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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第十一話「密偵事件、再び」


十二歳の秋、二度目の接触があった。

今度は、行商人ではなかった。

屋敷に新しく雇われた庭師見習いの一人が、実は間者だったことが発覚した。

数ヶ月かけて信頼を得た上での、周到な潜入だった。


発覚のきっかけは、些細なものだった。

その見習いが、マティアスの日課について、必要以上に詳しく他の使用人に尋ねていたことに、ヨーゼフが気づいた。

「お前、なぜそんなことを知りたがる」

「ただの、世間話です」

「世間話にしては、細かすぎる」

問い詰められた見習いは、逃げようとした。

捕らえられ、伯爵の前に連れて来られた。


マティアスは、その場に居合わせた。

「誰の差し金だ」と伯爵が聞いた。

見習いは、答えなかった。

「言え」

それでも、答えなかった。

最終的に、見習いは連行された。

その後、どうなったのか、マティアスには知らされなかった。


その夜、伯爵はマティアスを書斎に呼んだ。

初めて、伯爵は、正面からマティアスに向き合った。

「マティアス」

「なんだ」

「お前は、なぜ狙われるのか、知りたいか」

マティアスは、少し間を置いた。

これまで、何度も聞きたかった問いだった。

だが、今、目の前でそれを問われると、すぐには答えられなかった。


「……知りたい」

伯爵は、しばらく黙っていた。

それから、静かに言った。

「お前の血には、この国にとって、都合の良い意味を持たせられる。それだけだ」

「都合の良い意味とは」

「今は、それ以上は言わない」

「なぜだ」

「知れば、お前は、それを背負って生きることになる。今、それを背負わせるには、お前はまだ若い」

マティアスは、しばらく伯爵を見ていた。

「いつか、話すのか」

「いつか、必ず話す」

「約束か」

伯爵は、少し驚いた顔をした。

それから、頷いた。

「約束だ」

マティアスは、その言葉を、覚えておくことにした。


つづく


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