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マティアス・クロイツァーその人。  作者: Kentarou Tou
第十一章 乳母と、クロイツァー伯と、旅立ちの日

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第三話「他の子供たちと、答えられない質問」


五歳になる頃、マティアスは初めて、他の貴族の子弟と交流する機会を持った。

近隣の男爵家の子供たちが、屋敷に招かれた。

遊戯室で、積み木や、木彫りの兵隊を使った遊びが行われた。


「マティアスの母上は」と、一人の少年が聞いた。

悪気のない、ただの好奇心だった。

マティアスは、少し黙った。

「……いない」

「亡くなったの?」

「分からない」

子供たちは、少し困った顔をした。

「分からないって、変なの」

別の少女が言った。

「うちのお母様は、いつも一緒にいるわ。マティアスのお母様は、どこにいるの」

マティアスは答えなかった。

何と答えていいか、分からなかった。

それまで、誰も、その質問をしたことがなかった。

グレーテも、伯爵も、あえて避けていた話題だった。

だから、マティアス自身、自分がどう感じるべきかさえ、分かっていなかった。


その日の夜、グレーテがマティアスの部屋に来た時、マティアスは寝台の上で、じっと天井を見ていた。

「マティアス様」

「……グレーテ」

「どうかされましたか」

「母は、どこにいる」

グレーテは、一瞬、言葉に詰まった。

伯爵の言いつけを思い出した。

「それは、伯爵様が、いずれお話しになります」

「いずれとは、いつだ」

「……分かりません」

マティアスは、しばらく黙っていた。

それから、静かに言った。

「分かった」

それだけだった。

それ以上、聞かなかった。

グレーテは、その夜のことを、長く覚えていた。

五歳の子供が、これ以上聞いても仕方がない、と自分で判断して、質問をやめた。

その諦め方の速さが、妙に心に残った。


つづく


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