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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第十五話「伯爵との、最後に近い会話」


十三歳の秋、士官学校への入学が、正式に決まった。

伯爵は、その夜、マティアスを書斎に呼んだ。

書斎には、暖炉の火だけがあった。


「来月、士官学校へ発つ」

「聞いている」

「不安は」

「ない」

伯爵は、少し笑った。

「昔から、変わらんな」

「そうか」

伯爵は、しばらく、暖炉の火を見ていた。

「マティアス」

「なんだ」

「お前に、まだ話していないことがある」

マティアスは、少し身構えた。

以前、約束された言葉を、思い出した。


「お前の母は、楯の国の元・妃殿下だ」

マティアスは、動かなかった。

「父は、分からない。楯の国の王か、あるいは、別の国の王か」

「別の国とは」

「今は、それ以上は言わない。お前が、いずれ自分で知る日が来る」

マティアスは、しばらく黙っていた。

それから、静かに聞いた。

「母は、今、どこにいる」

伯爵は、首を振った。

「知らない。追放された後、消息を絶った」

「探そうとは」

「した。見つからなかった」

マティアスは、それ以上、何も聞かなかった。

聞いても、答えが増えないことを、分かっていた。


「なぜ、今、話す」

「お前が、これから、狙われ続ける理由を、知っておくべきだからだ。知らないままでは、守れないものがある」

マティアスは、頷いた。

「一つ、聞いていいか」

「聞け」

「なぜ、私を、引き取った」

伯爵は、しばらく答えなかった。

「頼まれたからだ」

「誰に」

「それは、言えない」

マティアスは、それ以上、聞かなかった。

「もう一つ」

「なんだ」

「後悔しているか」

伯爵は、初めて、はっきりと笑った。

「一度もない」

マティアスは、その言葉を、覚えておくことにした。


つづく


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