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第十七話「ヨーゼフの畑と、庭の花」
出発の前日、マティアスは、庭師のヨーゼフの元を訪れた。
ヨーゼフは、畑仕事をしていた。
「マティアス様。明日、発たれるとか」
「そうだ」
「達者でお過ごしください」
「ああ」
マティアスは、しばらく、畑を眺めていた。
「この花は」
「名前のない花です。旦那様が、特別に育てるよう、仰せつかっておりまして」
マティアスは、驚いた。
「伯爵が、命じたのか」
「はい。もう、十年以上前からです」
マティアスは、その花を見た。
白くて、小さな花だった。
どこかで、見たことがある気がした。
だが、それがどこだったのか、思い出せなかった。
「なぜ、伯爵は、この花を」
ヨーゼフは、首を振った。
「存じません。ただ、育てるように、と」
マティアスは、しばらく、その花を見ていた。
「良い花だ」
「お気に召しましたか」
「……そうかもしれない」
マティアスは、その日、その花の種を一つ、懐に入れた。
誰にも、言わなかった。
つづく




