第十話「初めての遠征訓練」
十二歳になった年、フェリクスの提案で、マティアスは初めて、屋敷の外での野営訓練を経験した。
数日間、山中で、自分で火を起こし、食料を調達し、寝床を作る訓練だった。
初日、マティアスは火を起こすのに苦労した。
何度も失敗した。
フェリクスは、手を貸さなかった。
「自分でやれ」
「やっている」
「もっとやれ」
夜になる前に、ようやく火がついた。
小さな炎だった。
マティアスは、その炎を、しばらく見ていた。
「なぜ、こんな訓練をする」とマティアスは、その夜、フェリクスに聞いた。
「お前が、いつか、屋敷を出るからだ」
「屋敷を出る?」
「いずれ、士官学校に入ることになる」
マティアスは、少し驚いた。
「聞いていない」
「伯爵様が、まだお話しになっていないのだろう」
「なぜ、士官学校に」
フェリクスは、火を見ながら言った。
「軍の中では、身分よりも、実力が問われる」
「それが」
「お前にとって、都合が良い場所だ」
マティアスは、その言葉の意味を、まだ完全には理解できなかった。
ただ、何か、大きな決断が、すでに自分の知らないところで進んでいることだけは、感じ取った。
訓練の最終日、マティアスは一人で、崖の上から遠くを見た。
山々が連なっていた。
その向こうに、見たことのない土地が広がっているはずだった。
「あの向こうは」
「礎の国だ」
フェリクスが答えた。
マティアスは、しばらくその方角を見ていた。
理由は、自分でも分からなかった。
ただ、目が離せなかった。
つづく




