第三話「他の子供たちと、答えられない質問」
五歳になる頃、マティアスは初めて、他の貴族の子弟と交流する機会を持った。
近隣の男爵家の子供たちが、屋敷に招かれた。
遊戯室で、積み木や、木彫りの兵隊を使った遊びが行われた。
「マティアスの母上は」と、一人の少年が聞いた。
悪気のない、ただの好奇心だった。
マティアスは、少し黙った。
「……いない」
「亡くなったの?」
「分からない」
子供たちは、少し困った顔をした。
「分からないって、変なの」
別の少女が言った。
「うちのお母様は、いつも一緒にいるわ。マティアスのお母様は、どこにいるの」
マティアスは答えなかった。
何と答えていいか、分からなかった。
それまで、誰も、その質問をしたことがなかった。
グレーテも、伯爵も、あえて避けていた話題だった。
だから、マティアス自身、自分がどう感じるべきかさえ、分かっていなかった。
その日の夜、グレーテがマティアスの部屋に来た時、マティアスは寝台の上で、じっと天井を見ていた。
「マティアス様」
「……グレーテ」
「どうかされましたか」
「母は、どこにいる」
グレーテは、一瞬、言葉に詰まった。
伯爵の言いつけを思い出した。
「それは、伯爵様が、いずれお話しになります」
「いずれとは、いつだ」
「……分かりません」
マティアスは、しばらく黙っていた。
それから、静かに言った。
「分かった」
それだけだった。
それ以上、聞かなかった。
グレーテは、その夜のことを、長く覚えていた。
五歳の子供が、これ以上聞いても仕方がない、と自分で判断して、質問をやめた。
その諦め方の速さが、妙に心に残った。
つづく




