたちと関係しているのでは?」


というところまで近づき始めています。


一方、母親たちも娘の変化に気づいていました。


二十五年前は、自分たちがシークレットガールズであることを学校や友達から隠していた五人。


二十五年後の今は――自分たちが“元シークレットガールズ”だったことを娘たちから隠しています。


立場は変わっても、また五人で一つの秘密を守っている。


そして母親たちは最後に、


「いつかは絶対、私たちの口から話そう」


と決めました。


その日は、確実に近づいています。


けれど、まだ今ではありません。


娘たち自身がSHI☆、MIKU♪、YUNA◇、MII♡、LiZ☆として成長し、「自分たち自身のシークレットガールズ」を作り上げた時――。


二十五年間閉ざされてきた扉が、初めて開かれることになるのでしょう。


次回、第8話。


「幼馴染にバレる!?――莉央奈、絶体絶命!」


今度は母親たちの秘密ではなく、莉央奈自身の秘密が危機に。


幼い頃から莉央奈を知る陽向と琴音。


二人は以前から、


「最近の莉央奈は何かを隠している」


と感じています。


さらに、二代目LiZ☆を見た琴音が、


「莉央奈に似てる」


と言い始めたことで、秘密への距離はさらに縮まっていました。


そしてついに――。


学校では絶対に持っていてはいけない“あるもの”を、莉央奈が誤って持ち込んでしまうことに。


それを拾ったのは――陽向。


「……これ、どうして莉央奈が持ってるんだ?」


LiZ☆と柴崎莉央奈。


二つの顔が初めて繋がりかける、最大のピンチ。


二代目シークレットガールズの秘密は守れるのか――。


第8話へ続きます。


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