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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第七話「初めての剣」


九歳になった年、マティアスに剣術の教師がついた。

それまでの乗馬や礼儀作法とは、明らかに違う種類の訓練だった。

教師は、退役した軍人だった。

名を、フェリクスといった。

無口な男だった。


「なぜ、剣を習う」とマティアスは、初回の稽古で聞いた。

「伯爵様のご指示だ」

「理由は」

フェリクスは、木剣を渡しながら言った。

「理由を知る必要は、まだない」

「まだ、とは」

「今は、体を作れ。理由は、後からついてくる」


稽古は厳しかった。

毎日、朝と夕方、それぞれ一刻ずつ。

マティアスは、何度も打たれた。

何度も倒れた。

それでも、泣かなかった。

文句も言わなかった。

ただ、次の日も、同じ時間に稽古場に現れた。


「お前は、なぜ泣かない」とある日、フェリクスが聞いた。

「泣いても、痛みは消えない」

「それはそうだが」

「時間の無駄だ」

フェリクスは、少し驚いた顔をした。

それから、小さく笑った。

「九歳の言うことじゃないな」

「そうか」

「良い意味でも、悪い意味でもだ」


稽古が終わった後、マティアスは一人で、庭の隅で剣を素振りした。

誰に言われたわけでもなかった。

ただ、続けた方がいい、と思っただけだった。

グレーテが、それを見ていた。

「休まれないのですか」

「あと少し」

「無理をなさらないでください」

「無理はしていない」

グレーテは、何も言わなかった。

ただ、その素振りを、しばらく見ていた。

一つ一つの動きが、丁寧だった。

誰かに褒められることを、期待していない動きだった。

それが、少しだけ、寂しく見えた。


つづく


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