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第十六話「グレーテとの、別れの支度」
出発の一週間前、グレーテはマティアスの荷造りを手伝った。
必要最低限の衣類。
剣。
地図。
それだけだった。
「もっと、持っていかれたら」とグレーテが言った。
「必要ない」
「せめて、これを」
グレーテは、小さな布の包みを差し出した。
「なんだ」
「お守りです。私の母が作ったものです」
マティアスは、それを受け取った。
中には、小さな刺繍が施された布切れが入っていた。
「これは」
「花の模様です。名前は、ありません」
マティアスは、その言葉に、少し驚いた。
「名前のない花か」
「はい。母が、庭で育てていた花です。名前を、私も知りません」
マティアスは、しばらくその布切れを見ていた。
「持っていく」
グレーテは、少し微笑んだ。
「どうか、達者で」
「ああ」
「時々、手紙をください」
マティアスは、少し間を置いた。
「約束はできない」
「分かっています。それでも、書けたら」
「……考える」
グレーテは、それで十分だった。
つづく




