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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第十三話「初めて泣いた夜」


十三歳の初め、フェリクスが、稽古中に倒れた。

心の臓の発作だった。

すぐに医者が呼ばれたが、意識は戻らなかった。

三日後、フェリクスは亡くなった。


マティアスは、その報せを、書斎で聞いた。

執事が、静かに伝えた。

「フェリクス様が、先ほど、お亡くなりになりました」

マティアスは、何も言わなかった。

表情も、変わらなかった。

執事は、少し心配そうな顔をしたが、それ以上は何も言わず、部屋を出て行った。


その夜、マティアスは一人で、稽古場に行った。

誰もいなかった。

木剣が、壁に立てかけられていた。

マティアスは、それを手に取った。

素振りを、一つした。

二つ、した。

三つ目で、手が止まった。


涙が、出た。

理由は、自分でも分からなかった。

悲しい、という感情が、こんな形で出てくることを、それまで知らなかった。

声は、出さなかった。

出し方が、分からなかった。

ただ、涙だけが、静かに流れた。


グレーテが、稽古場の入り口で、それを見ていた。

声をかけなかった。

ただ、遠くから、見ていた。

やがて、マティアスは涙を拭い、木剣を戻し、稽古場を出た。

グレーテとすれ違う時、マティアスは何も言わなかった。

グレーテも、何も言わなかった。

ただ、小さく頭を下げた。

マティアスは、それに気づかない振りをした。

気づいていたことを、グレーテは知っていた。


つづく


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