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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第十七話「ヨーゼフの畑と、庭の花」


出発の前日、マティアスは、庭師のヨーゼフの元を訪れた。

ヨーゼフは、畑仕事をしていた。

「マティアス様。明日、発たれるとか」

「そうだ」

「達者でお過ごしください」

「ああ」

マティアスは、しばらく、畑を眺めていた。

「この花は」

「名前のない花です。旦那様が、特別に育てるよう、仰せつかっておりまして」

マティアスは、驚いた。

「伯爵が、命じたのか」

「はい。もう、十年以上前からです」

マティアスは、その花を見た。

白くて、小さな花だった。

どこかで、見たことがある気がした。

だが、それがどこだったのか、思い出せなかった。


「なぜ、伯爵は、この花を」

ヨーゼフは、首を振った。

「存じません。ただ、育てるように、と」

マティアスは、しばらく、その花を見ていた。

「良い花だ」

「お気に召しましたか」

「……そうかもしれない」

マティアスは、その日、その花の種を一つ、懐に入れた。

誰にも、言わなかった。


つづく


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