第七話「初めての剣」
九歳になった年、マティアスに剣術の教師がついた。
それまでの乗馬や礼儀作法とは、明らかに違う種類の訓練だった。
教師は、退役した軍人だった。
名を、フェリクスといった。
無口な男だった。
「なぜ、剣を習う」とマティアスは、初回の稽古で聞いた。
「伯爵様のご指示だ」
「理由は」
フェリクスは、木剣を渡しながら言った。
「理由を知る必要は、まだない」
「まだ、とは」
「今は、体を作れ。理由は、後からついてくる」
稽古は厳しかった。
毎日、朝と夕方、それぞれ一刻ずつ。
マティアスは、何度も打たれた。
何度も倒れた。
それでも、泣かなかった。
文句も言わなかった。
ただ、次の日も、同じ時間に稽古場に現れた。
「お前は、なぜ泣かない」とある日、フェリクスが聞いた。
「泣いても、痛みは消えない」
「それはそうだが」
「時間の無駄だ」
フェリクスは、少し驚いた顔をした。
それから、小さく笑った。
「九歳の言うことじゃないな」
「そうか」
「良い意味でも、悪い意味でもだ」
稽古が終わった後、マティアスは一人で、庭の隅で剣を素振りした。
誰に言われたわけでもなかった。
ただ、続けた方がいい、と思っただけだった。
グレーテが、それを見ていた。
「休まれないのですか」
「あと少し」
「無理をなさらないでください」
「無理はしていない」
グレーテは、何も言わなかった。
ただ、その素振りを、しばらく見ていた。
一つ一つの動きが、丁寧だった。
誰かに褒められることを、期待していない動きだった。
それが、少しだけ、寂しく見えた。
つづく




