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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第十六話「グレーテとの、別れの支度」


出発の一週間前、グレーテはマティアスの荷造りを手伝った。

必要最低限の衣類。

剣。

地図。

それだけだった。


「もっと、持っていかれたら」とグレーテが言った。

「必要ない」

「せめて、これを」

グレーテは、小さな布の包みを差し出した。

「なんだ」

「お守りです。私の母が作ったものです」

マティアスは、それを受け取った。

中には、小さな刺繍が施された布切れが入っていた。

「これは」

「花の模様です。名前は、ありません」

マティアスは、その言葉に、少し驚いた。

「名前のない花か」

「はい。母が、庭で育てていた花です。名前を、私も知りません」

マティアスは、しばらくその布切れを見ていた。

「持っていく」

グレーテは、少し微笑んだ。

「どうか、達者で」

「ああ」

「時々、手紙をください」

マティアスは、少し間を置いた。

「約束はできない」

「分かっています。それでも、書けたら」

「……考える」

グレーテは、それで十分だった。


つづく


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